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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第30章

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2025話 粉骨砕身

 テミスの発した警告に対して、男たちの答えはたった一言の言葉を交わさずとも結論が出ているほど、単純にして明快なものだった。

 鋭い表情で睨みを利かせるテミスを前に、男たちは手にした武器を一斉に振りかざすと、反抗の意思を見せたテミスへ一斉に襲い掛かる。

 しかし、テミスは男たちの攻撃に対して、背中に背負った固く布を巻き付けた大剣へと手を伸ばす事すらなく、平然とそれを待ち受けていた。


「ハッ!! おおかた、売り物にされるんだったら手は出されねぇだろうと思ってたんだろうけどよ……アテが外れたなぁ……!!」


 ガギバギギャリン! と。

 振り下ろされ、突き立てられた刃と刃がぶつかり合う音が響き渡り、斬りかかった男たちのリーダーらしき、テミスと睨み合っていた男が、下卑た笑みを浮かべて怒鳴り声をあげる。


「テメェ等ァ!! いつも通りだ! 手足の一、二本程度構う事ァねぇ!! 残りの連中もさっさと捕まえちまえ!!」

「オオォォッ!!」

「――ッ!!」


 威勢良く吠え猛る男の怒号に、仲間の男たちは呼応して雄叫びをあげると、手にした武具の切っ先を、残った三人へと向けた。

 瞬間。

 矛先の向けられた敵意にユウキがいち早く反応を示すと、既に手を番えていた剣を涼やかな音を響かせて抜き放ち、リコとノルを背に庇いながら構えを取る。

 だが、男たちの目にはユウキ達は既に獲物としか映っておらず、多勢に無勢であるという事実も相まって、彼我の戦力差を正しく見極める事ができる者など一人も居なかった。

 故に。男たちは口角から唾をまき散らしながら怒声をがなり立て、一人立ちはだかるユウキへと斬りかかっていく。

 しかし。次に響いたのは涼やかさすら感じさせる美しい剣閃の音で。

 激しい金属音が連続して響き渡ると共に、男たちの握っていた粗末な武具が蒼空を舞う。


「んなぁッ……!!?」


 その光景は、男たちにとっては予想だにしていなかったもので。

 武具を弾き飛ばされた男たちは、痺れの残る自らの空の手を目を丸くしてポカンと眺めた後、一斉に驚愕の声を漏らす。

 それと同時に、テミスへと斬りかかったため、己の武具を失う事の無かった幸運な男たちも揃って驚きの声をあげ、一斉に視線をユウキの方へと向けた。

 もはや彼等の頭の中には、突如として目の前に現れた理解不能の強敵であるユウキの事ばかりで。

 既に斬り伏せ終わったテミスの事など、彼等の頭の中からは瞬く間に抜け落ちていく。

 だが……。


「ねぇ。あまりボクばかりに気を向けていると――って……ごめん。もう遅いや」

「あぁ……? テメェ……いったい何を……ぐぁッ!!?」


 新たに切っ先を向けられて尚。

 ユウキは携えた剣をクルクルと弄びながら男たちへ向けて口を開くが、ふと視線を下へと向けると、喋りかけた言葉を途中で止め、ぺろりと可愛らしく舌を出して朗らかに謝罪する。

 唐突な謝罪に、男たちは当然意味を理解する事ができず、剣呑な雰囲気を纏って問いを口にしかけるが、その声はズドムッ!! と強烈に肉を打つ重低音によって叩き消された。


「な……な……なん……っ……!!」

「やれやれ。間抜けな連中だ。私たちに絡んでこなければ、あと数日は長生きできたものを」

「おごっ……!!」

「げぼあッ……!!」

「ぎゃばッ……!!」


 背中に背負った大剣で全ての攻撃を受け止めていたテミスは、そのまま剣を抜き放つ事無く拳を振るい、狼狽える男たちを叩き伏せていく。

 しかし、拳打といえども放たれる拳の威力は凄まじく、一撃を叩き込めば大の男が宙を舞って壁に血の花を咲かせ、打ち伏せられた男の胴体が拉げて曲がる。

 テミスの情け容赦無い暴虐の拳を受けた男たちが立ち上がる事は二度と無く、テミスは自身へと斬りかかった男たちも、ユウキに武器を弾き飛ばされた男たちも区別せず、瞬く間に叩き伏せた。

 そのわずか数秒後。

 テミス達の前に残っていたのは、彼等に指示を出していた男一人だけで。


「ひ……ひぃぃっ……!? 何だってんだよ……!! 畜生ォォッ……!!」


 眼前に佇む修羅の如きテミスの姿と、見るも無残な姿となった仲間達の姿に肝を潰した男は、恐怖に満ちた悲鳴をあげながら脱兎のごとく遁走を始める。

 だが、当然テミスがそれを逃がすはずも無く。


「びッ……!?!?」


 瞬きの間にテミスは逃げ出した男の傍らまで追い付くと、鋭く放たれた足払いが逃れんと前へ踏み出した足を吹き飛ばした。

 そして……。


「まぁ……遅かれ早かれ駆除(・・)する事にはなっただろうがな」


 訳も分からず悲鳴をあげる男の身体が宙を舞った刹那。

 テミスが吐き捨てるように呟きながら、固く握り締めた拳を男の顔面へと叩き込むと、骨の砕け散る嫌な音を奏でて、男の頭蓋は地面へと突き刺さったのだった。

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