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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第30章

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2047話  帰らぬ人々

 静寂に包まれたテルルの村にテミス達が到着したのは、ちょうど日が昇る直前のことだった。

テルルの村は相も変わらず人気が無く、テミス達が拠点と選んだ家屋も、何一つ変わらぬ姿で佇んでいる。


「この村全ての人たちが……たった一人に……」

「……サンの話を信じるならば。だがな」

「とても嘘を吐いているようには見えませんでしたが……」

「あぁ。あの怒りは紛れもなく本物だ。奴自身は嘘を吐いてはいないだろう」

「でしたら……何故……?」

「…………」


 ボロボロの小舟から無事に上陸を果たしたテミス達は、パラディウム砦から来た時と同じく、朝靄に包まれた町を眺めながら、静かに言葉を交わす。

 傍らに立つノルの言っている事は、情報の真偽はともかくとして尤もで。テミスは静かに頷いて同意を示した。

 だが、たとえサンの言葉が本当であったとしても、語った情報が真実であるとは限らない。

 サンが如何にして、エツルドなる者がテルルの村を滅ぼしたという情報を手に入れたのかまでは不明である以上、テミスたちはあくまでも又聞きの不確定情報として扱わざるを得ない。

 テミス個人としては、自分自身を含む転生者の持つ力の存在や、アイシュの振るってみせた呪法刀の威力を目の当たりにしている事もあり、十中八九真実であると当たりを付けてはいるのだが……。


「……ならばお前は、村中の屋内外に点在する人間を、同時に、全て、無力化する術は思い付くか?」

「っ……!! ……噂に聞く魔族たちの広域殲滅魔法くらいでしょうか。ですが……」

「あぁ。家屋など一つたりとも残りはしない。あたり一面焼け野原だな。それどころか、今こうして我々が経っている地面すら残っているかも危うい所だ」

「なっ……!? まさか……それほどまでの威力が……!?」

「あぁ……。あれはいつだったか……何処ぞの性悪魔女に、背後から撃たれた時は流石に危うかった」

「っ……!!?」


 自身の問いに案を捻り出してみせたノルへ、テミスはかつての戦場での出来事を思い返しながら語った。

 彼の第二軍団長の魔法ですら、家屋に傷一つ付ける事無く、一体に住む人間のみを消し去るなどという芸当は不可能だろう。

 とはいえ奴には、そもそも戦いにおいてそんな面倒な事をする必要が無かったというだけで、可能か不可能かと問えば、意地でもある程度の魔法を引っ張り出しては来そうなものだが……。


「だが……ただの人間であるはずのエツルドとやらが、そのような力を持っている道理は無い……はずなのだがな」

「っ……!! 冒険者将校……ですか……」

「その類いの連中が、何かしらの形でからんでいるのはまず間違いないだろうな。その矛先が何故、魔族ではなく同胞であるはずのロンヴァルディアへ向いているのかは不思議なものだが」


 現状で集まっている情報を基に、テミスはノルの問いに答える形で推測を組み立てていく。

 冒険者将校……つまりはテミスと同じ何がしかの能力を持った転生者。

 現状で最も確率が高いのは、アイシュが先生などと呼んでいた、今のネルードを支配している人物だろう。


「ま……確定的な情報が少ない今、推察はほどほどにしておこう。まずはエツルドとやらも大事だが、アイシュの動向が先だ」

「はい。それにしても……ロロニア殿は遅いですね……? 何か問題が発生したのでしょうか?」


 話し込んでいる間に陽は昇り、温かな光がテルルの村を照らし出し始める。

 ロロニアとの約束では、陽が昇る前には到着している筈なのだが……。


「クス……立ち聞きとは感心せんぞ? ロロニア」

「へっ……!?」

「……チィ。気配は完全に殺していたと思ったんだがな……流石だぜ」


 ノルの言を受け、静かな微笑みを浮かべたテミスが、湖に突き出した桟橋の方へ視線を向けて告げると、不貞腐れた声と共に名を呼ばれたロロニアが姿を現した。

 その後ろには、音も気配もなく接岸していた船が係留されており、ゆらゆらとさざ波に揺れている。


「それで? どうしたんだ? 随分と人数が少ねぇみてぇだが。アンタが出張ってきてるんだ。寝坊している訳ではないんだろう?」

「ハン……会って早々、口を開いたかと思えば皮肉か。こっちは苦労してここまで来たというのに、労いの言葉の一つでも欲しいものだがな」

「っ……」

「それを聞かせろって言ってるんだよ。そいつを団長サマに報告するのが俺の仕事でもあるし、知らなきゃ労ってもやれねぇだろ?」

「フッ……ならばついて来い。少し長い話になる。仮ではあるが、この村に拠点を拵えたからな。案内しよう」


 皮肉に皮肉を返すテミスに、ロロニアは涼し気な表情で受け流してみせる。

 その傍らでは、まるで苦労したのは自分だと言わんばかりの表情で、訴えかけるように乗るがテミスを見つめていた。

 しかし、テミスはそんなノルの抗議の視線を軽やかに黙殺すると、ひらりと身を翻して、テルルの村に設えた拠点へ向けて悠然と歩きはじめたのだった。

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