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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第30章

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2030話 猛襲乱撃

 テミスの奇襲により叩き伏せられた治安維持兵は三人。

 機先を制されたとはいえ、仮にも兵士と名の付く職に就いている兵達の動きは機敏で、既に崩れかけた陣形を立て直し、テミスと相対していた。

 残る治安維持兵は六人。

 その内二人は連行中の若者の傍らに付いているため、テミスが実質相対しているのは残りの四人だ。


「ハァ……拍子抜けだな……」

「ッ……! 何者かと聞いているんだッ!! 答えんのならば貴様の罪が更に増える事になるぞッ!!」


 剣を構える兵士達を睥睨したテミスがため息を吐くと、部隊を率いているらしい長身の男が、構えた剣の刃先をテミスへ向けて怒声をあげる。

 だがそれは即ち、臨戦態勢である構えを崩す事にほかならず、敵と相対した兵士が取る行動としては、愚策中の愚策だった。


「知った事か。どうせ罪など貴様等の胸三寸で決まるのだろう。気が済むまで盛れば良いさ」


 元より、このネルード公国からしてみれば、テミスほど罪を重ねた者は居ないだろう。

 うず高く積み上がった罪に今更一つや二つ増えた所で意味は無いし、そもそもテミスがこの国の法に縛られる理由もない。

 だからこそ、テミスは内心の侮蔑を隠す事無く怒鳴る兵士を嘲笑い、悠然とした態度で言葉を続ける。


「元より貴様等に正しさなどあるまい。因縁を付けたあの男ではなく、被害を被った側の彼を捕らえているんだからな」

「貴様ッ!! さては逆賊共の一味だな……ッ!? 自由だ平等だと下らん妄言ばかりを吐き連ね、誇り高きネルードを穢す大罪人どもめッ!!」

「ほぉ……? そんな連中が居るのか。だが、残念ながら人違いだ」

「クックックッ……!! どうやら遂に、私にも運が向いてきたらしい!! 捕えて隅々まで嬲り尽くし、知っている事を洗いざらい吐いて貰うッ!!」

「…………」


 悦に浸った笑みを浮かべた部隊長らしき男は、テミスへ突き付けた剣の刃先をゆらゆらと揺らしながら、もはや奇声の域に達した声で叫びをあげた。

 だが、当のテミスは既に部隊長らしき男の事など見てはおらず、テミスに対して展開した部隊の背後。その頭上で腰の剣を抜いて陣取るユウキを見ていた。

 そして、それに気付いたユウキがテミスに向けてひらりと手を振った瞬間。


「無論? 私も鬼ではない。素直に諦めて投降するというのならば、情状酌量を加えてやることも――」

「――おい。長話は飽きたぞ」

「部隊長ォッ……!!!」

「な……ひぇやぁ?」


 力強く地を蹴ったテミスは一気に部隊長らしき男との距離を詰め、懐に潜り込むと同時に低い声で窘めた。

 その時、部隊長らしき男の傍らで構えていた壮年の兵士が野太い叫びをあげ、飛び込んだテミスを制するかのように、手にした剣を振り上げる。


「む……?」


 自らへと向けられた鋭い気配に、テミスは反射的に壮年の兵士へと視線を向けるが、瞬時に覚えた違和感にピクリと眉を跳ねさせた。

 弛まぬ鍛練を積んだ事こそ窺えるものの、壮年の兵士の剣速はテミスを捉える事ができる域に達してはおらず、眼前の部隊長らしき男を打ち倒してからでも十分に応ずることはできる。

 だが、問題はそこではない。

 壮年の兵士が振り上げた剣。

 サーベルのような拵えの片刃の剣は刃が返されており、あろう事か壮年の兵士はテミスに対して、峰打ちを以て斬りかかってきたのだ。


「…………」


 ひとまず考えるのは後だ。

 奇行とも言うべき壮年の男の行動の意味へと思考を走らせかけるが、テミスは即座に意識を引き戻して眼前の部隊長らしき男へ目を向け、大剣の柄を握っていた左手で胸倉を掴む。

 続いて、部隊長らしき男に悲鳴をあげる暇すら与える事無く、テミスは胸倉を掴んだ手を引き寄せると同時に、逆手で携えた大剣をそのまま振り上げ、柄頭で部隊領らしき男の顎を打ち据えた。


「ガギッ……!!!!」


 パカンッ!! と骨を打つ澄んだ音に、部隊長らしき男の悲鳴が混じり、テミスの一撃を喰らった部隊長らしき男の身体が反り上がる。

 この一撃で、部隊長らしき男は既に白目を剥いていたものの、テミスはおまけとばかりに部隊長らしき男の仰け反った腹へ回し蹴りを叩き込むと、路地の壁へ向けて蹴り飛ばした。

 そして。


「チェリヤァアアアアアアッッ!!」

「オォォォォオオッ!!!」


 一拍遅れて、左右から斬りかかって来る治安維持兵たちの斬撃を、振りあげた大剣を僅かに傾けただけでまとめて受け止めてみせる。


「なぁっ……!?」


 刃を返して斬りかかった壮年の兵士と、テミスを切り裂くべく剣を振るった治安維持兵の驚きの声が重なった瞬間。


「ぎゃっ……!?」

「がはぁッ……!?」

「アンタら……どうして……?」

「もう大丈夫っ! 話は後。さ……こっちだよ!」


 兵士たちの背後で悲鳴が響き、ユウキの朗らかな声と共に、二つの足音が遠ざかっていく。

 そんなユウキの声を聴いたテミスは、自身の身を守る大剣の影で、ニヤリと凶暴な微笑みを浮かべたのだった。

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