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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第30章

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2102/2323

2029話 救い無き強襲

 若者を連行する治安維持兵達は、ユウキの予測した通りに路地を左に曲がった。

 瞬間。

 テミスは脚に力を籠めると鋭く前へと飛び出し、背負った布を巻き付けたままの大剣の柄へと手をかける。

 その傍らを、ユウキは身軽な動きで追い越していくと、街灯の支柱を蹴り、建物の壁を駆けて登った。


「救出はボクがやる。任せて!」

「あぁ……」


 予想外のユウキの動きに、テミスは僅かに眉を跳ねさせるが、頭上から投げかけれられた短い言葉に得心すると、視線を先へと向ける。

 連行されていた若者には、左右に一人づつの治安維持兵が配されたうえで、その二人が指示を出す形で最前を歩かされていた。

 ユウキが先行を選んだのは恐らく、彼等の前方へと回り込んで、捕らえられた若者を救い出すためで。

 一方でテミスとしても、早々に捕らえられた若者を戦場から離脱させる事ができるのならば、周囲を気にかける事無く力を振るう事ができるため都合が良かった。


「……奴がどうなろうと知った事ではないが、巻き込んでまとめて斬り払ってしまっては寝覚めが悪いからな」


 一気に街路を駆け抜けたテミスは、治安維持兵達が曲がっていった路地の入口に背中を預けると、慎重に顔を出して先の様子を窺う。

 どうやら、治安維持兵達の間でも揉めているらしく、視線の先からは言い争うような怒声や罵声が聞こえてくる。

 その視界の隅では、ユウキが軽やかな身のこなしで、テラスやバルコニーのような建物の突起を利用して宙を駆け、治安維持兵達の前方へと回り込んでいた。


「フム……」


 一拍の思考を置いた後。

 テミスは布を巻き付けたままの大剣を手をかけ、下段に構えて突撃の構えを取る。

 治安維持兵の人数は十名に満たない程。

 その誰もが護送中であるにも関わらず後方の警戒すら怠り、前方から響く同僚の怒声へと意識を向けている。

 その態度からは、自分達が誰かに襲撃されるかもしれないという意識が欠落しており、この町での彼等の立場を物語っていた。


「呆けているな……平和に」


 吐き捨てるように呟いた後、身を翻して曲がり角から飛び出したテミスは路地の真ん中へと身を躍らせると、布を巻いた剣を構えたまま、地面を蹴って治安維持兵達の元へと飛ぶように駆けていく。

 テミスが路地へと斬り込んだ時点で、兵達との距離はおおよそ五十メートルほど。

 全速力で駆け抜ければ、大剣の間合いに収めるまで五度地を蹴れば済む程度だろうか。

 一歩。二歩。

 硬質な足音を打ち鳴らしながら駆け寄るテミスに、完全に背を向けている治安維持兵達が気付く事は無い。

 三歩。

 半分ほどの距離を詰めて尚、治安維持兵たちが身構える事は無く、隙だらけの背中をテミスへと向けている。

 仮にこの兵達が白翼騎士団の者であったのならば、既に抜刀を済ませて転身し、突撃を敢行するテミスに対して、迎撃の構えを取っている頃合いだ。


「所詮は強者に媚び、弱者を虐げるだけの屑か」


 四歩。

 テミスは嘲笑を浮かべて吐き捨てながら、構えた大剣の柄を固く握り締める。

 この程度の連中が相手ならば、制圧するのにさして時間はかからないだろう。

 そう判断したテミスは、残った距離を一気に詰めるために、ひと際大きな音を立てて地を蹴った。


「……っ? なんの音……おわぁッ!?」

「クズめ」


 五歩。

 テミスが治安維持兵達を己が間合いに収めた瞬間。

 そこで漸く足音に気が付いた一部の兵士が、首を傾げながらおもむろに背後を振り返る。

 だが既にそこには、固く布を巻き付けたままの大剣を振りかぶるテミスが居て。

 疑問の言葉を全て紡ぎ切ることなく、治安維持兵は肉薄するテミスに驚愕の悲鳴をあげた。


「襲――ぐぁっ!!?」

「何――ごぁッ!!?」


 テミスの存在に気が付いた治安維持兵が声高に叫びをあげかけるも、その時すでに冷ややかな言葉と共に横薙ぎの一撃が放たれており、言葉の殆どを紡ぎ切る前に、兵士は腹に一撃を受けて、隣を歩いていた兵と共に傍らへと吹き飛んだ。


「何だッ!? 襲撃かッ!!?」

「ヒィッ……!? ぎゃっ!!」


 最後方を歩いていた兵士が襲撃されてはじめて。

 治安維持兵達はようやく全員がテミスの襲撃を認識し、それぞれがサーベルのような意匠の剣を抜き放つ。

 しかしその頃には既に、テミスは一撃を放った勢いを殺さぬままに、二撃目を振るい始めており、身を翻して構えを取ったばかりの兵をもう一人、容赦なく叩き伏せた。


「っ……!! 貴様ァッ!! 何者か!? 己がどれ程の罪を犯しているのか理解しているのだろうな!!」

「さぁな。生憎、クズ虫共の法など知らなくてな。ともあれ、私は見下げ果てた屑は叩き切る主義なんだ」


 抜き放った剣を構え、テミスを半ば囲むように展開した治安維持兵の一人が、怒りに目を剥いて怒声をあげる。

 そんな治安維持兵をギロリと見据えて、テミスは振り下ろした剣をゆらりと方へ担ぎ上げながら、低い声で言い放ったのだった。

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