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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第30章

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2057話 力と知性

 この場で得られる情報はもう無い。

 むしろ、この事故の処理のために起こる面倒を避けるべきだろう。

 そう判断したテミスが、早急にこの場を離れるべく、一歩を踏み出した時だった。


「オイオイオイオイッ!! 俺が着いて早々、一体全体コイツは何の騒ぎだァ……?」


 テミス達の居る場所とは離れた位置に口を開いている街路から、荒々しい大声と共に、整然と並ぶ一団と粗雑な印象を受ける筋骨隆々の大男が姿を現す。

 服装から察するに、大男が従えているらしき一団はネルードの軍に属する者達のようで。

 つまるところ、それを従えているあの大男は、部隊長か何かなのだろう。


「っ……!!」

「ッ……!! まさか……!! 何故、奴がここに……!?」


 眉を顰め、あの手の輩など視界に入れる事すら煩わしい。と。

 テミスは歩を緩める事無く、その場から立ち去りかけたのだが。

 声の元を振り返ったユウキが息を呑み、驚きの表情を浮かべたノルが掠れた声で言葉を漏らす。


「……何者だ? アレは」


 それに気付いて漸く、テミスは足を止めて大男の方を振り返ると、低い声で二人へ問いかけた。


「ッ……! 彼がエツルドです!! 顔を見られてはまずい……! リコ!!」

「は……はいっ……!!」

「ぶっ!? な……なんだ……?」


 顔を伏せたノルはひそひそと鋭い声でテミスの問いに答えると、そのまま傍らで呆然と立ちすくんでいたリコの名を呼んだ。

 すると、ビクリと反応を示したリコは、慌てて自身の荷の中を漁った後、取り出した布の塊のようなものを勢い良くテミスへ押し付けた。


「覆面代わりの巻き布です!! 頭と……顔を隠して下さい!!」

「そんな馬鹿な事ができるか! 怪し過ぎるだろう……!」

「良いから早くッ!! 彼は女好きで有名なんです! 町から気に入った女性を問答無用で連れ帰っていると……!! 私達は兎も角、その髪は目を付けられてしまいます!」

「……なるほど」


 ぐいぐいと布塊を押し付けるノルに、テミスは顔を顰めて反論するも、続けられたその訳に納得して大人しく従った。

 普段であれば、そのような事など知ったことかと吐き捨てるのだが、今は仮にも潜入中である身だ。

 加えて、テミスは自身の持つ白銀の髪が目立つ事は自覚している。

 そういう意味では、女好きらしいエツルドの興味を惹いてしまう可能性は高く、今は身を隠すのが得策だろう。


「なにィ……? チッ……!! 間抜けが……!! 船が勿体ねぇ!!」


 テミスが受け取った巻き布で素早く顔を隠している間に。

 遠くではエツルドが現場の兵から事情を聴いたらしく、周囲を憚る事なく苛立ちの籠った声をあげていた。

 だが、アレが本当にエツルドであるというのならば、アイシュと同格のであるはずなのだが……。


「……ただの阿呆にしか見えん」


 遠目にエツルドを見据えながら、テミスは静かに目を細めると呆れ声と共に溜息を漏らす。

 言動は粗野にして短慮。これ程の群衆が集まっているにも関わらず、周囲の反応を歯牙にもかけないあの態度はあまりにも傲慢で愚かしく、変態でこそあったものの手強い敵であった、あのアイシュと同格にはとても見えなかった。


「私も同感ですが、侮らないで下さいよ? 噂では、純粋な戦闘力だけならあのアイシュ以上だと」

「だろうな。知能が足りない分は力で補っている。そういう類だ」

「あはは……ソレ、絶対本人の前では言わない方が良いですよ?」

「怒るだろうねぇ~……すっごく」


 アイシュの忠言に、テミスは情け容赦なく断言すると、傍らで話を聞いていたユウキとリコが揃って苦笑いを浮かべる。

 事実を述べられて逆上するのならば、それこそがまさに度し難い愚物であるという何よりの証左と言えるだろう。

 とはいえテミス達としては、現時点ではエツルドと顔を付き合わせて会話をする事は愚か、視界の端に留まる事すらまずい状況なのだ。


「……奴がどう思おうが知った事ではない。ともあれ、面倒事は避けた方が良さそうだ。今のうちに行くぞ」

「わかった! でも、絶対に目立たないようにね!」

「退路は既に。こちらです」

「わわっ……! 置いて行かないで下さいねっ……!?」


 エツルドから視線を逸らしたテミスが指示を出すと、まずはノルが先頭に立って道を示し、ユウキとリコがそれに続く。

 そして殿のテミスが、三人の後に続いた時だった。


「オイアンタッ!! そのナリしてるって事ぁお偉いさんなんだろ!? どうなってんだよォ!! あの船はッ!」

「そうだそうだ! 人が一人死んじまったんだぞ!! アンタらこの責任はどう取るんだッ!! えぇっ……!?」


 野次馬の中からひと際通る怒声が響いたかと思うと、波止場に集った人々は皆、姿を現したエツルドに、口々に怒りを訴え始めたのだった。

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