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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第30章

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2014話 正道と邪道

 酷い茶番だ……。と。

 眼前で繰り広げられる光景に、テミスは密かに胸の内でひとりごちる。

 そもそも本来ならば、このような小細工など必要ないのだ。

 部隊を率いる身となったテミスは、対外的にも白翼騎士団に助太刀する一介の騎士ではなく、フリーディアやユナリアス、そしてロロニアとほぼ同格の指揮官となった。

 尤も、全部隊の総指揮権をフリーディアが有している以上は完全に同格という訳ではないのだが、こと作戦の立案、提案に関しては四人の間に差は存在しない。

 フリーディアの有する気質と、テミスのやり方が絶望的に相性が悪いが故に、まずはその先入観を除く必要があるからこその小細工ではあるのだが……。


「やれやれ……」


 気持ちの昂りを抑えきれなかったノルを宥めるユナリアスとフリーディアを眺めて、テミスは皮肉気に溜息を漏らす。

 確かに、必要な措置であることは理解している。

 だが、そのやり方が気に入るか否かは全く別の話で。

 今回のやり方はノル自身の発案とはいえ、涙を流して慟哭するほど大切な彼女の感情をも利用しているようで、テミス気は重たかった。


「わかったわ。他でもない貴女がそう言うのなら、きっと間違い無いのでしょう。ですがこの地は最前線。私が時間を与えてあげたくても、敵の出方次第ではどうにもならないというのが現状よ」

「それは……その……はい……」

「っ……!」


 そうテミスが物思いに耽っている間に、フリーディアは我が子をあやす母親を思わせるような柔らかな声色でノルに語り掛ける。

 口調は穏やかで、浮かべた微笑みはどうしようもなく優しい。

 けれど、告げている言葉は表面的にノルの意志を肯定しながらも、それは不可能だという現実を言い聞かせていた。

 事前に取り決めた手筈では、ここでテミスが進み出て作戦の説明に入る予定だったのだが、テミスは内心の不機嫌を露に唇をへの字に結んだまま、冷ややかな瞳でフリーディアを見据えていた。


「……あら? 貴女なら、この辺りで話に入ってくると思ったのだけれど?」

「見え透いた罠に飛び込む程、私は阿呆では無いのでな」

「っ……! フリーディアっ……!」


 ノルのすすり泣く声だけが響く数秒間の沈黙。

 それを破ったのは、ノルを抱きしめたまま不敵な微笑みを浮かべてテミスを見上げたフリーディアの言葉だった。

 その表情には、先ほどまで満ち満ちていた優しさは無く、ぽっかりと空いた奈落の底でも見下ろしているかのように、腹の底が読めない不気味さが揺蕩っていた。

 だが、奇襲気味に仕掛けられたフリーディアの言葉に、テミスは動ずることなく応ずると、変わらず氷のように冷たい瞳で見据え続ける。

 しかし、同行していたユナリアスは、ピクリと肩を跳ねさせて怒りの声をあげた。


「君は……君は最初からわかっていて……!!」

「えぇ。あなた達が飛び込んできた時は少し焦ったけれどね。でも、話を始めた時にはもう、何かがあるとはわかっていたわ?」

「ッ……!! っ……!」

「ハッ……!! 清廉潔白にしてお気楽頭のお前が、随分と腹黒い真似を覚えたじゃないか」

「貴女が言えたことではないでしょう? 私、少し……いいえ。かなり怒っているわよ? こんな、この子の想いを利用するような真似をして……!!」

「それはお前の勘違いだよ。私たちの意志は同じさ」


 食いしばった歯の隙間から悔し気に声を漏らすユナリアスに、フリーディアは毅然とした態度で応ずると、ノルに寄せていた身を離して真っ向から相対する。

 それに対して、ユナリアスは堪らず一歩前に踏み出しかけるが、テミスはそれを留めるように背後からユナリアスの肩を柔らかく掴むと、交代だと言わんばかりに自身がフリーディアへ言葉を返しながら前へと進み出た。


「今後は何を企んでいるのかは知らないけれど、勝手な真似は絶対に――」

「――だからこうして、わざわざ報告に来てやったんだろうが」

「っ……! 報告……?」

「待つんだ二人とも! 話はまたにしよう! 一度、落ち着いてからにすべきだ!」


 真正面から睨み合うテミスとフリーディアの気迫に、正気に戻ったユナリアスが顔を青ざめさせて制止の声をあげる。

 しかし、その声は既にテミスにもフリーディアにも届く事は無く、臨戦態勢のテミスが口を開く。


「報告……いや通達とでも言うべきか。まあ、言葉遊びなどどうでもいい。どのみち他に手は無いのだからな」

「言ってくれるじゃない。どうせ碌な事では無いのでしょうけれど、彼女の気概に免じて話だけは聞いてあげるわ」


 喉を鳴らして皮肉をぶつけたテミスに、フリーディアは視線を唖然とした表情で自分達を見上げるノルへチラリと向けてから、凛と気高さを纏って応じたのだった。

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