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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第30章

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2043話 船の家

 サンの案内によって向かった船の内は、外見からは想像もできないほど綺麗に設えられた部屋が広がっていた。

 火気を扱う調理場の類は見当たらないものの、船一隻分の広さを丸々使った室内は、ちょっとしたコテージ程度の広さを誇っており、何よりも内に漂う真新しい木の香りや、使用感の無い床や壁、天井の材木が、この『船』が新築であることを物語っている。


「おぉ……これは……!」

「すっ……ごぉぉぉぉいっ!!」

「綺麗……! それに……すっごく広いです!」


 中を覗き込んだ瞬間に、驚きを露に立ち止まったテミスの傍らを、ユウキとリコが歓声をあげてすり抜けていく。

 唯一テミスの側に残ったノルも、驚きの表情を浮かべながらも目を輝かせており、それほどまでにサンの作り上げたこの部屋は完成度が高かった。


「へへっ……! よくできてるだろ? 自信作なんだぜ?」

「凄い……ですね……。以前はこういったお仕事をされていたんですか?」

「いんや? あぁ……そういや言ってなかったっけか。俺、元はネルードの軍人だったんだわ」

「なんだとっ……!?」


 得意気な笑顔を浮かべて、サンがテミス達の背後から声を掛けると、入り口に立ち竦んでいた二人は促されるがままに船内へと足を踏み入れる。

 そして、何の気負いも無しに放たれたノルの問いかけに、気まずそうに後頭部を掻いたサンが答えると、弾けるようにテミスが身構えた。

 だが。


「元だよ。元。ちっと許せねぇ事があってさ。上官をブン殴ったらクビだとさ」

「上官を……? 悪いが、お前がそのような大それたことの出来るような男には見えんが」

「悪かったな。俺だって、普通はそんなことやらねぇよ。だがどうしても……どうしても許せねぇことがあったんだ……!!!」


 テミスを宥めるように、サンは両手を挙げて敵意が無いことをその身で示すと、肩を竦めて苦笑いを浮かべてみせる。

 その態度に、矛を収めたテミスは低く身構えた臨戦態勢を解くと、皮肉気な笑みを浮かべて問いを重ねた。

 しかし、その問いに返ってきたのは、普段明るく軽薄な態度を見せているサンにはあるまじき、滾るような怒りの籠った低い声で。

 僅かにピリリと張り詰めた空気に感付いたのか、室内見学(ルームツアー)に飛び出していたユウキとリコも踵を返してくる。


「……何があったか、聞かせて貰っても? なに、別に興味本位だけでお前の過去を掘り返そうなどという訳ではない。傭兵稼業などをしていると、なにぶん用心深くなってしまってね。お前との出会い自体が罠……そう勘ぐってしまうのさ」

「おいおい……まだ信用して貰えてねぇってのかよ……。ハァ……別にいいけどさ。面白くも何ともねぇ話……。いんや、反吐が出ちまいそうなくらい胸糞の悪りぃ話だぜ?」

「問題無い。むしろ、その話がお前が離反するに足るであろう出来事ならば、その分我々もお前を信用できる」

「ったく……仕方がねぇなぁ……」


 サンは投げかけられた問いに、勿体ぶるかのように忠告するが、情報収集を兼ねているテミスがその程度で退くはずも無く、コクリと頷いて先を促してみせた。

 すると、サンは深い長いため息を一つ吐いた後、数歩移動して床の上に腰を下ろすと、静かな声で語り始めた。


「この公都近くに、テルルの村って小さな漁村があったんだ」

「っ……!」

「ぇ……!」


 そこから飛び出てきた意外な名に、テミスたち一同はピクリと反応を示すも、世も読自分達がその村から来たのだとは口が裂けても言えるはずが無く、そのまま黙ってサンの言葉に耳を傾け続ける。


「だいぶ前の話だ。この村の住人が一夜にして消えちまったって事件があったんだ。村人全員逃げちまった訳でも、何かに襲われた痕跡もねぇ。飯は食いかけのまま、本当に消えて居なくなっちまう寸前まで、普通に暮らしていたみてぇだったんだよ」

「…………」


 事実。遺されたその光景を目で見て来たテミス達は、口を噤んだまま各々が今のテルルの村を思い浮かべる。

 確かにサンの言った通り、村の家屋はそれなりに時間の経過こそ見て取れたものの、室内はいずれも気味が悪い程に生活感が残っていた。

 だが、この不可解な事件が、どうやって胸糞の悪い方向へと繋がっていくのか。

 話を聞きながら思考を巡らせ始めたテミスの脳裏に、言い知れぬ悪い予感が過る。


「あん時ゃ大騒ぎでね。なにせ村一つ消え失せたんだ。色々な噂も出る。いまじゃ、得体の知れない幽霊やら怪異の仕業って事になってる」

「……お前の知っている真実は違うと?」

「あぁ……違うね。ありゃあそんな上等なモンじゃねぇ……」


 相槌を打ったテミスの声に頷くと、サンは深い憎しみの籠った声に語り口を変えると、怒りに突き動かされんとする身体を律するかのように、両の拳をギシリと固く握り締めた。

 そして……。


「消えたんじゃねぇ……消されたんだよ。あの村の住人は。しかも、あの村の住人たちは消されちまうような悪いことなんて何もしていなかったッ!! それを大義も……大した理由も無しに……アイツはッ……!!! 自分の新しい力を試したい。そんなクソみてぇな理由で、手前ェが守らなきゃいけねぇ国民の命を奪いやがったんだッ!!!」


 スゴンッ!! と。

 サンは湧き上がる怒りに突き動かされ、握り締めた拳で船の床を殴り付けると、憎しみの滾りが籠った慟哭をあげたのだった。

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