表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第30章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2096/2322

2023話 未来を憂いて

 明くる朝。

 交代で睡眠をとったテミスは、窓を覆う分厚いカーテンの隙間から外を覗き、完全に陽が昇ったことを確認する。

 夜のテルル村は寄せては返す波の音だけが穏やかに響き、とても心落ち着く心地の良い一夜だった。

 だが、テミス達以外に他人の居ないこの村では、日が昇った今も同じ事で。

 変わらない静けさの中、室内では先に見張り番を務めていたユウキとノルの寝息が、微かに響いている。


「よし……ひとまずの安全は確認できたな……」


 静かに呟きを漏らすと、テミスは覗いていた窓から離れて一息を吐き、とすりと椅子へ腰を落ち着けた。

 ともすれば、何かしらの問題が起きるのではないかと危惧していたが、深夜のテルル村には異形どころか魔獣の一匹すら出没する事は無く、テミス達の平穏が破られる事は無かった。

 つまるところ、村人が消えてしまった要因は他にあるという事で。

 とはいえ、現在のテルル村に拠点を設置する事ができる事実に変わりはなく、ここがネルードを探り乱す為の橋頭保となるだろう。


「……侵攻作戦を視野に入れるのならば、前線拠点に作り変える手もある……か」


 ふと脳裏を過った可能性に目を向けたテミスは、自身の体重を背もたれへと預けて椅子を傾けると、バランスを取りながら思考を走らせた。

 このまま戦いが続くと仮定した時。

 侵攻側であるヴェネルティを退けただけで、停戦なり終戦なりの決着へと持ち込む事ができれば、戦いは湖上だけで済むだろう。

 だが、幾度となく退けてもなお戦いが終わることなく、ヴェネルティ側が敗北を認めなかった場合。

 敵の中枢たる都に攻め込んで、ヴァネルティの継戦能力なり統率者を討ち取る必要がある。

 その段階まで至った時。

 ここテルルの村は、ネルードの首都の近くに位置しており、かつ空き家には事欠かないうえに、それなりに物資などを一時的に保管できるスペースもあるため、前線拠点としては破格の性能であると言えるだろう。


「一応、フリーディア達にはこの町の存在は報せておくべきだろうな」


 今即座にこの村を拠点と作り替えても利点は少ない。

 そう判断したテミスは思考を打ち切ったものの、次の報告書に記すべき事項として、頭の片隅に考えを留め置いた。

 そこへ。


「リヴィア様! 紅茶がはいりました! どうぞっ!」


 早朝であるにも関わらず元気のいいリコが歩み寄ると、温かな湯気をあげるティーカップをテミスへと差し出した。

 どうやら、リコが担いでいたあの大荷物の中には、行商人として偽装する為の物だけではなく、こうした生活用品や嗜好品の類も詰め込まれていたらしい。


「ありがとう。頂こう。だがリコ。少なくとも、こちらに居る間はテミスと呼んで構わない。ユウキもノルも、私が誰であるのかは知っている」

「っ……! そうなんですね! わかりました。私てっきり、ノルさんには知らせていないものだと」

「クス……色々とあってな」


 テミスは受け取ったティーカップを傾けながら、部屋の片隅で眠っているノルとユウキへ視線を向けると、穏やかな微笑みを浮かべて言葉を紡いだ。

 考えてみれば、今回の潜入攪乱作戦にあたるメンバーも、なかなかの変わり種のような気もしてくる。

 蒼鱗騎士団に所属していたノルはそもそも、テミスがこの戦いに加わらなければ、パラディウム砦の戦いで命を落としていただろう。

 リコは白翼騎士団の所属だし、旗手を務める彼女は戦いに向いてはいないため、本来ならばこんな作戦に参加する事も無かったはずだ。

 そしてユウキなんて、元々はヴァネルティの側に着いて戦っていた敵なのだ。

 本来ならばこの場に居るはずの無いテミス自身は言わずもがな、そう考えると不思議な縁を感じなくもない。


「……? どうかしました? 私の顔に何かついています?」

「ふっ……いいや、何でもない。ただ、奇妙な縁もあったものだと思っていただけさ」

「えぇと……? まぁ確かに、言われてみれば変わった面々ではありますね!」


 考えを巡らせながら、テミスの視線は自然と傍らで自身の分の紅茶に口をつけているリコへと向けられ、それに気付いたリコが首を傾げて問いを口にする。

 その問いに対して、テミスが偽らざる胸の内を打ち明けると、僅かに考える素振りを見せたリコは、にっこと笑って頷いてみせた。


「……もう少ししたら二人を起こそう。今日はひとまず、首都の様子を探りに行く」


 そんなリコに頷きを返してから。

 テミスは凛とした声で告げると、手に持っているカップをぐいと煽ったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ