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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第30章

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2059話 襲撃一閃

 欠片ほどの危機感も無く喚き散らしている群衆を押し退け、時には突き飛ばし、テミスはひたすら前へと疾駆した。

 ヤツはやる。

 遠目ではあったものの、怒りに満ちたエツルドの目を見たテミスは、一部の揺るぎも無くそう直感していた。

 それはきっと、かつて己が培ってきた経験からくるものなのだろう。

 ああいった眼はテミスにとって、よく見知ったものだ。

 思考には己の事しか存在せず、衝動のままに暴れ狂う、ヒトを模っているだけの知性なき獣。

 奴等は往々にして、人間が人間であれば有しているはずの常識の外に在る者。

 ただ自分が抱いた怒りのままに、無関係の者達を鏖殺するなど、奴等にとっては自身の衝動に従ったが故の当然の行動なのだ。


「チィッ……!! 邪魔だッ!!」

「うぉっ……!? うわぁぁッッ!?」


 スイシュウが宥めてはいるものの、そう長くは持たないだろう。

 このまま人垣をかき分けていたのでは埒が明かない。

 そう判断したテミスは、加減していた力を少し強めて未だ眼前に立ち並ぶ野次馬の背を押すと、少なくない悲鳴と共に僅かに道が開けた。

 ともすれば、今の一押しで怪我人が出ているやもしれない。

 だが、全員皆殺しにされるよりは遥かにマシだろうし、元よりテミスはこの場の人々の命を守る為ではなく、傍若無人に力を振るわんとするエツルドを斬るために駆けているのだ。


「うるせぇッ!! 退けェッ!! 手前ェから殺すぞォッ!!」

「ウッ……!! いかんっ……!!」

「……クズがッ!!」


 そうしてテミスが駆け目指す先から、野太い怒りの咆哮と共に、スイシュウの者らしき焦りを帯びたうめき声が聞こえてくる。

 テミスの前に立ちはだかる人混みはもう薄い。

 だが、このまま人混みの中を駆けていてはどう足掻いても間に合わない。

 そう直感したテミスは苛立ちを吐き捨てると、だんッ! と強く地面を蹴り抜いて宙へと跳び上がった。


「っ……!!」


 人混みを跳び越して一気に開けた視界。

 そこでは、スイシュウの制止を振り切ったエツルドが、腰に提げた武骨な剣を抜き放たんとしている所で。

 しかし、エツルドの腕に薙ぎ払われたらしいスイシュウが必死の形相でその背に食らい付くも、最早その程度の力では制止の役を担うことはできておらず、ただ怒りのままに突き進まんとするエツルドに引き摺られるだけの格好になっていた。


「……止むを得んか」


 空中で静止した僅かな時間の間に、テミスは静かに呟きを漏らすと、身体が落下を始めるまでの刹那の間に、人混みの中へ視線を走らせて、最も有用な『足場』を探し出す。

 よほど熱量があるのだろう。

 野次馬たちの中をテミスと同じく前へとかき分けて進む、少し華奢ながらもしっかりとした肩。

 そこへ狙いを定め、テミスはクルリと身を翻し、誰とも知らないものの肩の上へと着地した。


「――ッ!? なん……」

「フッ……!!」


 テミスの足場となった者は、当然ながら驚きと困惑の声をあげる。

 だが、テミスは足場とした者になど一瞥たりともくれず、足場とした肩を更に蹴って推進力へと変え、人垣の上を飛び越えながら背負った布を巻き付けたままの大剣を振りかざすと、一直線にエツルドへ斬り込んだ。


「ムゥッ!!?」

「なぁっ……!?」


 直後。

 ガギィィンッ!! と。猛々しい金属音が鳴り響き、猛然と斬りかかったテミスの一撃を、抜き放ったエツルドの剣が受け止めた。

 露となったエツルドの剣は、剣というよりも両刃の鉈に近い形状で。

 アイシュの振るっていた剣と同じく、禍々しさを感じさせる肉厚なエツルドの剣と、テミスはそのまま空中で数秒間鍔ぜり合った後、クルリと宙で身を翻して弾き返すべく加えられた力を受け流す。


「ハッハァッ……!! 偶には、こんなクソ面倒な所まで来てみるモンだなァ……!!」

「…………」

「君はッ……!!」


 ヒラリと身軽に地面へ降り立ったテミスに、エツルドは凶暴な笑顔を浮かべて嘲るように喚き立てる。

 その傍らでは、大きく目を見開いたスイシュウが、驚愕に染まった顔でテミスの方を眺めていて……。

 しかし、テミスが布を巻き付けた大剣を構えたまま、相対したエツルドから視線を逸らし事は無く、反応を見せたスイシュウに一瞥すらくれる事は無い。

 だがそれでも、テミスが握る布巻きの大剣は、スイシュウにとっても記憶に新しいはずのもので。


「ッ……!! すまないッ……!! ……皆さんッ!! 文句はあとでッ!! ここは危険です!! 下がって!! 下がってくださいッ!! ホラ、君たちもッ!! さっさとしないと、ボクたちも巻き込まれちゃうよォ!!」


 顔を布で隠していようとも、スイシュウは瞬時にテミスの事を『ネール』だと認識したらしく、絞り出すような礼と共に僅かに頭を下げた後、即座に駆け出して集まった野次馬とその人垣を留めていた兵士たちの誘導を始めた。


「お前……今、あの連中を殺そうとしただろ?」


 一瞬にして群衆たちがパニック委に陥る中。

 テミスは大剣を構えたままエツルドを睨み付け、低い声で唸るように問いかけた。


「だからどォした! あいつ等は事もあろうか俺に逆らいやがった! 死んで当然だろォが!!」

「ハハハッ……!! 清々しいまでの脳無しだな。いいや? 獣畜生に言葉が通じているのだ。賢いと褒めてやるべきか」


 テミスの殺意が籠った冷ややかな問いに、エツルドが猛然と答えを吠える。

 そんなエツルドの眼前で、テミスは高らかに笑い声をあげると、大剣の切っ先をエツルドへと突き付けて挑発して見せたのだった。

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