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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第1章

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19話 紅の憂鬱

 同時刻 ファント市街西区画


「アハハハハハハハッ! もっと泣いて? もっと叫んで?」


 一方で、テミスの現在位置から3区画ほど西へ進んだ通りには、地獄が広がっていた。

 ある者は半分ほど切れた足を引き摺りながら、ある者は零れ出ようとする内臓を必死で押し戻しながら。誰もが苦痛と絶望に顔を歪めて涙を流している。

 数刻前までは愉悦の笑みを浮かべながら、今も壁際で震える魔族の少女と、それを守ろうと奮戦していた人間の少年を追い回していたはずなのに。いつの間にかその兵士達は、少年たち同様の狩られる者となっていた。


「ねぇ? 苦しい? 痛い? どうして欲しい?」

「ぎっ……ひぃぁ……た、た……たひゅけ」

「足りないわね」

「あぎゃぁぁぁあああああっ!」


 その地獄の中心で。右足を半分ほど切られた兵士のもう片方の足に、氷のような呟きと共に切れ込みが入れられる。


「ウフ……ウフフフフ……。あの人間もなかなか……見どころあるじゃない」


 その地獄を創り出している張本人。サキュドは次の獲物の元へ歩を進めながら、思わず緩んだ頬に手をあてがった。

 目の前の地獄すらサキュドにとってはただの暇つぶしだ。いわば仕事と趣味を兼ねたストレス発散と言った所だろうか。

 事実、サキュドは目の前の兵士を殺して次に行くのには大した労力はかからない。手に持った血のように紅い槍で一突き、急所を抉ってやればいい。


「でもそれじゃ……つまんなぁ……いっ!」

「ひゅへっ? ひぃぅあぁぁぁ……」


 愉し気に嗤いながら、最後に残った二人の兵士の片割れ……腹を裂いてやった兵士のはみ出た中身を、それを押さえる手ごと少しだけ切り取ってやる。


「あはぁ……もっと苦しんで? 絶望して?」


 言葉と共に一度は通り過ぎた、泣き叫ぶ兵士の元へと踵を返した悪魔の足がピタリと止まる。


「……弱くて薄汚い人間共がチョーシくれてるからよ」


 冷え切った言葉と共に、サキュドが足元で蠢く兵士を見下ろした。


「あ……ああぁ……た、助けて……アンタ達……いえ、貴女達魔族の方の魔法ならこの傷も……なんでもします! なんでも差し上げます!」

「……へぇぇぇぇぇぇ…………?」


 クルリと向けられた背に投げられた兵士の命乞いに、無表情だったサキュドの顔がまるで溶けた蝋のように大きく歪んだ。


「助けて……欲しい?」

「は……はいぃ……。何でもします! なんでも――」

「――んふっ」


 サキュドは再び踵を返すと、這いずる兵士の元にしゃがみ込んで、先ほどとは全く異なる綺麗な笑みを兵士に向けてやる。それはまるで純粋無垢な一人の可憐な少女のようで……。


「ぁぁ……ありが――ぇぁ?」


 ぼろぼろの体で這いずる兵士の顔が、涙でぐちゃぐちゃの笑顔になった途端、ゴロリとその首が地面へと転がった。


「…………チッ。何なのよ?」

「こんな事だろうと思ってな。命令の更新だ。遊んでいる暇は無いぞ」


 サキュドが視線を向けた先には、マグヌスが振り抜いた太刀を構えて眉間に皺を寄せていた。


「更新? 何よまた」

「私は町人たちが集まる野戦病院の防衛に回される。東側のここより3区画先からの掃討はお前が引き継げ」

「……はぁ、りょーかい」


 などと。まるで周囲の光景が何でもないかのように連絡事項を語りながら、二人の魔族は剣と槍を血払いしつつ、それぞれ傍らで立っていた馬へと騎乗する。

 ただし、その道すがら。マグヌスは眉根をひそめ、刈り取るように。サキュドはつまみ食いとばかりに、蠢く兵士たちにトドメを刺しながら。


「……マグヌス。あの女、どう思う?」

「……隊長か」

「ええ……」


 二人が重々しく口を開いた時、メインストリートの方ですさまじい悲鳴の渦が立ちのぼった。どうやらあちらはあちらで派手にやっているらしい。


「そう言うお前はどうなんだ?」

「人間にしては見所あるわね。わざと急所を外して苦しませるセンスもそうだけれど、あの底が見えない人間離れした強さは魅力的だわ」

「……そうか。お前の目にはそう映るか」


 珍しく苦虫を噛み潰したように言葉を濁したマグヌスに、サキュドの眉がピクリと動いた。


「アンタは違うの?」


 マグヌスの脳裏に再び、酷く慌てた表情で自分の胸ぐらをつかむ彼女の顔が浮かび上がる。


「ああ。強大な力は勿論としても、お前のソレとは異なる、純粋な何かだと私は感じた。行き過ぎた優しさの反動が……アレなのだろう」

「ふぅん……ま、どっちにしてもアタシ達を従えるってなら、冒険将校を斃してくれるくらいの腕が無いとね」

「……ああ。ではな」


 不穏にも思える会話を最後に十字路に差し掛かると、二人は一度頷き合ってから速度を上げて二手に分かれたのだった。

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