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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第30章

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2044話 秘されし闇

 テミス達に語り聞かせたサンの怒りは凄まじく。

 その身に纏った気迫は、ただ話を聞いていただけのテミス達ですら僅かに気圧されてしまうほどだった。


「っ……! 消された……? つまり、テルルの村の住民が消えたのは人為的なものだというのか?」

「あぁ……間違いねぇ。今は緘口令が敷かれちゃいるが……。それまではあの野郎……自分から自慢気に触れ回ってやがったからな」

「待って下さい。さっきからまるで、犯人を知っているような口ぶりですが……」

「知ってるとも。一瞬たりとも……あのクズ野郎の顔は忘れやしねぇ!」


 語られた情報を咀嚼し、まとめたテミスが問い直すと、サンは固く食いしばった歯の隙間から、漏れ出すような声でその問いを肯定する。

 しかもその口ぶりはまるで、情報の裏の裏まで……全ての真実を知っているかのようで。

 供に聞いていたノルもそれを察したのか、テミスが口を開くよりも先に、堪りかねたかのように問いを投げかけた。


「知ってるか……だと……? ああ、知ってるさ! 知っているともッ!! 奴の名前はエツルドッ!! 親衛隊の一員にして、同僚を……背中を預けて戦う仲間と、守るべき国民の命を玩具みてぇに呑み込みやがった最低最悪のクソ野郎だッ!!!」

「親衛隊……!!」


 怒髪天を衝く勢いで語ったサンの言葉に、テミスは思わず言葉を零す。

 村に住む村人だけを消し去ってしまうという異様な力。その技量で話し得ぬ現象は恐らく、あのアイシュが有していた力と同様のものなのだろう。

 つまり、あのアイシュと同格の強さを持つ者が最低でもあと一人、エツルドなる人物がこの国には存在するという事だ。


「……あぁ。ヤツは随分と今の体制を気に入っていてね。好き放題ばかりしていると聞く」

「力に溺れた莫迦か。聞くに堪えんな」

「少しだけ気持ちは理解できる気もするけれどね。誰かを殺しても国が護ってくれる。居やがる女の子を無理矢理――っと、すまない、これは君たちに話すような事ではないね」

「ククッ……随分と紳士だな。だが、寧ろ忠告すべきではないか? 察するに、その何某とやらは、気に入った女を無理矢理手籠めにしているのだろう?」

「それは……まぁ……うん。そうだね。ヤツに出会わないのが一番だけれど、出会ってしまったら無暗に逃げ出さない事。目立たず騒がず、息を潜めてやり過ごすんだ」

「ハッ……やれやれ……。それだけ聞くと、災害のような奴だな」


 徐々に落ち着きを取り戻していくサンに、テミスは皮肉気に口角を吊り上げて告げると、大仰な身振りで言葉を返す。

 サンから得た情報だけでは、まだエツルドなる者が本当にアイシュと同じ呪法刀の所持者であり、どのような力を有しているのかまでは分からなかった。

 だが、サンの情報が全て真実であると仮定するのならば、エツルドの力は厄介極まりなく、これから相対する事になるテミス達としては、事前に能力を探っておくべき相手であるのは間違いない。


「噂では、今治安維持兵たちの指揮を執って、アイシュ様を血眼になって探しているのも奴らしい」

「ほぉ……? 意外だな。話を聞いた限りでは、そのような知能があるとは思えんが」

「ぶはっ……!! ハハハッ!! いいねぇ! 今の! 正解だよ。だから、治安維持兵達が無茶苦茶やっているんだ。多少の理不尽なら奴が握り潰すからね」


 付け加えられた情報に、テミスが素直な感想を述べると、サンは明るい笑い声をあげてテミスに笑顔を向ける。

 そして、つい先ほどまでの滾るような怒りを跡形もなく飲み込んでみせると、軽い調子で言葉を続けた。


「ともあれ、俺の事情はこんな所さ。エツルドの糞野郎も、この国に住む人たちの命を蔑ろにして、エツルドを庇った今の国も俺は許せない。けれど、俺みたいなちっぽけな力じゃ、今の政府には向かっても何もできずに殺されるだけだからな。こうして、国の連中が虐げた人たちを助けて回っているんだ」

「フッ……良いじゃないか。彼我の戦力差を正確に理解し、怒りに任せて無暗に突撃しないその冷静さ。サン。お前……傭兵に向いているぞ」

「ははっ……! ありがとうよ! でも、俺はこの国の人たちを守りたい……この国を一人でも沢山の人が笑って暮らせる国にしたい。だから、傭兵にはなれないんだ」

「クス……そうか」


 自身の熱い思いを吐露したサンに、テミスは柔らかな微笑みを浮かべると、穏やかな声色で静かに告げる。

 だが、サンは輝くような笑顔を浮かべてから、胸を張ってテミスに自身の志を宣言した。

 その姿はまるで、どこぞの口喧しいお人好しの姿を思い浮かべてしまいそうになるほど眩く輝いていて。

 テミスはただ、静かに微笑んだまま小さく頷いただけだった。


「それじゃ……ほとぼりが冷めるまではしばらくここに居てくれよな! 色々あって疲れただろうし、ゆっくりと休んでくれ! 食事やなんかは俺か……仲間達が届けに来るから! またすぐに様子を見に来るぜ!」


 そんなテミスの微笑みをどういう意図で受け取ったのか、サンはにっこりと嬉しそうな笑顔を浮かべて立ち上がり、出入口へと足を向ける。

 そして、扉を潜った後で室内を振り返り、朗らかな声を残して去っていったのだった。


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