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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第30章

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2035話 波止場の遭遇戦

「連れとはぐれた……ねぇ……」


 男はテミスの告げた言葉を復唱すると、昏く歪んだ笑みを浮かべながら大袈裟に肩を竦め、言葉を続ける。


「こんな場所で、そんな嘘を吐く奴はよほどの大馬鹿か……本当だとしても、考え無しの大馬鹿だ。つまりだ。アンタはどうやったって大馬鹿という事になる」

「……流石に不愉快だな。私達は初対面のはず。こうも面と向かって、馬鹿呼ばわりさせる謂れは無いと思うが?」

「あるとも。大アリだ。こっちは湾岸区画。あるのは軍港や、物置用の倉庫だけだ。とても余所者が用のある場所じゃないだろう? それに、中心街はまるで逆方向だ。はぐれたのならば、よほどの馬鹿でなければそちらへ向かうはずさ」

「っ……!」


 朗々と言い放った男の理論に、テミスは言葉を返す事ができずに黙り込んだ。

 元より、治安維持兵を襲撃したテミスは、人の目を避けてこの波止場を目指してきた身だ。

 人気の多い中心街の方向を目指す訳にもいかず、かといってこの波止場自体には本当に用がある訳でもない。

 しかし、出会ったばかりのこの男に、たとえ一部であっても事情を話す程テミスは愚かではなく、密かに半歩後ろへと後ずさる。


「おっと。逃げたな? 半歩。逃げようとしたって事は訳アリだ。つまりアンタは、ここに嘘を吐いてまで為すべき用事があるんだろ?」

「ハッ……。こんな人気のない場所で、いたいけな少女を捕まえて言う事がソレか? 己が身を省みてみると良い。逃げようと考える理由など探すまでも無かろう」

「ブハッ……!! 自分でそれを言うのかよ! アンタ面白れぇな! んでも……悪ぃ。こっちにも訳があってね。アンタを逃がしてやる訳にはいかないのさ」


 テミスが退かんと身構えた事に、男は目ざとく気が付くと、ゆらりと上半身を前傾させた。

 今は手に何の武器も握ってはいないものの、恐らくは構え(・・)であろうその動きに、テミスは警戒を強めながら飄々と反論を口にする。

 すると、男は堪りかねたように噴き出してから、僅かに邪気の薄れた笑みを浮かべて告げた。


「アンタ、治安維持隊の密偵だろ? 俺が顔を知らねぇって事は特派か?」

「……! 待て。人違いだ。私は治安維持隊の人間ではない」

「誰だってそう言うだろうさ。まぁ、その言葉が本当だとしても諦めてくれ。俺達はまだ捕まる訳にゃいかねぇんだ」

「消すつもりか? 私を」

「んな物騒な事はしねぇさ。俺達は軍の連中とは違う。ま……それもアンタ次第だけどな。ひとまずアンタを捕まえてから、調べて問題が無ければ、さっさとこの町から出て行って貰う。だから、アンタが本当に余所者なら大人しく捕まって欲しいんだけど?」

「お断りだ。こちらにも事情がある。お前の訳とやらに付き合ってやる訳にはいかんのだよ」

「そうかい……だと思ったけどさァッ……!!」

「……っ!!」


 互いに身構えての言葉の応酬。

 既に相手が臨戦態勢に入っている事は互いに理解していたからこそ、そこにさしたる意味など無く。

 男を誘うためにわざと僅かな隙を見せたテミスに対して、男は雷光のような速度で一気にテミスへ肉薄すると、固く握り締めた拳を振りかぶった。

 その速度は、先ほど剣を交えたスイシュウたち、一般の治安維持兵達とは比べ物にならないほど早く、近頃訓練を積んで動きの良くなった蒼鱗騎士団……否、白翼騎士団の団員に迫るほどだった。

 だが。

 一般兵と比べて数段上の実力を有していたとしても、テミスにとってはまだまだ赤子の手を捻るほどのもので。

 鋭く突き出された男の拳を、テミスは動ずることなくバシリと掌で受け止めてみせた。


「ッ……!! オイオイ……嘘だろ……!?」

「さて……これで私もお前を逃がす訳にはいかなくなった訳だが……」


 驚愕しながらも第二撃、三撃と繰り出される男の追撃を尽く受け止めながら、テミスは浅いため息と共に眼前の男をギラリと睨み付ける。

 なんとなくではあるが、偽悪的な態度こそ取ってはいるものの、この男からはスイシュウと同様に、生粋の悪人という雰囲気は感じられなかった。

 とはいえ、こうして戦闘へと発展してしまった以上、潜入作戦の支障となりかねない芽は事前に刈り取っておかなくてはならない。


「只者じゃあねぇとは思ってたが……まさか……これ程とはなッ……!!」


 殺しはしたくは無いがどうしたものか……と思案するテミスに対して、乱撃を繰り出していた男はクルリと身を翻して後ろへ大きく跳びさがると、吐き捨てるような言葉と共に、隠し持っていた一対の短剣を構える。


「こっちも、ついさっき仲間がやられてピリピリしてんだ!! こっからは全力で行かせて貰うぜッ!!」

「フム……面白い。気が変わった。相手をしてやろう」


 そんな男の纏う戦場とも見紛う気迫に、テミスはニヤリと口角を吊り上げて笑うと、背中の布を巻き付けた大剣の柄に手を伸ばして言葉を返したのだった。


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