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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第31章

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2075話 お尋ね者たちの昼餉

 エツルドの影武者の殺害。

 テミスとアイシュの為した大事件は瞬く間にネルード全域へと広がり、町全体を震撼させた。

 尤も、殺害された人物が影武者であったのは、この襲撃を読んでいたエツルドの戦略であったと、ネルード政府は主張している。

 同時に、反逆者であるアイシュの手配書が出回り、顔を隠していたテミスはあまり似ていない覆面姿の似顔絵の、名無しの襲撃者として手配されていた。


「やれやれです……お陰で参りましたよ。生死不明の手配首……おちおちと外も出歩けたものではありません」

「……戯れ言を。こうして普通に出歩いているじゃないか」

「変装をしてどうにか。です。面倒なんですよ? コレ、いちいち整えるのは。まぁ、あの子たちに色々と触って貰えるのは役得ですがね」

「やれやれはこちらの台詞だ。相変わらず、その変態っぷりは揺るがんな」


 だというのに、事件現場にほど近い波止場に位置する黄旗亭では、変装をしたアイシュとテミスが差し向かいで席に着いており、食卓には所狭しと料理が並べられている。

 二人は特に周囲を気にするそぶりを見せる事すらなく、和やかな雰囲気で談笑しているかのように言葉を交わしながら、その合間に各々好き好きに温かな料理を口へと運んだ。


「貴女も油断しない方が良いですよ。ほとんど容姿が知られていないとはいえ、背丈や体格などは特に細かに記されている……。治安維持隊は血眼になって探しているようで、似たような女の子を片端から捕らえているそうです」

「ハッ……!! 愚昧ここに極まれり……といった所だな」

「全くです。貴女は兎も角、この私がただの治安維持隊を相手に囚われる筈もありません」

「とはいえだ。少々煩わしいのは事実だ。私が耳にした噂では、どうやら先日どこぞの高名な賞金稼ぎがこの町を訪れたそうだ」

「……それは少々厄介ですね。時間をかければかけるだけ、あちら側の戦力は大きくなってしまう」


 時に木製のジョッキを傾けて飲み物を呷り、時に料理をつまみながら、アイシュとテミスは淡々と情報を交換していく。

 数日に一度。

 互いの状況の確認のため、アイシュとテミスはこうして顔を合わせる場を設けていた。

 だが、相手方の動きが活発である今、圧倒的に頭数で劣るテミスとアイシュは、必然的に守勢に回らざるを得なくなっているのだ。


「んむ……あぁ、あとこの一件でエツルド率いる親衛隊の一部が、正式に我々への対処にあたるそうで」

「妥当だろうな。自分の部下が殺られたんだ。噂に聞く奴の性格が正しいのならば、さぞかし怒り心頭だろうよ」

「でしょうね。ですが厄介なのはそれだけではありませんよ。政府からの報じられ方を見るに、恐らくですがエルクも関わっているでしょう」

「エルク? 聞かん名だな?」

「エツルドの副官ですよ。彼女はとても優秀なのですが、男の趣味が悪くて……。全くあんな男の何が良いやら……。怒鳴られ、殴られ、酷い目に遭っているというのに、何度私の所へ来ないかと誘っても、彼は私が居ないと駄目だから……! の一点張りでした」

「なんだそれは……典型的なDVカップルじゃないか」

「でぃー……? なんですって?」

「趣味が悪いにも程があるという意味だ。洗脳されているのか依存しているのかは知らんがな」


 アイシュから聞いた話を簡潔にまとめると、テミスは顔を顰めて深々と溜息を吐き、料理に伸ばしかけていた手をジョッキへと移して水を呷る。

 あちらの世界でも、どういう訳か最低最悪の感性を持つ男は、良くそういった類の女を傍らに侍らせていた。

 幼稚にして蒙昧。一分の同情の余地すらないクズであっても、自身がまさしく奴隷のような目に余る仕打ちを受けていても、それを受け入れてしまう現象は母性という名の本能が為した業なのか。


「……改めて聞いてみても、やはり欠片すら理解できんな」


 ともすれば、女に身に転じた今ならば理解できるのやもしれない。

 テミスの胸の内を僅かばかりそんな感情が過ったが故に、気紛れに自身の身に置き換えて想像してみたが、テミスが一秒たりとてそのような理不尽極まる仕打ちを堪えられるはずも無く、テミスの脳裏に思い描かれたエツルドの姿をした男役は、瞬く間に千々に刻まれて死んだ。


「全くもって同感ですよ。アレはまるで自制という言葉を知らない獣です。話が通じるなどとは思わない方が良い。私たちとは違う生き物です。本当に……忌々しい」

「……救いようのない変態のお前がそこまで言うか。ともあれ、敵であるのならば斬るまでだ。私のやる事は変わらんよ」


 表情を歪めてそう吐き捨てたアイシュに、テミスは苦笑いを浮かべて肩あを竦めてみせると、卓上で温かな湯気をあげている骨付き肉に、フォークを突き刺したのだった。

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