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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第30章

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2092/2321

2019話  徒然船中

 明かり一つ無い漆黒の闇に包まれた湖の上を、一隻の小型船が滑るように疾駆する。

 大きさは漁師たちが操る漁船程度ではあるものの、その船は舳先が波を割く音も、掲げられた帆が空を切る音も奏でてはいない。

 その船は目に留める事があれば、瞬時に異様である事が理解できる程だったが、極めつけはその船体。

 本来ならば人が乗っている筈の甲板はのっぺりと丸みを帯びており、たとえ上に乗れたとしても、柵の一つどころか掴まる事ができるような突起さえも設えられていない甲板では、数分と経たずに水面へと投げ出されてしまうだろう。

 そんな、異質な風体の船は夜闇に紛れて、一路にネルード公国を目指していた。

 その甲板の下。

 本来ならば人が乗るために設えられているはずの空間では、潜入用の装備を身に纏ったテミスとユウキが、船の動力源に設置されている魔石へと魔力を送り込んでいた。


「動力用の魔石は十分に積んできているからな。暫く眠っていても良いぜ? どうせ着くのは明け方だ」

「これに飽きたらそうさせて貰うさ」

「やる事無くて、退屈だもんね」

 

 そんなテミス達へ、船を繰るロロニアが天井から突き出た潜望鏡を覗きながら告げると、気の抜けた返答が返される。

 これが普通の船ならば、流れる景色を楽しむ事も、肌に吹き寄せる風を感じる事も、夜空を見上げて星空を眺める事も出来るのだろうが、窓一つ設えられていないうえに、甲板が蓋の役割を果たしているこの船の中ではどれも叶わない行いで。

 唯一外の様子を窺い知る事の出来るロロニア(総舵手)以外は、ただぼんやりと過ごす他にやる事が無いのだ。

 ならば……。と。

 手慰みに船への魔力を供給し始めたテミスに、同じく魔力を有しているユウキも加わったのだ。


「そう言われてしまうと、退屈している事しかできない私たちの立つ瀬がありません」

「あはぁ……。何なら私達も魔力、絞り出します? 一瞬で倒れる自信がありますけれど」

「そんな事をするくらいならば、何か面白い話の一つでもしてくれたほうが有り難い」

「また無茶を……」

「えぇ……? 面白い話……ですか……? う~ん……四日前の訓練で、サキュドさんの攻撃を受けたイガルムさんが、勢い余って湖に落ちちゃった話とかですかね?」


 魔力を有するテミス達が手慰みにありついた一方。

 いたって普通の人間並みの微々たる魔力しか持たないノルとリコは、思い思いの飾らない態度で言葉を返した。

 そこへ投げかけられたのは、無慈悲なテミスの難題で。

 唐突に放り渡されたキラーパスに、言葉に詰まったノルが苦笑いを浮かべる一方で、小首を傾げたリコは視線を虚空に泳がせながら、のほほんとした口調で話し始める。


「イガルムさん。普段は泳げるんですけれど、サキュドさんが笑いながらぷかぁって浮かんでくる頭を槍で突っついて沈めてて……。あぱあぱ言っていて可愛かったです!」

「…………」

「えぇっと……どういう反応すれば良いのかな? これ……」

「知らん。私に聞くな」


 朗々とした口調で語られる情景は、テミスの求めた面白さとはかけ離れていて。

 だというのに、頭のねじを何処かへ落っことして来てしまったかのように、ニコニコと微笑みを浮かべて語るリコに、ノルは黙したまま頬を引きつらせ、ユウキも困ったように苦笑いを浮かべながら、静かな声でテミスへ囁いた。

 しかしテミスとて、そのような情景を面白おかしいものだと感じ取ることの出来るような、極めて嗜虐心に偏った感性は持ち合わせておらず、ピシャリと会話を拒絶する。


「あれ? 面白くなかったですか? この話、サキュドさんがすっごく楽しそうにコルカさんたち話していたので、てっきりこういうのが面白いのかと……」

「少なくとも、私はサキュド(あいつ)のようにねじ曲がった感性は持っていないな」

「そうなんですね! ふふっ……!! でも、あの時はイガルムさんのつるつるの頭がこう、浮いたり沈んだりしてて……」

「ンゴフッ……!! ゴホッ! ゴホッ……!!」

「あははははっっ!! ごめん……! それは面白いかも……」

「っ……! ふふっ……! ごめんなさい……笑うべきではないと……わかってはいるのですが……」


 身振り手振りを交えながら、不意打ち気味に加えられたリコの説明に、噴き出したテミスは笑いを堪えようとして咳き込んだ直後。ユウキが屈託のない笑い声をあげ、それに続いてノルがプルプルと全身を震わせながら笑いを零す。


「ハァ……何の話をしてんだよ。まったく、緊張感の無い奴等だぜ……」


 そんなテミス達の会話に耳を傾けながら、一人真剣に船を繰るロロニアは、呆れかえった声で呟きを漏らしたのだった。

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