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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第30章

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2060話 獣狩の一撃

 朗々とよく通る声でテミスがエツルドを挑発すると、まるで時が凍り付いてしまったかのように、いまだテミス達の周囲に残っていた兵士たちが動きを止める。

 しかし、テミスが見据えた視線の先では、エツルドが己へ向けられた挑発に怒り狂うでもなく、ぽかんとした間抜けな表情を浮かべていた。


「ククッ……? どうした? やはりヒトの言葉は難しいか? ン……?」


 それを見たテミスは、巻き布で隠された顔にニンマリと意地の悪い笑みを満面に浮かべると、更に一言挑発を重ねる。


「あわ……わ……わぁっ……!!」

「ひっ……ヒッ……ヒィィッ……!!」


 挑発に挑発を重ねてはじめて、凍り付いていた兵士達は、己の眼前で起きているとんでもない事実を正しく認識したらしく、口々に恐怖の叫びをあげながら、一斉に蜘蛛の子を散らすように逃げ出していく。

 その様子こそ、普段のエツルドがどのような人物であるかを示す指標であり、逃げ出していく兵士達を横目に、テミスは小さく鼻を鳴らす。


「ッ……!! は……ハハッ……! 冗談にしちゃあ笑えねぇが、その声……お前女だな? フゥゥゥ~……。あぁ……たまにはそういうヤツを躾けんのも悪くはねぇ……」


 長い沈黙の後。

 エツルドはプルプルと身体を小刻みに振るわせながら、ひと目見てわかるほどの怒りを滾らせ、酷く引き攣った笑顔を浮かべ、辛うじてといった様子で言葉を紡ぐ。

 だが、テミスはニヤニヤと嗜虐的な笑みを浮かべて、胸の内で簡単を漏らす。

 どうやらエツルドが、相当な女好きというのは本当らしい。

 この類の連中は何より、自分の伸び切った誇り(プライド)を優先する。

 そんな男が、奇襲を仕掛けられた上に詰り煽られて覚える怒りは、相当耐え難いものであるはず。

 だというのに、エツルドは己が身を焦がす程の怒りを覚えて尚、性欲を糧に怒りに呑まれる事無く、ギリギリのところで平静を保ってみせたのだ。

 しかし……。


「おやぁ? どうやら、エツルドとかいう名の猿には、股間に脳味噌がぶら下がってるという噂は本当らしい。ハハッ! まるで魔獣だなッ!!」

「ッ~~~~!!!!!!」


 これでもかというほどに皮肉の込められた声で、テミスが更にエツルドを煽り立てると、一瞬で怒りのふり切れたエツルドが、もはや声にすらならない程の怒りの方向をあげる。

 そして同時に、遂に動いたエツルドの巨椀が、携えた剣の柄を固く握り締め、テミスを叩き切るべく高々と振り上げられた。


「遅い」

「ガァァァッ!!!」


 だが、テミスはすぐさまエツルドの動きに応ずると、淀みの無い動きで布を巻き付けた大剣を横薙ぎに鋭く振るう。

 けれど、放たれた斬撃がエツルドの身体を捉える事は無く、すんでの所でエツルドの身体を庇うように引き寄せられた、肉厚の剣によって阻まれ、猛々しい剣戟の音が奏でられた。


「ッ……めェんだよォッ!!!」

「ぐッ……!!?」


 更に返す刀で、テミスの斬撃を受け止めたエツルドが力任せに剣を振るうと、鍔迫り合いに堪え切れなかったテミスが圧し負け、ふわりと大きく跳び退がる。

 合わせた剣越しに籠められた力は、かつて相対したヤトガミの剛力を思わせるほどで。

 ビリビリと痺れる腕に舌打ちをしながらも、テミスは体勢を崩す事無く、再び布巻きの大剣を構えた。


「ラァッ……!!!!」

「――ッ!!」


 そこへ。

 間髪入れずに飛び掛かったエツルドが、振りかざした剣を轟然と叩き込む。

 微かに奏でられたのは、肉厚な剣に似合わぬ甲高い風切り音。

 瞬間。放たれた斬撃を受け止め切れないと即断したテミスは、構えた剣を退いて斬撃の軌道から身を躱す。

 だが、空を切ったエツルドの剣は猛然と地面を砕き、その衝撃によって放たれた地面の欠片が、無数の石礫となってテミスの身体を打ち据えた。


「見た目通りの怪力馬鹿めッ!! 鬱陶しいッ!!」


 しかし、たかが石礫如きに打たれた程度で動きを止めるテミスではなく、剣を振り下ろした事で、目と鼻の先に差し出される格好となったエツルドの頭へ、身体を捻り上げるようにして全力で大剣を斬り上げた。

 直後に響いたのは、ごずんッ!! というまるで巨大なゴムタイヤでも打ち据えたかのような鈍い音で。

 正体を明かせないが故に、剣に布を巻いていた所為で斬り捨てるには至らなかったものの、強烈な一撃がエツルドを打ち据えた。

 ただ力だけが自慢の馬鹿だったか。

 そう胸の内で零したテミスが大剣を担ぎ直し、エツルドに背を向けようとした時の事だった。


「はは……! 温い温い……効かねぇなぁ……?」


 そんなテミスの背を引き留めるかのように、低く不敵なエツルドの声が響くと共に、ぬらりと大きな手が鎌首をもたげたのだった。

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