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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第30章

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1993話  不慣れな優しさ

 泣き崩れたまま嗚咽をあげるフリーディアに片手を封じられたテミスが、溜息と共に残った片手で書類を書き進めて十数分。

 取り乱していたフリーディアも漸く気持ちが落ち着いたのか、指揮所の天幕の中に響いていたすすり泣く音が途絶える。

 しかし、フリーディアは未だにテミスの片手を握ったまま離す事は無く俯いたままで。

 書類を書く手を留めないまま、テミスはチラリとフリーディアを見やると、深いため息を一つ漏らしてからゆっくりと口を開く。


「……気は落ち着いたか?」

「ぅ……うん……。その……ごめん……なさい……」

「気にするな。お前が私の身を案じていた事くらい、私にも理解できるさ」

「なら……えぇと……ありがとう」

「これっ……ッ……! コホン。礼ならば受け取っておこう」


 わんわんと泣きじゃくってしまった手前、今頃フリーディアには恥ずかしさが押し寄せているのだろう。

 自身に視線を合わそうとせず、消え入るような声で告げるフリーディアに、テミスは穏やかな声で言葉を返す。

 しかし、ついいつもの調子に戻りかけて、『これっきりにしてくれ』と口走りかけてしまい、テミスは慌てて咳払いをして漏れかけた言葉を誤魔化すと、僅かに頬を染めながらなれない台詞を口にした。

 だが、フリーディアもすぐに本調子に戻る事ができるような精神状態ではないらしく。

 握り締めていたテミスの手を解放してそろりと身を引いたものの、未だにテミスから顔を背けたまま傍らに座り込んでいる。


「落ち着いたのならば、お前も少し休んで来い。仮眠所は使用中だから、天幕まで戻らねばならんがな」

「グス……っ……!! そういう訳にはいかないわ! というか、戻らないといけないのは貴女の方じゃない! 目が覚めたばかりなのに、こんな風に出歩いて……!」

「私ならばもう心配は無い。お前こそ、その様子ではロクに寝ても居ないんだろう?」

「これくらいなんてことないわッ! 私よりも、優先すべきはあなたよ!」

「なんてことないヤツは、私の眠っている隣で眠ったりはしないだろうさ」

「うっ……! ……そうッ!! 眠ったお陰で今は大丈夫なの!」

「いつものお前なら、その程度の言い訳を捻り出すのに言い淀みなどしない。しっかりと頭が回っていない証拠だ」

「っ……!!」


 淡々と告げるテミスに、語気を取り戻したフリーディアは立ち上がって抗弁する。

 だが、書類へと視線を戻したテミスが並べ立てる正論を前に言葉を失い、悔し気にした唇を噛み締めた。

 だがそれでも、フリーディアは意地でもこの場から動く気は無いらしく、テミスの傍らに陣取ったまま、一歩たりとも足を動かす事は無かった。


「…………。ハァ……やれやれ。頑固な奴め。この私が仕事を代わってやると言っているんだぞ? 素直に休んでおけば良いものを……」

「そうはいかないわよ。貴女は怪我人だもの。安静にして居るべき人に仕事を任せて、私は休むだなんてことはできないわ」

「フン……なら好きにしろ。だが、お前が言う事を聞かんのなら、私もお前の言う事に従ってやる義理は無い」

「白翼騎士団の団長として休息を命じるわ」

「知らんな。白翼騎士団の制服を身に纏ってこそ居るが、私はお前の指揮下に入った訳ではない」

「くっ……!! 揚げ足取りばかり言って……!!」

「これ以上離し続けても無駄だろうさ。私もお前もこの場に留まる。落し所としては十分だろう」

「……少しでも不調だと感じたら、すぐにベッドに戻って貰うわ」

「お断りだ」

「なッ……!?」


 テミスは目の前の書類へと目を向けたまま、フリーディアはむきになってテミスを睨み付け、言葉を交わす。

 落ち着いたテミスの声と、甲高いフリーディアの叫びが天幕の中に木霊し、最後は斬って捨てるように鋭く言い放ったテミスの一言で決着する。


「そんな事よりもだ。お前も留まるのならばちょうど良い。この仮拠点の改築案に、幾らか変更点を書き加えたのでな。確認しろ」

「変更点……?」

「あと……ユナリアス。どうせもう起きているんだろう? 休めと言った癖に申し訳ないが、何処ぞの団長様が仕事中毒者なものでな。一緒に確認してやってくれ」


 苦し紛れに付け加えた条件を一蹴されたフリーディアが、反論の声をあげる前に。

 テミスはちょうど書き記していた手元の書類をフリーディアの方へと押しやると、ぶっきらぼうな声で指示を告げる。

 そして、首を傾げたフリーディアの視線が差し出された書類へと向いた隙をついて、テミスは仕切られた仮眠スペースの方へと向き直って呼びかけた。


「っ……! はは……お見通しみたいだね。でも、お陰で少しは休めたから問題無いよ。今行くから少し待っていて……」


 そんなテミスの呼びかけに、ユナリアスは仕切りの向こうから穏やかな声で言葉を返すと、身軽な動きでテミス達の元へと合流したのだった。

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