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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第6章

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194話 愚者か賢者か

「足元を固める……とは言ってもなぁ……」


 数日後。テプローからファントへと戻ったテミスは、山のように高く積まれた書類を目の前にして唸っていた。


「はぁ……面倒くさい……どいつもこいつも大して変わらんではないか……」


 テミスは手の取った書類を傍らに投げ捨てると、机の上のティーカップを手に取ってコーヒーを啜る。これらの書類は全て、十三軍団へと移籍する事のできる連中のリストだ。だが、テミスが煮詰まっているのは量だけが問題ではなかった。


 ――最早。コレだけが癒しだな……。


 テミスは口に含んだコーヒーを飲み下すと、心の中で乾いた笑みを漏らす。だが、爽やかなコーヒーの苦みが舌を通じて煮詰まった脳を揺さぶったお陰か、いくばくか穏やかな気分になった。


「フム……美味いな?」

「ありがとうございます」


 いつもと異なる味にテミスがそう零すと、自らの机からテミスの前に進み出たマグヌスが柔らかく微笑んで礼を言った。


「かなりの難作業になるかと思い、いつもより濃くお淹れいたしました」

「……正解だマグヌス。見てみろ」

「はっ。失礼いたします。これは……」


 テミスがそう告げながら、先ほど脇へと放りだした書類を投げて渡すと、それに目を走らせたマグヌスの表情が苦いものへと変わる。


「どいつもこいつもやる気がない……それだけならマシなのだがな」

「十三軍団に移籍させられた暁には、退屈で平穏な暮らしを望みます……酷いですね……」

「そんなものは可愛い方さ。訓練と称して私を襲撃する……なんて書いている奴もいるさ」


 ギルティアの寄こした書類には、ご丁寧に十三軍団への抱負の欄があるのだが、そこには十三軍団や私への怨嗟……しまいには、魔導の研究の為に第二軍団への残留を懇願するコメントまで書かれている。


「正直。お手上げだ。こんな連中が配下に加わった所で、戦力増強どころか弱体化につながりかねん」


 書類を手に唸るマグヌスを眺めながらそう零すと、テミスは再びコーヒーカップを手に取ってその爽やかな苦みにリフレッシュを求めた。

 十三軍団の強みは、個々の練度の高さだけではなく、その柔軟性や連携にもある。人間と比べ、個々の能力が高い魔族は連携を軽視するが故、強靭な魔族たちが各々の隙や弱点をカバーして戦うこの連携戦術は、ある意味で十三軍団の要とも言えるだろう。

 そこに、こんなやる気の欠片も無いどころか、害意さえある連中を加えれば、連携が即座に瓦解するのは目に見えている。


「これならいない方がマシだぞ……。いっその事、いつかのドロシーじゃないが肉の盾にでもしてやろうか……」

「っ……! ご冗談を……」


 ため息交じりにテミスが吐き捨てると、ピクリと肩を跳ねさせたマグヌスが、引きつった笑みで応える。


「ククッ……マグヌス。お前今、一瞬だけ本気にしただろ?」

「そ……それはっ……」

「良いさ。責めている訳では無い」


 言いよどんだマグヌスに、テミスはニヤリと笑みを浮かべてその話題を水に流す。

 私には部下で遊ぶなんて趣味は無かったはずだが……私もいい加減この無駄な作業に嫌気がさしているという訳か……。


「失礼します。テミス様……お目にかかりたいと訪ねてきている者が居ますが……」


 軽い自己嫌悪に陥りながら、テミスが再び書類に手を伸ばしかけた時。執務室のドアが開いて、神妙な顔のサキュドが顔を出した。


「ん……? 丁度いい。誰かは知らんが、この地獄から救い出してくれるのであれば会う価値はあるか……」

「いえ……ですが……」

「ん……? 何だ?」


 嬉々として腰を上げたテミスを止めるように、視線を逸らしたサキュドが口ごもる。破天荒と傲慢と好奇心が辛うじて服を着て歩いているようなこの女がこんなにも言葉を濁すという事は、そこまで面倒な相手なのだろうか?


「いえ……その。面会を求めているのは第二軍団の者でして……」

「はぁっ……? 第二軍団は今、ヴァルミンツヘイムから出れないはずだろう?」

「はい。ですが本人曰く、ギルティア様からテミス様と話して来いとお言葉を賜った等と……」

「ギルティアが……?」


 サキュドの言葉に、テミスは眉をひそめて首を傾げて手元の書類の山へと視線を落とした。

 この書類を寄越したのはギルティア……もとい第一軍団の連中だ。無論、その内容の酷さは奴の耳にも入っているのだろう。それに、監視下にある筈の第二軍団の兵が、簡単にヴァルミンツヘイムを抜け出せるとは考えにくい。あるとすれば、ギルティアが本当にそのような命令を出したか、或いは……。


「まぁいい。ひとまず会ってから決めるとしよう。マグヌス、サキュド。お前達も来い」

「ハッ!」

「わかりました」


 テミスは頭の中に生まれた疑念に蓋をすると、マグヌスとサキュドに命令を下した。

 この状況下で私に会いにくる奴など、どちらにせよ馬鹿しか居ないと相場が決まっている。しかし馬鹿は馬鹿でも、読みが優れているが故に馬鹿に見える奴である可能性を捨てる訳にはいかない。


「まぁ……期待薄ではあるがな……」


 テミスは密かにそう呟くと、サキュドの案内に従って応接室へと向かうのだった。

2020/11/23 誤字修正しました

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