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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第6章

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196話 胸の内の景色

 静まり返った応接室に、静かなベリスの声が響き渡る。


「もう、あまり覚えてはいませんが……俺の住んでいた村は、この町やプルガルドのように魔王軍が駐留するほど大きな村ではありませんでした。前線でありながらもそこまで戦火も激しくなく……だからこそ人間軍に狙われたのでしょう」

「……」


 語り始めたベリスの話を聞きながら、テミスはその言葉に胸がチクリと痛んだのを感じた。

 私欲の為に私の能力を奪おうとした憎き敵……ルークと戦ったあの戦場。その傍らにあった名も知らぬ小さな村。ルークが破壊したとはいえ、我々の戦いに巻き込まれたあの村は今、どうなっているのだろうか?


「――戦火に焼け出された俺は近所の夫婦に助け出され、人間領と魔王領の狭間……故郷を失った者達が溜まる集落へと移り住みました」

「……所謂、はぐれ魔族。というヤツか」

「はい。新たな両親の元で戦に出れる程度までに成長した俺は集落を出て旅人になりました。最初は、憎しみだけで……俺の両親を殺した人間達を殺す為……そんな気持ちがあったと思います」


 ふと、テミスがつらつらと自分の身の上を吐露するベリスに目を向けると、ベリスはどこか懐かしむような表情で目を細めていた。


「忘れもしません。俺一人の力でできる事なんて少ない……せいぜい、集落を襲うくらいしかできない……。人間領に向かいながらそう考えた時、昔、魔族である俺の本当の両親と、俺を育ててくれた両親が楽しそうに何かを語り合う光景を思い出したんです」

「……人魔の融和。その小さな芽すら、この下らん戦いは刈り取っていったのだな」


 柔らかな笑みを浮かべるベリスの目頭が微かにキラリと光る。心の奥底に刻み込まれた温かな光景……。それこそが、彼を彼たらしめるモノなのだろうか。


「それを思い出した時。俺は復讐を辞めたんです。よく考えれば、俺を育ててくれた両親だって人間ですから」

「……聡明だな。ただの雑兵にしておくには惜しい」


 うっすらと微笑んだベリスに、テミスはポツリと感想を漏らした。

 彼の身の上は、この世界の中でもかなり特殊なものだろう。人魔が醜く争うこの世界で、小さいながらもその融和を身近に感じ、それを破壊された……。

 しかし、彼は復讐の炎に焦がされる事無く、冷静に事実だけを汲み上げる視点を持っている。


「まぁ……やっぱりこうして魔王軍に入ったのは、憎しみを捨てきれなかったからかもしれません……。けれど、この町を見て確信しました。俺が求めて止まなかった町が……あなたは……十三軍団は俺の故郷の景色を蘇らせてくれた……。だからこそ、俺をこの町の為に使って欲しいんですっ!」

「フム……」

「軍団長……」

「テミス様……」


 最後には目に涙すら浮かべ、ベリスは拳を握って熱弁を締めくくった。それを眺めながらテミスが息を吐くと、両側から小さな声で副官たちの囁く声が聞えて来る。


「……なるほど。その胸に秘めたる想い、確かに受け取った」

「っ……! ではっ!!?」


 テミスが静かに答えを口にすると、緊張した面持ちでテミスの返事を待っていたベリスの顔が輝いた。そして、テミスの頭の後ろで、安堵するような二つの息が空気を揺らす。


「だが……その話がお前の嘘ではないと証明できるか?」

「っ――!!!」

「テミス様ッ!?」


 冷ややかなテミスの声がベリスを貫くと同時に、副官たちが抗議の声を上げた。


「なるほど。確かに感動的な話だ。動機としては十分だし、十三軍団(ウチ)にくればいい働きをするのだろう。だがな……私は軍団長なんだ。容易く獅子の身中に虫を招き入れる訳にはいかないんだよ」

「……ごもっともです! っ……ですから……俺と取引をしませんか?」

「貴様ッ――!」

「ほぅ……?」


 顔をひきつらせたベリスがそうテミスに問いかけると、弾かれたようにマグヌスが一歩踏み出そうとする。テミスはそれを片手で制すると、ニヤリと笑みを深めながらベリスを睨み付けた。


「取引ね……第二軍団であるお前が何を謳うのか少し興味があるな?」

「俺もテミス様も得する一石二鳥の取引ですよ……」


 ベリスはテミスの言葉にごくりと喉を鳴らすと、今にも震えだそうとする足や体を諫めながら、無理矢理笑みを形作りながら応じて見せる。


「俺の両親……育ての両親をこの町に住まわせてやってはくれませんか?」

「っ――! 生きているのかっ!?」

「ええ。貧しいながらも何とか暮らしています。……どうです? 俺は親孝行ができて、テミス様は俺の出自が確認できる……これ以上ないものだと思いますが」


 ベリスは更に口を歪めると、真正面からテミスの目を見返して静かに問いかけた。


「ハッ……よく言う……」


 テミスはその問いを聞くと、ベリスの目を睨み付けて鼻を鳴らしてみせる。

 結局のところ、この取引とやらはベリスに大きな利がある。確かに、十三軍団側としても多少の得はあるが、ベリスの得る利潤と比べれば微々たるものだ。


「だが……面白い。お前の胆力を称える意味でも、その取引を受けてやろうじゃないか」

「っ……! ありがとうございます。では、こちらを……」

「これは……?」


 静かに頷いたテミスが結論を出すと、ベリスは一つの封筒を取り出してテミスへと差し出して靜かに口を開く。


「ギルティア様より、追加の書類を預かって参りました」


 意味深に微笑んだベリスの声が、応接室に響いたのだった。

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