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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第30章

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2012話 最初の難敵

 ノルが落ち着くのを待ってから、テミスはユナリアスとノルを伴い、指揮所の天幕へと踵を返していた。

 しかし、その面持ちは厳しいもので、心なしか天幕へ向かう足取りも、まるでこれからの出来事を厭うかの如く遅かった。


「こういう時、フリーディアは頑固だからねぇ……」

「ならばやはり、フリーディアの奴には伏せて事にあたるべきではないか?」

「それはお勧めしないかな。きっと……いいや、必ずもっと面倒な事になる」

「具体的には?」

「そうだね……少し時間はかかるだろうけれど、君の行方は必ず知られるはずだ。そうなってしまったらもう止まらないね。フリーディアは必ず乗り込んでいく」

「っ……。…………。ハァ~……、勘弁してくれ」


 先ほどから二人の間で交わされているもっぱらの議題は、潜入攪乱工作を仕掛けるにあたって、如何にフリーディアを納得させるかというもので。

 だが、旧友であるユナリアスの知恵を以てしても、決定打となるような解決案は一向に出てくる事は無い。

 むしろ、回避策を捻り出す度に、作戦自体を破綻させかねないフリーディアの暴走っぷりがありありと目に浮かび、テミスはうんざりとした表情で深々と溜息を吐いた。


「だからこそ、作戦をフリーディアに報せるのは前提として考えるべきだろうね。その上でどうやって、彼女をこちらへ留まらせて、かつ作戦を認可させるかが問題なんだ」

「……。…………。無理だろ。そんなの」

「はは……我が友ながら、頭の痛い話だね……」

「っ……」


 眉根に深々と皺を寄せ、テミスは顔を顰めて熟考するが、早々に思考を放棄して、再び幾度目になるかすらわからない溜息を重ねる。

 一方でユナリアスも、肩を竦めて苦笑いを浮かべるばかりで。

 傍らでその会話を聞いているノルとしては、立場上テミスたちの会話に参加してフリーディアをこき下ろす訳にもいかず、酷く気まずい思いを胸中に抱いて、ひたすらに沈黙を貫いていた。


「ハァ~……ったく……。仮にだ。もしもフリーディアの奴を連れて行ったとしたら?」

「私とロロニア殿だけでは、こちらに残る部隊の統率を取るのは難しいね。何より、フォローダとの折衝や、ロンヴァルディア本国との交渉を進める為には、フリーディアの力は外せない」

「だろうな」

「それと、付け加えるのなら。フリーディアは潜入作戦に致命的に向いていない。あちらで何か問題があればすぐに助けに走るだろうからね。目立つ事は避けられないよ」

「あ~……ウム……。それは、そうだろうな」


 淡々とフリーディアの短所を並べ立てるユナリアスの言葉は、友人であるが故か容赦が無く、的確に的を射ていた。

 とはいえ、潜入作戦に向いていないのはテミス自身にも言える事で。

 誰彼構わず人助けに走るのがフリーディアならば、現地で見るに堪えない横暴が目に留まれば、堪えず剣を抜いて騒動に発展するのがテミスだった。

 以前ヴァルミンツヘイムへ赴いた時などが良い例だろう。

 テミス自身もその事はよく、身に染みて理解していて。

 だからこそ、ユナリアスの放つ的確な指摘に、曖昧な返事を返す事しかできなかった。


「えっと……お二人とも、先ほどから足が止まっていますが……」


 会話が止まったタイミングで、酷く言い辛そうにノルが口を挟むと、三人はパチリと目を合わせた後、示し合わせたかの如く同時に破顔する。

 何故なら。

 三人の前には既に、指揮所の天幕が待ち構えていて。

 しかしながら、未だに対策の一つもたてられていないテミス達は、誰からともなくピタリと足を止め、議論に花を咲かせていたのだ。


「参ったな。ユナリアス。不思議な事に、先ほどから足が前へと進もうとしないんだ」

「奇遇だね。実は私もなんだ」

「お二人とも……」

「どうだ? ここは一つ、湖でも眺めながら作戦会議といかないか?」

「それは良い考えだね。あまり時間をかけてもいられないけれど、一旦考えをすり合わせた方が良い」


 おずおずと告げられたノルの言葉に、テミスはクスリと皮肉気な微笑みを浮かべると、傍らのユナリアスへ向けて肩を竦めて嘯いてみせる。

 するとユナリアスも、微塵たりとも迷うこと無くテミスの言い出した戯れ言に乗っかり、二人揃ってクルリとその身を翻した。


「あ……? えっ……!? ちょっと……!!」

「さ。ノルも行くよ。ここでは話しづらいだろうからね。君の案も是非聞かせて欲しい」

「あぁ。我々では万策が尽きつつある。ここは一つ、あの向こう見ずな堅物の鼻を明かすような名案を捻り出そうじゃないか」


 そんな二人に、ノルは戸惑ってその場で目をまん丸に見開くが、するりと伸びたユナリアスに手を引かれて、三人は肩を揃えて指揮所の天幕に背を向けたのだった。

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