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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第30章

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2002話 最初の突破者

 選抜試験開始後、太陽が天頂を少し過ぎた頃。

 テミスはかつてパラディウム砦の正門を担っていた瓦礫に腰を下ろして、静かに山道の方を見据えていた。

 既に選抜を開始してから六時間以上が経過している。

 未だに本調子と言えないテミスであっても、山道を登り切るには十分過ぎる時間があり、お陰で千々に乱れ切っていた息も今は穏やかなものへと戻っていた。


「フゥム……。少々、やり過ぎたか?」


 ここまで時間が経ってなお、一人も辿り着いていないという事実を鑑みて、テミスは誰も居ない虚空へ向かってボソリと呟きを漏らした。

 妨害を命じてあるサキュドたちには、応募者たちや怪我を負わせるような攻撃や、担いでいる資材を傷付けるような攻撃は一切禁じてある。

 加えて、山道そのものを崩すような行いも止めているし、できる事といえばせいぜい急に飛び出して驚かせるような、お化け屋敷のお化け役ていどのものでしか無い筈だ。

 その所為か、命令を出した際には誰もが露骨に不満そうな表情を浮かべていたものだが……。


「むぅ……」


 テミスは不満気に喉を鳴らすと、傍らに積み上げた籠へチラリと視線を移す。

 この籠は、テミス自身が手ずからここまで運んできたもので、当初の予定では往路で砦を再建するための資材を運んだ後、復路としてこの籠一杯に瓦礫を背負って、軍港を目指してもらう予定だったのだが。

 往きでこのザマでは、帰りは無理かもしれないな……。

 ひとまずこの籠は折角持って上がってきた事だし、砦の入り口あたりの雨に打たれない場所にでも置いて行こう。

 そう考えたテミスが、静かに腰を上げた時だった。


「っ……!」

「ハァッ……ハァッ……! ついたッ……!!」


 山のような資材を担いだ小さな人影が山道の出口に現れたかと思うと、足早に砦の前の開けた箇所を駆け抜け、テミスの前にドサリと崩れ落ちる。

 それは紛れもなくユウキであり、額に浮き出た球の汗は、彼女の体力と身体能力を以てしても、この選抜試験は厳しいものであったことを物語っていた。


「お前にしては随分と時間がかかったな?」

「えぇ~……? 勘弁してよぉ……。これでも全力で走ってきたんだよ? ボクが皆を置いて一人で登っちゃったせいかもしれないけれど、みんなすごい勢いで襲い掛かってくるし……」

「ン……? 襲い掛かる……だと……?」

「そう!! 武器振り回してすっごい気迫だったんだから! しかもず~っとボクのこと追い回してくるし! 山の中を逃げ回るので精いっぱいだったもん! 荷物が重たいから、撒くのにすっごく時間が掛かっちゃったんだ」

「…………」


 ぶうたれるユウキの言葉を聞いたテミスは、思わずぱしりと額に手を当てると、深々と溜息を吐く。

 どうやら、あれだけ言い含めて尚、サキュドたちには不足だったようで。

 それでも一応、ユウキが怪我一つ負っていない所を見るに、最低限命令は尊種しているらしい。

 仮にもサキュド達が、限界を超えた荷物を担いで山道を登る人間を相手に後れを取る事は無いだろう。

 だが、それでもユウキでさえこの有様という事は、即ち他の騎士たちには当然荷が重すぎる訳で。


「あ~……これは無理かもしれんな……」


 疲れ果てて地面に背を預けたユウキを眺めながら、テミスは己の失策に思い至ると、静かに苦笑いを浮かべた。

 ただ荷物を担いで山道を登るだけでは、試験でも何でもない雑用になってしまって面白みがないだろう。

 そう考えたからこそ、ギミック的な役割としてサキュド達に任務を与えてみたのだが、どうやらそれが裏目に出てしまったらしい。

 思えば、サキュドたちとて近頃は酷く退屈そうにしていたし、人間を追い回す役を担って、魔族としての本能のような何かが疼いたのだとしても無理は無い話だ。


「回収は……後日だなぁ……。ユウキ、悪いが手伝ってくれ」

「へ……? 何の話……?」

「脱落した連中の資材だよ。数日は雨が降らない事を祈るしかないか……」


 眉を顰めたテミスは早々に諦めを付けると、自身が運んできた籠を取り上げて、足早に砦の方へと運ぶ。

 テミスの体調が万全であれば、これから山中を駆け回って脱落した騎士達が担いでいた資材を回収して回るのは容易い事だが、今の体調では少しばかり無理が勝ち過ぎている。


「試験はまた何か、考え直さねばならんな……」


 流石のサキュド達でも、動けなくなった応募者たちを見棄てるような真似はしまい。

 そんな思いを胸に抱きながら、テミスは暢気に空に浮かんでいる雲を仰ぐと、物憂げな内心を零すように呟いたのだった。

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