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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第30章

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2093/2320

2020話 人々の消えた村

 ざざぁ……ざざぁ……と。

 押し寄せては引いていくさざ波が涼やかな音を奏でる中。

 テミス達の姿はネルード公国の領内の片隅にある、朽ち果てた漁村にあった。

 今の時刻は、まだ陽すら顔を出していない早朝。

 夜の帳をほんの僅かに存在感を主張し始めた太陽が、蝋燭の灯のような頼りない光でうっすらと闇を払いはじめている。


「到着だ。ここはテルルの村。昔は隣の首都に魚なんかを卸していた漁村だったが、今はご覧の通り、ここに住んでいる奴は居ない」

「廃村……ですか……。ネルードの首都が隣にあるというのに、なんだか不思議な気がもしますねぇ……」

「さぁな。詳しいことは俺も知らねぇが……。噂じゃこの村の住人はたった一夜のうちに消えちまったんだとさ。だからこの辺りの連中は今でも気味悪がって近付かねぇから、忍び込むには都合がいいんだ」

「フムン……?」

「っ……!」

「えぇっ……!? なにそれッ!! ゴーストタウンじゃん!! 怖いなぁ……おばけとか、出て来ないよね……?」


 異様な形の船を背に、胸を張ったロロニアが朗々とした声で語ると、テミス達は思い思いの反応を示しながら、揃って周囲に視線を走らせた。

 ユウキの口走った幽霊などという話は眉唾ものだが、そんな話を聞いてしまったが最後、しんと静まり返っている打ち棄てられた村の雰囲気は不気味さを増し、意図せず神経が尖っていく。


「意外ですね……。君はそれだけ腕が立つのに、おばけが怖いんですか?」

「確かに! てっきり、おばけなんか出てきても、ボクが斬るから安心してよ! とか言ってくれるかと、実は期待していたのですが」

「何を言っているのさ! だっておばけだよ? ボクだって斬れない相手は怖いよ!」

「フッ……ともあれ、ひとまず今すぐに襲われる心配はなさそうだがな。……尤も、その幽霊とやらが、気配すら無く襲い掛かってくるのだとしたらお手上げだが。んん? 今あそこの物陰に白い影のようなものが――」

「――ひぃっ……!! 安心させてから怖いこと言うのやめてよっ!!」


 僅かに上ずった声で言葉を交えるユウキ達を尻目に、周囲の警戒を終えたテミスは、微笑みを湛えながら、三人を安堵させるかのように肩を竦めて告げる。

 だがその言葉に、ユウキたちの気が僅かに緩んだ隙を見逃さず、テミスは港の傍らの朽ちかけた小屋を指差して嘯いてみせた。

 瞬間。

 ビクリと身を竦めたノルが一歩退き、リコもテミスの示した方へと身構える。

 だがユウキだけは、甲高い悲鳴をあげて跳び上がると、テミスの腰に縋り付いて涙目で震えながら抗議の声をあげた。


「ははっ……! すまんな。あまりに怖がるものだから、つい悪戯をしてしまいたくなったんだ。許せ」

「もぉっ!! 本当に出てきても知らないんだからね!! そうやってふざけている人が、一番危ないんだよ?」

「もぉ……意地悪は可愛そうですよ? というか、私達も本気で怖いのでやめてください!」

「おばけが出たのかは兎も角、敵かと思って緊張しました」

「…………。ハァ……お前等なぁ……。観光しに来たんじゃないんだぞ? 他人の寄り付かない廃村とはいえ、そんなに騒ぐのはどうかと思うぜ?」


 早速とばかりに悪戯を仕掛けたテミスに、ユウキが叫びをあげると、ノルとリコも息を合わせてテミスに苦言を添える。

 そんなテミス達の騒がしい様子を傍らで眺めていたロロニアは、一人深いため息を吐いたうんざりと首を振ると、呆れかえった口調を隠そうとすらせずに、苦笑いを浮かべて告げた。


「なに。これくらい騒がしい方が、敵の有無を見分けるには丁度良いだろう。これだけ喧しくしても、動き一つ無いのが安全の証明だ」

「一応言っておくが、俺はこの後すぐ本隊に戻って、団長サマたちに状況を報告しなくちゃならねぇんだ。特に、白翼の団長サマからは、お前達がしっかりと任務にあたっているのか見てくれと念を押されているんだ」

「ハッ……! だからこうして、ちゃんと周囲の索敵をしているんだろうが。私はいたって真面目に任務を遂行しているぞ?」

「へっ……そうかい。そりゃ失礼しましたよ。俺にゃ、姦しくお喋りしているようにしか見えなかったんでね」


 ロロニアの忠告に、不敵な微笑みを浮かべたテミスが皮肉で返すと、ロロニアは鼻を鳴らしながら、付き合い切れんとでも言わんばかりに大袈裟に肩を竦めてみせる。

 だが、ロロニア自身もこれ以上テミスに何を言った所で、皮肉が返ってくるだけだと理解しているのか、それ以上の言葉を重ねる事は無く、代わりにコツリと一歩船へ向けて歩み寄った。

 そして。


「次の定期連絡は三日後のこの時間。この場所だ。補給物資も持って来るから、遅れるんじゃあねぇぞ?」


 肩越しにテミス達を振り返ったロロニアはそれだけ言い残すと、身軽に桟橋を蹴って船へと飛び乗り、開いたままになっているハッチへと身を滑り込ませていく。


「了解した。では、我々も行こうか。ひとまず拠点となりそうな場所を見付けるぞ」


 そんなロロニアを見届けると、テミスは自分の腰に縋り付くユウキを引き剥がしてからクルリと身を翻し、悠然と廃村の中へ向けて歩き始めたのだった。

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