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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第30章

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2049話 苦心を知る者

 互いに一通りの状況報告を終えたテミスとロロニアは、ノルの淹れたお茶をゆっくりと啜り、人心地を付けた。

 ロロニアにとって、パラディウム砦の騒動はうんざりするほどに酷く面倒な出来事だった。

 何故なら、新たに島へと送り込まれてきた者達は皆、ロロニアたちが湖族であるというだけで顔を顰めて去っていくか、傲慢な態度で喧嘩を吹っかけて来るかに分かれており、特に湖族の頭であるロロニアには、その立場ゆえかやたらとそういう輩が多いのだ。

 一方でテミスにとっても、現在は潜入任務を帯びている都合上、身を寄せているサンたちも完全に味方とは言い難く、必要以上に気を張っている必要がある。

 故に。こうして最低限の警戒だけをしていればいいという環境は、今のテミスにとって得難い貴重な時間であり、張り詰めた気と凝り固まった肩を解す無二の瞬間なのだ。

 

「ハァ……ったく……。お前が羨ましいよ」

「ハァ……そっちが羨ましいぜ……」


 だからこそ……なのだろうか。

 テミスとロロニアは同時に深くため息を吐くと、全く同じ意味の愚痴を零した。

 その瞬間。二人は驚いたかのように目を丸く見開いて顔を見合せた後、同時に顔を背けて笑い始める。


「ハハハッ……!! 俺には俺の、アンタにはアンタの苦労があるって訳か……」

「確かに……サキュドの戦いを見物したくはあったが、フリーディアや他の有象無象のお守をせねばならんと思うと反吐が出る。同情するぞロロニア」


 ひとしきり笑い合った後。

 テミスとロロニアは互いに頷き合いながら、まるで初対面の時にいがみ合っていたのが嘘であるかのように穏やかな微笑みを交わす。

 互いに苦労から逃れて辿り着いた平穏の場所。

 各々が抱える苦しみを持ち込んでまで、代え難き平穏を壊すのは愚か者の所業と言えるだろう。


「なら、次回からは提示報告の日時は定めるが、お前達が居なかった場合はこの拠点で合流を待っているとしよう」

「あぁ……それが妥当だろうな。今回の物資もこの拠点に保管しておいて構わない」

「了解だ。だが……」

「……? どうした?」


 おおかたの情報交換と決めごとが終わった所で、ロロニアは僅かに言葉を濁すと、ついとテミスから視線を逸らした。

 それは普段、物怖じしないロロニアからは考えられないほど弱気なもので。

 テミスは大きく首を傾げてみせると、胸中の好奇心を隠す事無く問いかける。


「あぁ……その……なんだ……。アイツ等の頭として、言う辛いことではあるんだが、昔っから船乗りってヤツはゲンを担ぐ連中が多くてな……」

「んん……? すまない。話が見えない。ゲンを担ぐ……結構な事だと思うが?」

「いや、そうだ。あぁ……悪いことじゃねぇんだがよ……。俺もこう見えて、大概に暇って訳じゃあねぇ」

「フム?」


 口ごもりながら、慎重に言葉を選んで告げるロロニアに、テミスは真意を受け取る事ができずに問いを重ねた。

 しかし、ロロニアがそんなテミスに不快感を露にする事は無く、寧ろ所在無さげにガシガシと前髪を掻き上げ、再び視線を室内へ彷徨わせた。

 故に、テミスは僅かにもどかしさを覚えたものの、ロロニアに語る意志がない訳ではないと判断し、曖昧な相槌を打って先を促してみせる。


「っ~~~!! ハァ……。情けねぇと思うだろうがな、俺以外にこのテルルの村に留まりたがる奴は居ねぇだろう。俺も湖族の頭として、キッチリと仕事はさせるべきなのは承知している。だが……こればっかりはな……」

「ン……? あぁ……そういうことか。理解した。つまり、このテルルの村の不可解で不気味な噂。それに怖気づ……それ故に近付きたがらないと」

「お気遣いどうも。だが、そこまで言っちまったんなら訂正しないでくれ。逆に惨めだ」

「クク……これは失礼した」


 そうして待つこと数秒。

 ロロニアは遂に重たい口を開くと、逡巡の理由を語り聞かせた。

 それを聞いたテミスはクスリと笑みを浮かべて再び頷き、真っ直ぐにロロニアを見据えて皮肉を投げかける。

 だが、まごう事無き真実であるが故に、ロロニアがテミスに抗弁する事は無く、代わりにじっとりと湿った抗議の視線を向けた。


「だから文書……は危ねぇか……。何かしら代替の連絡手段も確保しておきてぇが……」

「いや。それも問題無いだろう」

「……何か策があるのかよ?」

「策ではない。この情報はまだ未確認なのだがな。このテルルの村の住人が一夜にして消え失せた事件。どうやら、ネルードが擁するアイシュと同格の奴が絡んでいるらしい」

「ッ……!? 何だって……!? 詳しく聞かせろ。湖族(ウチ)にはこの村出身の奴も居るんだ」

「……重ねるが、この情報は未確認のものだ。確度が低い。ロロニア。それを前提として精査しろ」

「っ……! すまねぇ……。わかった。事によっては、裏が取れるまで俺で留めておく」

「是非そうしてくれ。先走られては堪らんからな」


 ガタッ……!! と。

 テミスの前置きを聞いたロロニアは途端に顔色を変えると、前のめりに激しく問いかける。

 直後に語られたその理由を聞いたテミスは、僅かに眉を顰めた後で、冷静な声色でロロニアに念を押すと、サンから聞いた情報を語り聞かせたのだった。


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