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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第30章

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1998話 憧憬の力

 翌朝。

 テミスが独立遊撃部隊を率いる事が決定したという報せは、島内に集う者達の間に少なくない動揺を与えていた。

 尤も。彼等の最たる感心は、ごく少数ではあるものの、白翼騎士団及び蒼鱗騎士団と湖族からも、独立遊撃部隊への志願が募集されている事だ。

 とはいえ、騎士たちも湖族たちも戦場で背中を預け合う間柄なだけあって、元より仲間意識は強い。

 だからこそ、フリーディアとユナリアス、そしてロロニア三名の連名かつ、対ヴェネルティ戦の間のみという極めて限定的なものとはいえ、そう簡単に志願者が現れる事は無いだろう。

 各部隊を取り仕切っている三名も、そして他でもない募集者であるテミス自身も、そう考えていたのだが……。


「テミ……リヴィア様ッ!! 独立部隊の募集、お聞きしましたよッ!! このリコリシアッ! 是非とも志願させていただきたく参上しましたッ!!!」

「…………」

「っ……!」


 募集の件が周知されるや否や、誰よりも早く指揮所の天幕へと訪れたのは、白翼騎士団の制服を身に纏った小柄の騎士……かつて、このパラディウム砦を攻略する際にテミスと共に先駆けた旗手であるリコだった。

 この島へと配属されて以来、テミス自身彼女の姿を遠目に見かける事はあったものの、ただ一度共に戦場を駆けただけの仲だと、特に声を掛ける事はしなかったし、リコの方から視線を感じる事は時折あったものの、声を掛けられる事も無かったが故に、今日まで再び言葉を交わす事は無かったのだが。


「えっ……と……。志願の折は、書面または直接指揮所の天幕へ出頭するように、との事だったと思うのですが……」

「……! フッ……構わない。よく来てくれたな。リコ」

「はいッ……!! ……じゃなくて。光栄でありますッ! 閣下!!」

「ぶふッ……!!」

「っ……。おいおい、閣下は止せ。それに、堅苦しい言葉遣いも要らんよ」


 最初は、指揮所にちょうど詰めていたテミスとフリーディアは、驚きのあまり硬直していたが、言葉を一向に返さない二人へ怯えの混じった視線を送ったリコに、一足先に我に返ったテミスがにこやかな笑みを浮かべて声を掛ける。

 そのひと声にリコは、仔犬のように今でも尻尾を振り回し始めるのではないかと思うほど、キラキラと瞳を輝かせて喜気を露にした後、砕けかけた言葉を慌てて取り繕った。

 しかし、リコが堅苦しい言葉遣いに慣れていないのは一目瞭然で。

 堪りかねたフリーディアが耐え切れず、傍らで小さく噴き出すのを聞きながら、テミスは苦笑いを浮かべ、緊張で身を固くするリコに柔らかく告げた。


「は……はいッ!! 失礼しました!! えぇと……リヴィア様とお呼びすれば良いですか?」

「そうだな。今はそれで頼む」

「了解ですッ!! それで……えぇと……その……!! 私、この後の事は何も知らされていないのですが……」

「ン……あぁ……」


 期待と希望に胸を膨らませるリコの手前、実はダメもとでひとまず募集をかけただけで、まだ何も考えてはいなかったなどとは言い出す事も出来ず、テミスはチラリと傍らのフリーディアへと視線を向ける。

 仮にも、フリーディアとしてはリコは自身の旗下よりもテミスの旗下に在ることを選んだ人材となる訳だが、こうまでも意欲をみせるリコに対して、果たしてどのような感情を持っているのだろう?

 そんな興味もあって、テミスは傍らのフリーディアの表情を窺ったのだが、そこにあったのは、感情の読み取れない穏やかな微笑みだけで。

 怒っているのか。はたまた悲しんでいるのか。それすらも分からないフリーディアの笑顔に内心で困惑しながら、テミスは水を向けたフリーディアの言葉を待つ。


「わかりました。貴女の志願を嬉しく思いますよ。リコ。今日の所はひとまず志願の表明だけで十分です。後日、追って報せを出しますね」

「はいッ!! それでは、失礼しますッ!!」


 だがどうやら、フリーディアもひとまず様子を見る事にしたらしく、浮かべた微笑みを崩さないまま優しい声色で言葉を紡ぐ。

 言外に用件の終わりを告げたその言葉を受けて、リコはびしりと背筋を正して敬礼をすると、指揮所の天幕を後にすべくぺこりと頭を下げて身を翻した。

 しかし。


「あ、リコ」

「はい?」

「あなた……自分の事、『俺』って言うの、やめたのね?」

「あは……。はい。先日リヴィア様に随伴させていただいて、無理に背伸びをしても仕方ないな……って思ったんです。お恥ずかしい限りでありますが」

「…………」

「ふふ。恥ずかしいなんて事無いわ。貴女の成長を嬉しく思います」

「っ……! ありがとうございますッ!!」


 その背を呼び止めたフリーディアは、穏やかながらも僅かに気遣わし気な雰囲気を滲ませて、ゆっくりとした口調で問いかける。

 けれど、フリーディアの抱いた心配は杞憂だったらしく、はにかみながら振り返ったリコは、チラリと傍らのテミスへと視線を向けて答えを返した。

 そんなリコに、フリーディアはにっこりと微笑んで賞賛の言葉を贈ると、リコは弾けるような笑顔を残して、指揮所の天幕を辞していったのだった。

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