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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第30章

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1997話 渾身の秘策

 パラディウム砦を再建するには、まず今ある瓦礫同然の砦を除かなくてはならない。

 勿論、修復を施して使える箇所は残すべきだろうが、砕かれた大扉の残骸や、砕け落ちた壁など、再利用不可能な瓦礫はいくらでも出てくるだろう。

 ならば、棄ててしまう瓦礫すらも、資源として再利用してしまえば良い。

 これはこの仮拠点に手を加えるという作戦を聞いてから、テミスが真っ先に思い付いた案だった。


「……なるほど。破壊された砦をも利用して、拠点を作ってしまおうという訳なんだね?」

「そうだ。今の我々はどう足掻いた所で受け手に過ぎん。先日の戦いでは辛うじて退けたものの、次にいつヴェネルティが攻勢に出るのかなど、知る術は無いからな。ならば、使えるものは瓦礫の一辺であろうとも使うべきだろう」

「良い案だと思うわ。……伸ばした湾の先には大砲を設置するのね」

「欲を言うのなら、遠距離魔法を扱える奴を配置したい所だがな。防衛にコルカ達を回してしまえば、敵軍を突破する火力が足りなくなる」


 他にも細々とした変更点を告げながら、テミスは仮拠点の改修案をフリーディア達に説明すると、満足気に一息を吐いた。

 ひとまずこれで、第一の関門を突破する事はできた訳だ。

 内心でそう独りごちりながら、テミスは真剣な表情で改修案を見据えるフリーディアとユナリアスの様子を盗み見た。

 この島の改修には本来、部外者であるテミスは関わるべきではない。

 しかし、戦争の勝敗に直結する以上は口出しを避けられない個所ではあったし、想定していたよりも二人の反発が少なかったのは僥倖といえるだろう。


「さて次だ」

「……っ! そうか、理解したよ。それで、先ほどの訓練に繋がるんだね?」


 一呼吸を置いた後で、テミスが静かに口火を切ると、自身の傍らに置いていた書類を取り上げたユナリアスが、機先を制して頷いてみせた。

 その書類には、先ほどユナリアスが目を通して苦言を呈していた、凶悪なスケジュールの訓練が記されており、全てを説明するまでも無く、詳しく読み込んだユナリアスは一足先に真意に気付いたらしい。


「正解だ。山頂まで運ぶべき資材を重しとして担がせ、帰路では仮拠点の改修に使う資材を運ばせる。この一手だけで、資材を運ぶ作業だけでなく、同時に兵達に体力の増強と地形の把握をさせる事ができる」

「確かにこれなら、訓練の時間を取らなくて良い分時間を使えるね。けれど、作業だけではどうにもならない所はどうするんだい? 特に白翼騎士団の面々なんかは、剣術の腕を鈍らせる訳にはいかないだろう?」

「当然よ。私たちの任務はパラディウム砦の再建だけれど、騎士団は作業員では無いわ。やるべき事を疎かにしては意味が無いじゃない」

「やれやれ……あの細い山道を長蛇の列で登らせてどうする。何の為に部隊が分かれていると思っているんだ……」


 理解を示したものの、新たに生じた疑問を口にしたユナリアスに、険しい表情で口を噤んでいたフリーディアが言葉を添える。

 けれど、テミスはこの問いに呆れたように深いため息を吐くと、まるで用意をしていたかの如く答えを提示した。

 どうやらフリーディア達には、訓練というものは大勢で集まって行うものという印象が強いらしい。

 それ故か二人の中では、この訓練を兼ねた作業も、当然のごとく全体で揃って行うものと認識していたようだ。

 けれど、テミスの言葉を聞いた途端、フリーディアもユナリアスも己の間違いに気付いたのか、ピクリと肩を跳ねさせて、何処か恥ずかし気に顔を伏せた。


「理解したようで何よりだ。なら――」

「……ねぇ。ひとつ、聞きたいのだけれど」

「ン……? どうした?」

「ここよ。いま、貴女の話を聞きながら、仮拠点の改築計画を見ていて気付いたのだけれど、酒場を作るなんて正気なの?」

「フッ……」


 一歩づつ着実に説明を終えていくテミスに突如、顔を伏せたフリーディアが話題を変えるかのように切り出すと、仮拠点の改築案の一点を指差しながら、静かな声で指摘をする。

 その場所には、建物を示す四角い記号と共に、確かに酒場の文字が記されていて。

 だが、フリーディアの指摘にテミスは何故か得意気な表情を浮かべると、胸を張って口を開く。


「当然。正気だ。そして、これこそ私が独立部隊に両騎士団から人員を要求した最たる理由でもある」

「は……? え~……っと……ごめん。話が繋がらないのだけれど。貴女が独立部隊を指揮するのと、酒場を建てることに何の関係があるの?」

「…………。すまない。私にも説明して貰いたい」

「クク……ならば良く聞け」


 けれど、フリーディアは怪訝な表情を浮かべて冷たい視線をテミスへと向け、ユナリアスは首をひねってたっぷりと思考に時間をかけた後、酷く申し訳なさそうな苦笑いを浮かべて説明を求めた。


「この酒場は、両騎士団及び湖族の交わる交流の場だ。私やサキュド達だけでは、そもそも足を運ぶ奴も少ないのは目に見えている。かといって、何処か一つの勢力だけでは、そいつらのたまり場になるだけだろうさ。なればこそ、私はこの酒場を以て、この島に集う者達の垣根を破壊するのだッ!!」


 そんなユナリアスに、テミスは自信に満ちた笑みを浮かべて前置きをした後、最も力の籠った言葉で熱の籠った説明を始めたのだった。

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