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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第30章

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2034話 はぐれ者道中

 スイシュウたちとの契約を終えたテミスは、後始末をすると言う二人と別れ、一人湖を目指して路地を駆けていた。

 契約呪自体に細工があるやもしれないと警戒していたテミスだったが、その心配も杞憂に終わり、契約は無事に締結された。


「どうにも……読めない男だったな」


 結んだ内容を鑑みれば破格と言うべきであったものの、真意の読めないスイシュウの言動のせいでテミスの心中は晴れず、ボソリと独り言を零す。

 ともあれ、町の治安維持を司る兵の内側にこちらの手勢を紛れ込ませる事ができたのは、大きな戦果だ。

 そう胸の内を切り替えたテミスは、ふと周囲へ視線を走らせると、既に倉庫らしき建物が立ち並ぶ港の一角へ足を踏み入れている事に気が付いた。


「さて……どうしたものか……」


 右へ、左へと視線を向けてから、テミスは人気のない通りに中心で足を止め、溜息まじりにひとりごちる。

 ノルとリコとの集合場所は、波止場外れにあるらしい黄旗亭とかいう店だ。

 とはいえ、波止場の外れという情報だけでは、ここからどちらの方角へ行けば良いのかわからないし、下手を打てば真逆の方向へ進む羽目になってしまう。


「今から戻ってスイシュウたちに場所を聞くか……? いや……」


 完全に行き場を見失ったテミスは、チラリと来た道を振り返るが、脳裏に浮かんだ案を即座に却下する。

 一応、スイシュウたちは協力者という体ではあるが、あちら側の真意がつかめるまでは、極力こちらの情報を与えるべきではないだろう。

 特に。確実に顔の割れていないノルとリコには会せるべきではないし、ヴェネルティ側で勇者として活動していたユウキの存在も伏せるべきだ。

 そうなると、これからも彼等との接触はテミスが単身で行うべきであり、集合場所である黄旗亭の場所を聞きに戻るなど、愚策中の愚策に違いない。


「やれやれ……結局、自分の足で探す他は無いか」


 溜息を零したテミスは、ゆっくりと再び歩き始めると、ひとまず湖に面した港の端まで歩を進めた。

 しかし、左右を見渡してもひたすらに道が続くばかりでそれらしき建物は見当たらず、まるで情報の無い状態で、テミスはここから右へ行くか左へ行くべきかの選択を迫られる。


「確率はひとまず二分の一……この手の二択は何故か外すんだよなぁ……」


 ポツリと悲し気に零してから、テミスは直感に従って左を選ぶと、人気の絶えた道を歩きはじめた。

 傍らに建てられた石造りの建物はどれも年季が入っており、町中の都会然とした摩天楼の姿が幻に思えるほどだった。


「こちらがネルード本来の姿……という事なのだろうな」


 無理やり継いで接いだようなあの町の姿は、どう考えても不自然そのもので。

 テミスは時が止まってしまったかのように穏やかな空気を噛みしめながら、のんびりと独り言を漏らす。

 よくよく見てみれば、土地柄の差か建物を構成する材質に違いはあれど、造り自体はテミスが足繁く通っていたフォローダの港に建つ建物とよく似ている。

 フリーディア曰く、元は同じ国から別たれた国なのだから、当然と言えば当然の話なのだが。

 敵味方と対立するにまでなってしまった両国に、こうも似通った点を見付けてしまうと、妙な気分が湧き出てくる。


「ハァ……本当に……戦争など下らない……」


 ぼんやりと青い空へと視線を移すと、テミスは胸中のアンニュイな想いを吐き出すかのように呟きを漏らす。

 こんなくだらない戦いなど、早々に決着をつけて平和なファントへ帰りたい。

 騒がしく賑やかながらも穏やかで、活気の絶える事が無いファントの町を思い描きながら、テミスは深くため息を吐いた。

 今頃、アリーシャたちは昼の客を捌き終えて、遅めの昼食を食べている頃だろうか?


「あぁ……腹が減ったな……。この町の名物は何なのだろうか?」


 遠く離れた地の家族の姿を思い浮かべたテミスが、きゅるると可愛らしく鳴いた腹の音に、意識を現実へと引き戻した時だった。


「オイ! アンタ待ちな。ここいらのモンじゃねぇだろ。こんな町はずれに何の用だ?」


 傍らに延々と続く建物の間から、目つきの悪い一人の男が飛び出してくると、テミスの前に立ちはだかり、威嚇するかのように問いかけてくる。

 その男は身なりこそ簡素なものの、程よく引き締まった身体には鍛え上げられたしなやかな筋肉が見えており、テミスの担いだ大剣が届く間合いから、一歩ぶんだけ離れた距離から声を掛けた身のこなしは、彼が見た目通りの人間ではないことを物語っていた。


「うん……? あぁ……連れとはぐれたうえに道に迷ってしまってな。ほとほと困り果てていた所だったんだ」


 そんな男に、テミスは悠然と肩を竦めてみせると、涼やかな笑顔と共に、嘘偽りの無い真っ直ぐな言葉を返したのだった。

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