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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第30章

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2026話 可憐なる鬼

 戦いとは呼べぬほどの一方的な蹂躙劇が終わり、辺りは瞬く間に静けさを取り戻した。

 しかし、既にテミスたちの周囲に人影は無く、外縁部に住まう人々は皆、蜘蛛の子を散らすように逃げ去った後だった。


「フム……」


 そんな中。

 己の身体の調子を確かめるかのように、テミスは軽く息を吐きながら拳を開閉すると、再び握り締めて空へ向けて鋭い拳打を放つ。

 空を裂いて放たれた拳は音を奏で、既にその威力と速度が常人の域をはるかに凌駕していることを物語っていた。


「悪くない。無理矢理休息を取らされた甲斐があったな」


 自身の調子が戻っている事を実戦を以て確認したテミスは、満足気な微笑みを浮かべて胸を張ると、ゆっくりと踵を返してユウキたちの元へと戻る。

 しかし、テミスを迎えたのは揃いも揃って呆れたとも、困り果てたとも取れる困惑の表情で。

 それに気付いたテミスは首を傾げて静かに口を開いた。


「どうした? 全部終わったぞ」

「えぇ……確かに……」

「なんと言うか……その……凄かったです……。まさか、人間が空を飛ぶなんて思いませんでした」

「ン……あぁ……。ここで剣を抜く訳にはいかなかったのでな。さっさと片を付ける為とはいえ、少し加減を誤ったやもしれん」


 苦笑いを浮かべるノルとリコの視線を追って、己の背後に広がる地獄絵図を振り返ったテミスは、納得したかのように頷きながら肩を竦めてみせる。

 確かに、拉げ潰れた人間が地面にめり込んで居たり、胴体があらぬ方向へと捩れて転がっている悪漢たちの死体は異様な光景だった。

 とはいえ、等しく肉塊と化したこの男たちが、どうしようもない悪党であった事実に変わりはなく、彼等がこの地を縄張りとしている以上、近々テミス達とぶつかり合うのは間違い無かっただろう。

 それが今日であっても明日や明後日であってもさほどの違いは無く、寧ろ今日壊滅させる事ができたのならば、その分この悪党どもが重ねたであろう罪を無に帰したと言える。


「ま、どうでも良いか。話は歩きながらにしよう。逃げた連中が戻ってきても面倒だ」

「はぁ……最初の一撃さ。あれ、わざと受けたでしょ」

「無論だ。あの程度の剣、躱そうと思えば造作もないが、効率よく仕留める為には、敵の動きを止めた方がやり易かったのでな」

「仕留めるのは良いけどさ。一人くらい残しても良かったと思うよ? あの人たち、何か知ってるみたいな口ぶりだったし」

「あぁ……! 確かに……私としたことが失念していたな」


 言葉と共に歩み始めたテミスに従って、ユウキ達も襲ってきた男たちの死体が転がる路地を離れるが、歩みを進めながら受けた指摘に、テミスは目を丸く見開いて掌を叩いた。

 敵襲を警戒して神経を張り詰めさせていた所為もあって、敵を生かすという選択肢そのものがテミスの頭から抜け落ちていた。

 尤も、テミスが手加減をしなかったのは、外縁部とはいえネルードの町の中で騒ぎを起こしたとあっては面倒事に繋がりかねないからこそ、騒ぎが大きくなる前に早急に片を付ける必要があったからだ。

 とはいえその理由が無かったとしても。

 何をどう見繕っても、悪逆非道の徒である彼等に情けがかけられた可能性は限りなく低く、テミスは指摘されて改めて考え直してみたのだが、結果としてはさほど今と状況は変わらなかった。


「だが問題は無いさ。連中が何かしらの後ろだてを持っていたのならば、連中を叩き潰した事で本命が動き出すはずだ。それに我々は今潜入をしている身。捕虜など取った所で捕えておく場所が無い。よもや、ようやくここまで来たというのに、たった一人の捕虜を取るために、わざわざテルルの村まで引き返すのも無駄が過ぎる」

「む……むぅ……。そう言われると、確かにそうなんだけどさぁ……」


 冷静に状況を見据えたテミスが淡々と語ると、ユウキは可愛らしく頬を膨らませながら、頭の後ろで手を組んだ。

 ユウキの態度は何処かあざとさすら感じるものであったたが、彼女の持つあどけなさの残る整った容姿のお陰か、はたまたその明るい性格の為す技なのか、さほど嫌味を感じる事は無かった。


「やれやれ……全く我儘だな、お前は。何がそんなに不満だと言うんだ?」

「不満なんて無いよ。ただ、楽しそうだったなって、ちょっとだけ羨ましかっただけだもん!」

「あぁ……悪かったよ。次にああいった類の連中と戦いになったら、まるっと譲ってやるから機嫌を直せ」


 唇を尖らせて拗ねてみせるユウキに、テミスはクスリと笑みを浮かべ、肩を竦めて言葉を返す。

 こんなくだらない話をしている間にも、結構な距離を歩いたらしく、周囲の街並みが様相を変え始めていた。


「お二人とも。そろそろ中心街に差し掛かります。ご注意を」


 そんなテミス達に、案内役を務めるノルは諦観の滲む微笑みを浮かべながら、淡々とした言葉で注意を促したのだった。

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