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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第30章

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2053話 ゆっくり急げ

 サンは弟分から報告を受けると、更に情報を仕入れてくると言い残し、テミス達の元から飛び出していった。

 一方、治安維持隊の捜索している魔獣が、恐らく朝に水路を突破した自分達であると察したが故に、テミスは鷹揚な調子で、ノルは酷く気まずそうに、その場に腰を下ろす。

 その様子を横目で眺めたユウキ達も、既に苦笑いを浮かべており、二人はテミス達がどんな方法でテルルの村とここを行き来したかは伝えられていないものの、ある程度の事情は察したとその表情が物語っていた。


「ふふっ……相変わらず、無茶をしたみたいだね?」

「相変わらずとは何だ。私はただ、その場で取り得る最善手を打ったのみだ」

「……生きた心地がしませんでしたよ。もう懲り懲りです」

「あははぁ~……ちなみに、詳しくお話を聞いても?」

「…………」

「好きにしろ」


 ユウキとリコの興味津々な追及に、ノルはテミスへと確認を取るかのように視線を送る。

 その無言の問いに、テミスはぶっきらぼうに言葉を返した後、静かに目を瞑って意識を思考へと向ける。

 治安維持隊が大勢出張ってきたのは想定外ではあったものの、侵入者ではなく魔獣と目されている点については嬉しい誤算だった。

 強引に水路を突破した以上、数日間は湾岸区域に警戒態勢が敷かれるだろうとは覚悟していたが、この分ならばそういった方面への警戒も必要無いらしい。

 とはいえ、間近に治安維持隊が大勢うろついているのも確かな事実で。

 安易に外を出歩けるような状況でない事だけは間違いない。


「はぇぇ……そんな事が……」

「あははっ! 思っていたより豪快だなぁ……! いいなぁ……羨ましいよ! ボクも行きたかった!」

「もしも次回があれば是非。お役目は喜んでお譲りしますので」

「相当……だったんですね……。でも、ちょっとだけ気持ちよさそうかも?」

「ッ~~~!!! それは!! あなたが!! 船の事を知らないからッ……!!」

「わぁぁっ……!! ごめんなさい! ごめんなさい!!」

「いいですか? 船というのは本当に脆いんです!! 船底に穴が開いてしまえば終わりなんです! ですから船を動かす時は海図を読むだけでなく、目視でも警戒を絶やす事無く見張るのが基本!! それほどまでに危険なんですよ!!」


 思考を巡らせるテミスの傍らでは、つらつらと我が身に降りかかった災難を語るノルの話に、ユウキとリコがそれぞれに感想を漏らしている。

 だが、二人の暢気な感想すら、未だに傷が癒えきっていなかったらしいノルの琴線に触れたらしく、ノルは溢れ出すかのように艦艇の危険を語り始めた。

 その講義を流し聞きしながら、テミスは苦笑いを浮かべて腕組みをすると、現状を打破すべくさらに思考を先へと進める。


「…………」


 治安維持隊がこの一帯を去るまで、身を隠してやり過ごすのは簡単だ。

 だが、居るはずも無い魔獣の捜索に連中がどれだけの時間をかけるかは未知数だし、その間にアイシュ諸々の騒動が片付いてしまう可能性もある。

 テミス達の目的を考えるのならば、情報収集だけでも一刻も早く行っておくべきだろう。

 とはいえ、情報収集もまずは眼前の治安維持隊を躱さなければ何も始まらない訳で。

 気付けば安全と目的が相反する、厳しい状況に立たされていた。


「でもでも! お二人ともこうして無事に戻って来られたって事は、その辺りの事もしっかり気を付けていたっていう事なんじゃないですか?」

「……本気で言っていますか? それ。どうやって気を配れば、どこに暗礁が隠れているかもわからない陸近くを、目を開けていられない程の速度を出せるんですか? 水路への侵入もそうです! 偶然まっすぐ走れたから良かったものの、横波でも受けて少しでも舵がずれていたらっ……!! ゆっくり急げ! 水上での行動はこれが鉄則なんです!」

「フム……そうだな。それしかあるまい」

「へっ……?」


 傍らで行われている熱の籠った講義に、テミスはパチンと指を鳴らすと、己の内で蟠っていた逡巡を全て打ち消した。

 だが、テミスの思考など露すら知らないノルは、ニヤリと不敵に微笑むテミスを振り返りながら、ただただ首を傾げて戸惑うばかりで。


「ククッ……。ゆっくり急げ……至言だな。尤も、これから我々が向かうのは湖の上ではなく、陸の上での作戦行動な訳だが……」


 そんなノルに、テミスはクスクスと喉を鳴らして笑ってみせると、ユウキ達を手招きしてこれからの作戦行動を伝えたのだった。

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