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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第30章

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2032話 奇策な提案

 苦悶の悲鳴と共に吹き飛んだ治安維持兵が、派手な音と共に地面へと倒れ伏す。

 テミスの叩き込んだ強烈な一撃は、確実に兵士の意識を刈り取っており、その威力は宙に弧を描いた血飛沫が物語っていた。


「…………」

「キミはどうするんだい? こんなに強い敵さんに稽古をつけて貰えるだなんてそうそう無い機会だよ?」

「っ……!! か……勘弁してくれ……。俺はアンタらの邪魔はしない! 黙ってるからさ……!」


 残すはスイシュウという名の兵士の他にあと一人。

 テミスは拳にべっとりと付いた血を振り払うと、黙したまま視線を残った兵へと向ける。

 すると即座にその意図を察したかのように、スイシュウは飄々とした態度で残った兵士に顔を向けると、テミスを指し示して促した。

 だが、残った治安維持兵は顔を青ざめさせて激しく首を横に振ると、携えていた剣を取り落として数歩後ずさる。


「そ……。ここいらで気絶しておいた方が良いと僕は思うけれど……。ま、キミがそこまで言うのならしょうがないね……。お待たせして御免よ。さ……腹を割って話そうか」

「つまらん話ならば即座に斬る。元より、お前達の話など聞いてやる義理は無い」


 恐怖に呑まれた治安維持兵へ、スイシュウは穏やかな微笑みと共に剣呑な言葉を投げかけた後、テミスと向き合って朗らかに声をあげた。

 それに応じたテミスは、地面へ突き立てた大剣をぼこりと抜き放つと、再び肩へ担ぎ上げてスイシュウを睨み付ける。


「わかっているさ。……というか、『斬る』って事はやっぱりソレ、剣なんだね?」

「っ……! チッ……!!」


 テミスが自身の失言に気が付いたのは、穏やかな微笑みを浮かべたスイシュウが指摘をしてからだった。

 とはいえ、これはテミスの迂闊さが招いた失策。

 一度話に応ずる姿勢を見せてしまった以上。余計なことを口走ってしまったからといって、こちらから場をぶち壊すのは、恥の上塗りに他ならない。

 故に。テミスはピクリと眉を跳ね上げつつ、小さく舌打ちを零すに留め、スイシュウを睨み付ける視線に力を籠める。

 このスイシュウという男、どうやら想定以上に曲者らしい。

 そう確信を得たテミスは、自身の中でのスイシュウに対する警戒を最大限まで引き上げた。


「おぉっと……。余計な事を喋っちゃったかな? ともあれ、まずは自己紹介からいこうか。僕はスイシュウ。公都ネルード治安維持隊所属の一兵卒さ。それで……そちらは?」

「……話すと思うか?」

「だよねぇ……。でも、名前くらい教えてくれたって良いんじゃない? お嬢ちゃん……なんて呼ぶにはキミ、少しおっかないからさ?」

「…………」

「おっとわかった! なら僕が勝手に名付けちゃおう。このネルードの町で出会ったからネールちゃんだ」

「っ……」

「…………好きに呼べ」


 終始食えない態度で話を進めるスイシュウに、苛立ちを覚えたテミスが担いだ剣に力を籠めかける。

 しかし、即座にその気配を察知したスイシュウはパチンと手を叩いて、強引に話題を次へと進めた。

 尤も、そのセンスが壊滅的であるのは、傍らの治安維持兵の引き攣った表情が有力に物語っていたのだが……。

 ともあれ、いつまでも戯れ言に付き合う暇のないテミスは、呆れを溜息と共に零してスイシュウに続きを促した。


「ありがとう。じゃあ、ネールちゃん。早速だけど提案させて貰えるかな?」

「…………」


 だが、テミスと傍らの治安維持兵の心情にはまるで気付いていない様子で、スイシュウがにっこりと笑顔を浮かべて問いかけると、テミスは黙ったままコクリと頷きを返す。

 ユウキ達が逃げる時間を稼ぐにしても、もう十分過ぎるほどに時間は過ぎた。

 これ以上時間をかけては、新たな騒ぎを呼び寄せかねない。


「話が早くて良いね! ネールちゃん。お願いさ。ここは一つ、僕達を見逃しちゃくれないかい?」

「持って回った言い方をするな。これ以上話を引き延ばせば時間稼ぎと見做す」

「順番に話すさ。せっかちだねぇ……ネールちゃんは。出会わなかった事にしようって言っているのさ。僕たち。キミみたいな子とお知り合いになれないのは残念なんだけどね」

「……話にならんな。それならば、今ここでお前達を殺せば済む話だ」


 スイシュウの続けた言葉に、テミスは落胆を露に溜息を零すと、ゆらりと静かに身構える。

 下らん茶番だ。ここまで付き合った挙句出てきたのがただの命乞いとは。


「時間の無駄だったな」

「ふぅむ……ダメか……。ならいっそ、お知り合いになっておくかい? 君が僕達の命を見逃してくれた分、僕は君たちに協力しようじゃないか」

「なっ……!?」

「ッ……!!!」


 淡々と冷ややかに紡がれたテミスの言葉に、スイシュウはわざとらしくため息を漏らしながら言葉を続ける。

 だが……。

 そんなテミスに告げられたスイシュウの提案は、突拍子もないが故に、テミスを驚かせるには十分過ぎる威力を持っていたのだった。

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