幕間 秘の守護者たち
サンたち公国革命団のアジトである乾ドッグに、テミス達が身を寄せた日の夜の事。
扉の軋む微かな音と共に、ごく細く差し込んでいた月の光が絶たれ、ドッグの中に暗闇が戻ってくる。
唯一明かりが零れているのは、ユウキとリコが様子を窺う為に、小さく開いていた船の出入口の扉だけだった。
「っ……。行った……ね……。上手く抜け出せたみたいだ」
「ほっ……お二人が無事みたいで良かったです。まさかこんなに暗い中を、明かりも無しに出て行くなんて思いませんでしたよ」
「ふふっ……気を抜くのはまだ早いと思うよ? ボクたちの仕事はこれからさ」
キィ……と。
テミス達を見送ったユウキは僅かに開けていた扉を閉ざすと、自分と肩を並べて胸を撫で下ろしているリコへ朗らかに告げる。
「っ……!! そ、そうでした!! 任されたお役目……頑張らないと……!!」
ユウキの言葉に、リコは小さく息を呑んで目を見開いてから、意を決したかのように自らの持ち込んだ荷物へと駆け寄り、そこでピタリと動きを止めた。
「うん……? どうしたの?」
「あ~……いえ……。頑張るとは言ったものの、どうしようかなぁ……って。お留守番とはいっても、私にできる事なんてお二人の無事を祈るくらいしか……」
「ふっふっふ……。まだまだだねぇ……。それがあるんだよ? ボクたちにもできる事が……! いや、ボクたちにしかできない事が!!」
「何ができるんですか!? 教えてください! 是非ッ!!」
荷物の傍らで物憂げに零したリコに、ユウキは不敵に笑ってみせると、胸を大きく張って勿体を付けて前口上を述べる。
すると、リコは即座に目を輝かせた目をユウキにむけて、力の籠った声で問いかけた。
とはいえ、ユウキ達の役目は、テミス達が今抜け出している事が、サンたちに露呈しないようにすること。
何も問題が無ければ、テミス達は無事の帰還を果たすだろうし、一番の理想は憂いを断つ為の備えであるユウキ達に、役目が回って来ない事なのだが……。
「折角だし、すっごいの作っちゃおう! その方が楽しいしねっ! リコ! 何か大きな布みたいなものはある? できれば二枚ッ!!」
「大きな布を二枚……ですか? でしたらこちらにッ!!」
「いよっしっ! それじゃあまずは、それをくるくる~っと丸めて、二人のお布団の中に入れておこう!」
「っ……! 人形を作るんですね! わかりましたッ!!」
「おっ……! よくわかったね!!」
「へへぇ~……。たまぁに士官学校の寮を抜け出す時に……ちょっとだけ」
「あははっ! なにその話! 面白そう! 聞かせてよっ!」
ユウキが興味津々といった様子で問いかけると、リコはにへらっと軽い笑みを浮かべて答えを返し、肩を並べて作業を始める。
そんなリコに、ユウキは満面の笑みを浮かべて問いを重ね、二人は手を動かしながら楽し気に言葉を交わし始めたのだった。




