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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第30章

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2004話 志に応ず

「あっ――!!」


 リコがテミスへ向かって倒れ込んだ刹那。

 鋭く息を呑んだユウキは、僅かに声をあげると同時に地面を蹴る。

 今のテミスがまだ本調子でない事は、ユウキの目から見ても一目瞭然だ。

 だからこそ。気を失ったリコの身体だけならば兎も角、彼女がここまで担いできた資材は支え切れない。

 そう判断したのだが……。


「大丈夫だ」


 テミスは柔らかな動きでリコの身体を受け止めると、同時にその背に担ぎ上げられていた大きな木材をスルリと流れるように後方へ受け流す。

 僅かに動きを変えた木材は、ガコン……! と重たい音を響かせて瓦礫の上に着地した後、ゴロゴロと数度転がって動きを止めた。

 けれど、まだリコは大量の石材も抱えていたはず……。


「っ……!」


 その重さを知るからこそ、ユウキはテミスから制止の声を受けて尚、足を止める事無く地を蹴り続けた。

 テミスに受け止めて貰うのは、ここまで頑張ってきた彼女の権利だ。だから邪魔はしない。

 でも、後ろから支えるくらいなら、邪魔にはならないはず。

 そう考えていたのだが……。


「フッ……!!」

「ッ……!!?」


 支え切れなくなったテミスが倒れてしまう前に、ギリギリ間に合うか否か。

 歯を食いしばるユウキの眼前で、テミスは短く。しかしはっきりと、息を吐く。

 そして、フワリと受け止めたリコの身体に腕を回すと、そのまま自身もしゃがみ込むようにして、担いでいた資材ごとピタリと受け止めてみせる。


「えぇっ……!? うそっ……!?」


 酷く重たい資材ごとリコを受け止めてみせたテミスに、ユウキは素直な驚きを露にすると、目の前で足を止めた。

 幾らテミスとはいえ、この資材はつい先日まで杖が無くでは歩けなかった人間が、持ち上げられるような重さのものではない。

 しかもそこに、気を失ったリコの身体も加わるのだ。

 彼女が小柄な体躯であるとはいえ、気を失った人間一人分の体重だ。

 病み上がりのテミスが受け止められる道理など、欠片たりとも存在しない。


「ッ……!!!」


 だが僅かに遅れてユウキは気付いた。

 唇こそ緩やかに笑顔を浮かべているものの、その裏側ではギリギリと歯が軋む程に食いしばられている事に。


「わぁぁっ!! ちょ、ちょっとだけ耐えて!! すぐに外すから!!!」

「……頼むッ!」


 気付くや否や、ユウキは大慌てでリコを受け止めたまま動かないテミスの傍らに駆け寄ると、リコの身体に結わえ付けられた石材を運搬するための布を外しにかかる。

 しかし、結び目は岩を思わせるほど固く引き締まっており、結び目を押しても引いても決して緩む事は無かった。


「……ユウキ?」

「ごめん! 結び目が固くてほどけな……ッ!! このっ……!!」

「ぐっ……っ……!!」

「ちょっと身体を避けて!? ボクが代わるから!」

「駄目だ。これは私の役目。この程度、受け止められなくては、お前達を率いる資格など私にはあるまいッ!!」


 びくともしない結び目にユウキは早々に諦めを付けると、リコノ身体を受け止めているテミスと交代すべく、テミスの身に寄り添うようにして膝を付く。

 だが、テミスは目を見開いて重さに耐えながらも、その場を譲る事は無く、食いしばった歯の隙間から叫びあげた。


「あぁ……もうっ……!!! だったら……怒らないでよねッ!!!」

「……?」


 結び目を解く事は不可能。

 けれど、支える厄を代わろうにも、悠長にを説得なんかしていては、テミスが耐え切れなくなる方が先だ。

 八方塞がりな状況を前に、ユウキは逡巡を振り切るように声をあげると、軽く地面を蹴って大きく後ろへと跳び下がった。

 その不可解なユウキの動きに、リコの身体を支えるテミスが微かに首を傾げた時。


「ふぅぅぅっ……!!」


 ユウキは腰の剣をスラリと抜き放つと、その切っ先をテミスの方へピタリと向け、空いた片手を添えて構えを取る。

 すると、地面とは水平に番えられたユウキの剣の刀身が、彼女の剣技(スキル)が発動した証でもある、僅かに光を帯びはじめた。

 そして。


「…………」

「せぇぇぁッッ!!!」


 気合の籠った叫びと共に一閃。

 ユウキは鋭く地面を踏み込んで前へと跳び出すと、構えていた剣を前へと突き出してテミス達の眼前を駆け抜けた。

 その後、振り抜いたユウキの剣が帯びていた光が消え去ると同時に、音も無くリコの身体に石材を結わえ付けていた布に切れ目が走り、解き放たれた石材がガラガラと音を立ててテミス達の傍らに崩れ落ちる。

 だが当のユウキは、その光景に背を向けたまま抜き放った剣で空を一薙ぎしてから、軽い音を奏でながら鞘へと納めていた。


「……やるじゃないか。ユウキ」

「へっへーん! 訓練、頑張ったからね!!」


 そんなユウキの背に、クスリと微笑んだテミスが静かに告げる。

 すると、クルリと振り向いたユウキは得意気満面な笑みを浮かべて、テミスに指を突き出してピースサインを決めてみせたのだった。

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