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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第30章

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2027話 異なる理

 胸を張り、堂々と歩を進めるテミスを先頭に、一行は公都ネルードの中心街に足を踏み入れた。

 頭上には、遠くからも良く見えた天を穿つが如きビルが聳え立っており、足元にその巨大な影を落としている。

 周囲を行き交う人々の身なりは、外縁部とはうって変わって文明的で。

 誰もが幸せそうな笑顔を浮かべながら、忙しなく歩みを進めていた。


「随分と賑やかだな。戦時中だというのに結構な事だ」


 そんな街並みを冷ややかな目で見据えたテミスは、皮肉気に頬を歪めて呟くと、冒険者ギルドの建物を探して周囲へと目を配る。

 しかし、何処の町でも変わらぬ意匠の建物で冒険者たちを迎えるはずのギルドの姿はそこには無く、テミスは視界を遮るビルをチラリと見上げて舌打ちをした。


「この町が賑やかなのは、戦時中だからこそでしょう」


 テミスの苛立ちをどう受け取ったのか、テミスに続く一行の中からノルが進み出て肩を並べると、苦い表情で口を開く。


「ネルードは軍需産業が盛んですから。ヴェネルティ連合に属する他の国へ兵器を供与していますし、ロンヴァルディアとの戦いが激化すればするほど、彼等は儲かるはずです」

「ハッ……! 道理で、品性の欠片も無さそうな輩ばかりなんだな」


 ノルの説明にテミスは通りの一角へと視線を向けると、吐き捨てるような言葉と共に嘲笑を浮かべる。

 そこでは、煌びやかな装飾品をじゃらじゃらと身に纏った小太りな男が、露店の店員らしき若い男を相手に気炎を上げていた。

 耳を澄ませて会話を盗み聞いてみれば、どうやら小太りの男が激怒しているのは、気に入った品が非売品であったためらしく。

 金は幾らでも払うと言っているんだからさっさと売れ! だとか、俺を何処の誰だと思っているんだ! だとか、傍らで聞いているだけでも呆れて苦笑いが浮かんでくるほどの戯れ言を喚き散らしている。


「やれやれ。何処にでも居るものなんだな……ああ言った連中は」


 騒動に目を向けていたテミスはやがて興味を失ったかのように視線を外すと、皮肉気なため息を零して肩を竦めてみせる。

 ファントでは、マーサの宿屋で働くテミスだ。

 月に一度はああいった類の客に出くわすし、最初は真っ向から叩き伏せてやるべく喧嘩を買っていたテミスだったが、そういった客でさえも手玉に取って売上に変えるアリーシャの手管を目の当たりにしてからは、テミスの目には哀れな生き物としか映らなくなっていた。

 だが……。


「待って下さい。あと少しだけ、様子を見ていった方が良いと思います」

「うん……? 眺めて居た所で気分の良いものでもない。足を止めてまで様子を見る価値など無いと思うが……?」

「ううん。この町の事を知るためにも、見ていった方が良いと思うな」

「フム……」


 先を急ごうとするテミスをノルが呼び止め、ユウキもまたそれに同意する。

 この町の事を知る二人がそう口を揃えるのならば、一見の価値はあるのだろう。

 そう判断したテミスは喉を鳴らして足を止め、未だに揉めている男達の方へと藤巻に視線を向けた。

 するとすぐに、騒ぎを聞きつけたのか治安部隊らしき軍装の者達が、足音高く駆け寄ってきて。

 怒鳴り散らしている男と、店員らしき若者の周りを取り囲んだ。


「なるほど……。中心街は市井の治安維持部隊も機能している……という訳か。練度もそれなりのものだな」


 その様子を見て、ノルとユウキが確認させたかったものを汲み取ったテミスは、浅く頷きながら言葉を漏らす。

 状況を鑑みるに、治安維持部隊が駆け付けたのは、揉め事が起きてから三十分経たない程度の時間だろう。

 町の規模的にも、単純に比べられる訳ではないが、ファントの町よりも若干遅いくらいだろうか。

 それでも、町の治安維持としてはずば抜けて素早い方で、身を潜めているテミス達としては厄介極まりない相手だった。


「あ~……うん。それもそうなんだけれど……ねぇ……」

「そのまま見ていてください。じきにわかります」

「なに……? まだ何かあるのか?」


 得心するテミスの傍らでは、訳知り顔のユウキとノルが、揃って苦笑いを浮かべていて。

 その隣ではリコが、ころころと表情を変えながら状況を見守っている。

 そんな二人の言葉に首を傾げたテミスが、視線を揉めていた二人の方へと戻した時だった。


「なにっ……!? 馬鹿な……! どうしてそちらを……?」


 軍装の治安維持兵達は、理不尽を怒鳴り散らしていた男に敬礼を向けて解放すると、怒鳴りつけられていた若者を拘束する。

 途中からとはいえ、話を盗み聞いていたテミスは、真逆の裁定を下した治安維持部隊の面々にただ驚くばかりで。

 驚きに丸く見開いた眼で、肩を落として連行されていく若者を、辛うじて追うことしかできなかった。


「この町ではね。何事も地位と持っているお金が正しさを決めるんだよ。あの人はいちゃもんを付けられていたけれど、あっちのおじさんの方が偉くてお金持ちだったから、罰を受けなくちゃいけないんだ」

「っ……!!!」


 驚きの声を漏らしたテミスに、悲し気に眉を顰めたユウキは、連行されていく若者を嘲けり笑う男の姿を見据えながら、説明を付け加える。

 そんな、突拍子もない横暴に、テミスは噴出しているはずの怒りすらも忘れて、言葉を失ったのだった。

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