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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第31章

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2077話 その首千両首につき

「まずは……ありがとう。ネルードに住む者達と、僕たち治安維持隊を代表してお礼を言わせてくれるかな?」


 スイシュウは店内へと入って注文を済ませると、一拍の間を置いてからテミスに向き直り、深々と頭を下げて礼を口にする。

 そこには、いつもスイシュウが漂わせている飄々とした軽薄さは無く、真剣な面持ちが感じられた。

 だからこそ。


「……礼を言われる筋合いなど無い。私はただ、私のやりたいようにやっただけだ」

「けれどあのままじゃ、多くの民間人に被害が出てしまった。そのどうしようもない大惨事を防いでくれたのは、間違い無く君だよ……ネールちゃん」

「あの影武者の態度があまりに酷かったのでな、腹に据えかねただけだ」


 テミスも真正面からスイシュウの目を見据えて向き合い、偽る事のない本音を以て応じる。

 事実。あの時のテミスの頭の中には、あの場に集った群衆たちを守らねばという思いなど欠片も無かった。

 むしろ、あんな危険な手合いが出てくるような場所へ出向いた挙句、煽りに乗せられた馬鹿共など、痛い目を見て当然だとまで思っている。

 ただエツルドを騙っていたあの男の、傍若無人極まる態度と、己の本分を見失った行いが許せなかっただけで。

 それが結果として誰かの事を救っていようが、テミスの本意がそこに無かった以上、間違い無く感謝されるような行いではないはずだ。


「それでもさ。あの時の君にどんな意図があろうとも、僕達が君に救われた事に変わりはないよ。良いじゃない。減るものでもないし」

「フン……知った事か。それはお前達の運が良かっただけの話。お前達が、自分で勝手に救われただけだ」

「なら、勝手に感謝しておくことにするよ。さしあたっては、ここの支払いとかね」


 言うが早いか、鼻を鳴らすテミスに笑いかけたまま、スイシュウは素早く机の上の伝票を掠め取ると、止める間も無く自らの懐へと仕舞いこんでしまう。

 テミスとしては、腹の底の読めないスイシュウを相手に、安易に借りを作るような真似をしたくは無かったのだが……。


「んふふ……それじゃ、本題に入ろうか」

「っ……」


 テミスが言及するよりも早く、得意気な微笑みを浮かべたスイシュウが、機先を制して話を切り替える。

 それはまるで、テミスがやってみせたことに対する意趣返しのようでもあって。

 テミスは鼻白んだものの、話が本題へ移る事に関してはむしろ望むところで、口を挟む事なくコクリと頷いてみせた。


「その様子だと既に知っているだろうけれど、キミとアイシュちゃんには今、とんでもない金額の賞金がかけられているよ」

「ほぉ? ちなみにいくらなんだ? この首が賞金首となったのは知っているが、詳しい額までは聞かされなくてな」


 話を切り出したスイシュウに、テミスは悠然とした態度で質問を投げかける。

 上級将校を暗殺したとはいえ、所詮は影武者。とんでもない額と言っても、せいぜい多くても金貨十枚程度だろう。

 そうテミスは予測していたのだが……。


「アイシュちゃんが金貨千枚。キミが金貨千五百枚さ」

「んなッ……!!?」


 しかし、続けられたスイシュウの言葉に、テミスは堪え切れずに驚愕の声を零すと、目をまん丸に見開いた。

 金貨千五百枚。

 それだけの額があれば、贅にかまけた派手な生活さえ送らなければ、一生働かずとも食っていけるだけの金額だ。

 更にそこへアイシュの賞金も加わるとなれば、一攫千金を求めた連中が集って来るのも理解できる。


「ま……奴さんが本当に賞金を払う気があるかはわからないけどね。運が良ければはした金を掴まされてポイ、悪ければその場で始末される……。少なくとも、僕はそう睨んでいるよ」

「……呆れた。その読みが正しければ、考え無しにも程がある」

「全くだよ。信頼や信用ってのはお金じゃ買えないからね。いちどでもこういう事をしてしまったら、二度とネルードは賞金首という仕組みを使えなくなってしまう。だからこそ、君たちにはこのまま逃げ(おお)せて欲しいんだけれど……?」


 眉間に深々と皺を寄せてため息を吐いたスイシュウは、言葉を区切ると問いかけるような視線でテミスを窺い見た。

 確かに、現状を鑑みればテミス達にとって、このネルードに留まるのはかなりの危険が付きまとう。

 本当は支払われる事が無いにしても、掲示されている額が額だ。

 最悪の場合、テミスやアイシュの側に居るだけで、人質として狙われる危険性は跳ね上がるし、殺される可能性だって十分にある。

 故に、ここまで混乱を広げた事実を以て作戦完了と見做し、パラディウムまで引き上げるのが懸命な判断なのだろう。

 しかし……。


「フッ……愚問だな。今更退けなどするものか」

「……だよねぇ。そう言うと思ったよ」


 スイシュウの発した言外の問いをテミスは一笑に伏すと、皮肉気に頬を歪めて言い放ってみせる。

 そんなテミスに、スイシュウはゆっくりと長くため息を零してから、力無い苦笑いを浮かべたのだった。

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