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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第30章

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2024話 栄華の足元

 ネルード公国の首都である公都ネルード。

 テミス達が拠点を構えたテルル村からは、徒歩で約三時間ほどの場所に在った。

 その技術発展は目覚ましく、隣接するテルル村の鄙びた情景とは異なり、天を衝く摩天楼のような聳え立つ建物や、煌びやかな照明が目に留まる。

 一方で。

 ネルード公国の急速な発展を物語るかの如く、町の中心部に雨後の筍のように背を伸ばす摩天楼の足元には、テルル村のような木造や石で造られた背の低い建物が軒を並べており、その数は外縁部に近付くほど増していく。


「あの町が、公都ネルードです」

「……趣味の悪い町だな」


 前方に近付いた町を示してノルが告げると、テミスは顔を顰めて吐き捨てた。

 この町を作った者の技術力が高いのは、町に聳え立つビルを見ればひと目でわかる。

 だが、その周囲を取り囲む家屋はどれも薄汚れていて。

 町の中心部こそ発展しているのだろうが、町の外縁部は酷く治安が悪く、貧民街が形成されているのが見て取れた。


「外壁も無し……か。随分と不用心に思えるが……」

「こちら側では必要ありませんからね。隣接する国は全て人間の治める国ですし、その殆どが連合の一員ですから」

「なるほど。あちら側とは事情が違うんですね」

「それはそれで不思議な気もするがな。魔獣なんかに対する備えは要るだろう」

「魔獣が出ても、襲われるのはほとんど外縁部に住んでいる人たちだからね……。町の中心で被害が出る事はほとんど無いんだよ」

「あぁ……つまりは体のいい肉の盾という訳だ……反吐が出る」


 徐々に近づいてくる町に防壁は見当たらず、道に沿ってまばらに建てられた家屋の数が、徐々に密度を増していくのを眺めながらテミスがボソリと呟きを漏らすと、前を歩くノルが軽やかな口調で解説を返す。

 しかしその実態は、安全であるから防壁がない……などという平穏なものでは無く、防壁を建てるほどの脅威が存在しないが故の、ある種の弱肉強食的な差が幅を利かせていた。


「えぇと……なんだか私たち……すっごく見られていません?」


 しばらく進み、テミス達一行が町の外縁部へと足を踏み入れる。

 すると、薄汚れたボロ布のような服を身に纏った住人たちが、時に獲物を狙うかのような鋭い眼で、時に何処を見ているかも知れないどんよりと濁り切った瞳で、道を行くテミス達へ視線を向けていた。

 その異様さは、最も視線を向けられているリコが身震いするほどで。

 お世辞にも歩きやすいとは言えない治安の悪さに、テミスは周囲を威圧するように睨み付けながら唸るように口を開く。


「リコ。ノル。一応だが、私とユウキから離れるなよ?」

「は……はいっ!!」

「わかりました。少し警戒した方が良いかもしれません。以前に私がこの辺りを訪れた時は、貧しくはありましたがこれ程では無かったはずなのですが……」

「襲われたらどうする? できればボク、この人たちを斬りたくは無いんだけれど……」

「斬らずとも構わんが叩き伏せるぐらいはしろ。情けをかけていちいち絡まれては時間の無駄だ」


 ビリビリと肌を焼く不穏な空気に、テミスが忠告を発すると、コクリと頷いたリコが一歩テミスの側へと近付いた。

 一方で、ユウキは周囲へ意識こそ向けているものの、酷く悲し気な表情を浮かべていて。

 わかり易く気の乗らない声で発せられたユウキの問いに、テミスは淡々と指示を返す。

 そうこうしている間に、まばらだった家屋が立ち並ぶようになり、テミス達へ視線を向ける町の人々の質も僅かに変化する。

 とはいえ、その変化は良い方向へ傾いた訳ではなく、最外縁部では幾らか見て取れた無気力な視線が減り、代わりにギラギラとした害意が膨れ上がっている。


「やれやれ……毎度この道を通るのは面倒だな……」


 公都の様子を探るにしても、しばらくの間はテルルの村と行き来する必要がある。

 それ故に、この道は幾度も往復をしなくてはならないのだが、その道中がこの有様では、いつ襲われた所で不思議ではない。

 場合によっては、ロロニアと調整をする必要があるな……。

 周囲の様子に気を配りながら、テミスがそう胸の内で嘯いた時だった。


「オイオイ、姉ちゃんたち。ちぃっと待ちな」

「随分と沢山荷物抱えてんじゃねぇか」

「つーか、よく見たら全員イイ女じゃねぇの。こりゃあ中央の連中に高く売り付けられるぜぇ……!!」


 立ち並ぶ建物の間から、柄の悪い男たちがぞろぞろと姿を現すと、下卑た視線をテミス達へと向けながら一行を取り囲んだ。

 その目的は火を見るよりも明らかで。


「一応、警告はしておいてやる。怪我をしたくなければ素直に道を開けろ」


 そんな男たちを前に、テミスは深いため息と共に前へと進み出ると、視界の傍らでユウキが腰の剣へ手を閃かせたのを追いながら、正面に立つ男たちをギラリと殺気の籠った視線で睨み付けて告げたのだった。

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