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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第30章

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1995話 捻くれ者の誠意

 フリーディアとユナリアス。

 白翼騎士団と蒼鱗騎士団の団長を務めるこの二人は、紛う事無く優秀な指揮官だ。

 精強にして忠実な精鋭たる白翼騎士団の、ロンヴァルディア最強たる異名に違わぬ強さは、幾度となく戦場で相対したテミスは身を以てよく知っている。

 一方で蒼鱗騎士団も、後方に配されていたが故の属する騎士たちの質の低さは否めないものの、船を用いての戦いでは他の追随を許さず、指揮官であるユナリアスも練度の低さを補う手腕を持っている。

 だが、両指揮官に共通する気質として、些か生真面目に過ぎる所があげられるだろう。

 王族に名を連ねるフリーディアは元より、ユナリアスも高位貴族の子女である以上、生真面目であるのは得難い資質ではある。

 しかし、その生真面目さは王族や高位貴族ではない者達にとっては、息苦しく感じるだろう。

 けれど、王族貴族として生を受けた彼女たちにとって、その息苦しさたる責務とは生まれた時からあって当たり前のものであり、そもそも息苦しいなどとは感じてはいないのだ。


「――要は、価値観の違いだ。魔族が魔力を持っているように、お前たちは連中に無いものを持っている。なればこそ、欲するものに差が生じるのは当然。理解し得んのも当り前のことだ」


 自身の書き換えた書類の内容に異を唱える二人に、テミスは根気強く理を以て言葉を並べて説き続けた。

 とはいえ、フリーディア達からしてみれば、自分達が腐心して組み上げた完璧な計画を崩された訳で。

 そう簡単に飲み込む事ができないのも道理であるし、テミスもそれを理解しているからこそ、こうして一から十まで懇切丁寧に語り聞かせているのだ。


「お前達にとっては当然の事であっても、他の者にとって当然であるとは限らない。かといって、お前達がほかの連中に合わせて在り方を歪める必要は無い。ただそういうものだと理解しろ」

「いいえ。テミス。騎士とは、兵とは国の有事に命を懸けて戦うのが責務よ。あるのは価値観の違いなんかじゃないわ。意識の差よ」

「……すまないが、今回は私もフリーディアと同意見だよ。キミの言いたい事も分からない訳ではないけれど、優先度は低いように思う」

「ハァ……やれやれ……」


 長々と語り聞かせて尚、反論を述べるフリーディアとユナリアスに、テミスは小さくため息を零した。

 テミスとて、ただ徒に旗下の者達を甘やかせなどと言っている訳ではない。

 この島の防衛と、パラディウム砦の再建。これらに要する戦力や労働力を鑑みた時、現状では戦力不足が否めないのだ。

 故に。今よりも過酷な任務を課す対価として、誇りや責任だなどという形の無いものでは無く、しっかりとした報酬を以て報いるというだけの話なのだが。


「気力や志だけで駆け続ける事ができるのならば、この世に休息などという概念は生まれなかっただろうな」


 皮肉気の微笑んだテミスは、厳しい表情を浮かべるフリーディアとユナリアスに向き直ると、嫌味を込めて言葉を紡ぐ。

 凝り固まった思考を突き崩すのは容易ではない。

 必要なのはただ視点の転換。何をすべきかを軸にして考えるのではなく、為すべき事のために最も必要なものは何なのか軸に考える事。

 だからこそ、必要であるが故にテミスは現状よりも過酷な訓練を課す事を厭わないし、その為に損耗する心身を回復させるために、一見不要とも見える嗜好品も必要とする。


「義務だの責任だのと、お前達は難しく考え過ぎなんだよ。有事だろうが平時だろうが、私達が今を生きている事に変わりはないだろう?」

「……つまり、君はこの島での生活を豊かにしよう。そう言っているのかい?」

「広義に解釈すればそうなる。二日や三日で片の付く戦争ではないのだ。気を抜く所は抜かねば、いざという時に潰れてしまう」

「私は少しだけ、理解できたように思うよ。心身の大補給をするという事だよね? 確かに近頃は、皆の動きが良くは無いのは確かなんだ。それが解決するというのなら、試してみる価値はあると思う」


 テミスの言葉に、先に理解を示したのはユナリアスだった。

 彼女たちとて、簡易的に張った天幕で起居する生活をいつまでも続けたいとは思っていないのだろう。

 それを改善する事を、心身の大補給と解釈するところがユナリアスらしさなのだろうが、意味合いとして大きく外れている訳でもないため、テミスはただ黙って首肯した。


「なら……一つだけ聞かせて頂戴」

「なんだ? 改まって」

「今まで貴女は、意図してこういった執務に関わって来なかったのでしょう? なのになぜ今、急にやる気になったの?」


 肩を竦めたユナリアスの隣で、未だに納得していない様子で、眉根を吊り上げていたフリーディアが、テミスを見据えて静かな声で問いかける。

 その真剣さに満ちた瞳には、怒りに滾った燃えるような鋭さは無く、理知的な光に満ちていて。


「……なぁに。気紛れだよ。少しばかり……本気で手を貸してやっても良いかなと思っただけさ」


 そんなフリーディアの問いに、テミスはクスリと表情を歪めて視線を逸らすと、肩を竦めながらおどけて答えてみせたのだった。

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