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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第30章

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2017話 お人好しの器

 自身の正体を明かしたノルは、フリーディアに問われると、改めて現在のネルードの状況を語り聞かせた。

 それを傍らで聞くテミスとユナリアスは二度目ではあるものの、口を開く事さえ憚られるような雰囲気を身にしみて感じながら、互いにチラチラと目配せをしていた。

 今回の件では、フリーディアが拘束するという選択をしなかった以上、ひとまずノルの安全は確保されたと言っても良いだろう。

 けれど、それはあくまでもノル自身のみのことで。

 ノルの正体を秘していたユナリアスや、同じくそれを知りながらもフリーディアへ情報を伏せたまま作戦を遂行せんと動いたテミスには、フリーディアが怒りを覚えていても何ら不思議ではないのだ。

 否。フリーディアの性格を鑑みるのならば、まず間違いなく彼女の内心は怒髪天を衝いており、今はノルがいる手前、穏やかな調子を保っているものの、その矛先がテミス達へ向けられるのも時間の問題だろう。


(これはマズい……! 非常にマズいッ!)

(うん……。私たちが叱られるのは避けられないだろうね。でも、ノルが無事で本当に良かった……)

(何を諦めている!! 我々の選択は間違ってはいなかった!! 何か……何か策は無いのか!?)

(諦めて覚悟を決めよう。ここで無駄に足掻けばフリーディアは間違いなく拗ねるよ?)

(ぐっ……!! それはッ……!!)

(叱られるよりも厄介だろう? ここは大人しく受け入れるべきだよ)


 フリーディアがノルの話を聞いている最中、テミスはそろりとユナリアスに身を寄せると、ヒソヒソと押さえた声で言葉を交わす。

 だが、事がここに至ってはフリーディアの旧友であるユナリアスの見立ては正しく、何をした所で逆効果になるのは目に見えていた。

 故に、二人はまるで教師から受ける説教の順番待ちをしている生徒のように、目を泳がせながらそわそわと所在無さげにノルの話が終わるのを待った。

 そして。


「うん。状況はわかったわ。そういうことなら、あの作戦は納得だわ? だけど……」

「っ……!」

「クッ……!」


 ギギ……と。

 油の切れた機械人間のようにぎこちの無い動きで、フリーディアはゆっくりとテミス達の方を振り向き、笑顔のまま話の水を向ける。

 しかし、浮かべているのは笑顔であるにも関わらず、漏れ出ている怒気はテミス達が気圧されるには十分過ぎるほどの迫力があり、二人は揃って肩を揺らすと、鋭く息を呑んだ。


「ねぇリヴィア。私ってそんなに信用が無いかしら? こんなに大事な事を隠したままだなんて酷いわ?」

「ッ……!! ひ……秘密を共有する者は少ない方が良いだろう。それにお前はこの部隊の指揮官なんだ。彼女の身の安全を最優先としたまで」

「ふぅん……? でも、私はここの指揮官よ? 報告は迅速に正確に! ……貴女、いつも言っていなかったかしら?」

「っ~~~!!! そうだな。ならば報告ついでだ。今この場では私をリヴィアと呼ぶ必要は無い。ノルは既に、私がテミスであると知っている」

「っ……! へぇ……それでよく、秘密を共有する者は少ない方が良い……だなんて言えたわね?」

「ッッッ……!!!」


 カツリ、コツリと一歩づつ詰め寄りながら、フリーディアは淡々とテミスを追い詰めていく。

 最初こそテミスは抵抗を試みたものの、あまりの旗色の悪さに降参を決め込んだテミスが、ノルに自身の正体を明かした事を白状すると、フリーディアは笑顔が迫力を増し、するりと伸ばされた手がゆっくりとテミスの頬を撫でる。


「まぁ……貴女にしては珍しく白状したみたいだし、ひとまずはこれで良しとしましょう」

「…………」

「ユナリアス。貴女、わかっているのかしら? 偶然、今まで秘密が漏れなかったからよかったものの、もしも露見していたら大事よ? 貴方だけの問題ではなくて、ノラシアスおじ様……いいえ、フォローダ家全体を巻き込んでしまうわ?」

「それは……!! うん……反省している……」

「ならせめて。無事フォローダに帰還できた時点で、私には話して置いてくれても良かったんじゃない? そうすれば何かあった時にも対処はできるし、事前に対策も取っておけたわよね?」

「うっ……! ごめん……フリーディア……」


 テミスが白旗をあげたのを確認すると、フリーディアはぐるりと矛先を隣のユナリアスへと変えて、詰め寄りながら懇々と言葉を重ねる。

 話がユナリアス自身の事だけではなく、家全体にまで及んでいる所為か、心なしかテミスの時よりもフリーディアの語気は強く、怒りよりも心配が多く滲み出ていた。


「ハァ……全く……!! こういう事はちゃんと言いなさい! 何かが起きてからじゃ庇い切れない事だってあるのよ?」

「…………」

「うん。ごめんね……フリーディア……」

「貴女もよ? テミス! いつもみたいに一人で飛び出していかなかったのは良いけれど、巻き込むのならちゃんと話して! 本当に悪い癖よ? 私、ロロニアさんの時も言ったわよね?」

「っ……!! すまん……」


 謝罪を繰り返すユナリアスを前に、フリーディアは一つ大きく息を吐くと、踵を返してユナリアスとテミスの前に腰に手を当てて仁王立ち、凛と言葉を続ける。

 しかし、そこでふいと視線を逸らしたテミスには、ビシリと指を突き付けての追い打ちが待っており、痛い所を突かれたテミスは反論を失って遂に謝罪を口にした。


「二人とも、今言った事は本当に猛省なさい! わかったのならお説教はお終い! さ……そんな所に突っ立っていないで、作戦を詰めましょう!」


 そんなテミス達に、フリーディアはピシャリとそう言い切った後、パンと一つ手を叩いて、口調と話題を変えたのだった。

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