表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第30章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2060/2321

1987話 悔恨を越えて

 天幕へと運び込まれたテミスは、フリーディアとユウキによって治療を施され、眠るように意識を手放した。

 今のところ容態が落ち着いているとはいえ、テミスの失っていた血は少なくなく、回復に数日以上を要するのは確実だ。


「っ……!!」


 テミスの看病をユウキ任せ、フリーディアはユナリアスへ現状を共有すると、自身の不甲斐なさに固く歯を食いしばる。

 この事態を招いてしまった非が誰にあるのかなど、もはや問うまでもない。

 全ては自分の認識の甘さに原因がある。それを理解しているからこそ、フリーディアはただひたすらに自身を責め続けていた。


「了解。モルムス司令には私の方から上手く言っておくよ。さっき見ていた感じだと、フォローダ防衛隊の面々については心配ないと思う。なにせ、話題はずっと、キミたちの見せた剣戟の話題一色だったからね」

「…………。ありがとう、ユナリアス」

「……確かに反省は必要だと思う。今は私の他に誰も居ないから構わないけれど、キミがそんなに塞ぎこんでいては皆の士気に関わるよ」

「わかってる。わかっているわ……。でも……」


 テミスの手当てをしているうちに、どうやら訓練は終わってしまったらしく、人気のなくなった広場で、フリーディアはユナリアスの助言に言葉を詰まらせる。

 今日の訓練が絶対に必要であったことは間違いない。

 けれど、大怪我をしているテミスを引っ張り出したのは、どう考えても間違いだった。

 どうしてこんな事になってしまったのか。ぐるぐると頭の中で渦巻く後悔の答えを、フリーディアは既に知っていた。

 悔しかったのだ。

 単身でアイシュという強大な敵と相対していた、テミスの戦いを侮られて。

 それもモルムス司令だけではない。彼の旗下の騎士たちの中にも、この戦いで唯一の負傷者であるテミスの事を、嘲り笑っている者も居た。

 だから、どうしても証明したかった。

 テミスはきっと、そんな連中には勝手に言わせておけ……と、冷ややかに一笑するのだろうけれど……。


「ユナリアス……私、何やってるんだろ……」


 どうしようも無い馬鹿だ。と。考えれば考えるほどに、フリーディアは己の心を深く追い詰め、眼前のユナリアスへ縋るかのように震える声で弱音を零す。

 いくら強くても、テミスだって一人の人間だ。

 限界なんてものはあって当然だし、怪我をしたまま動けば傷口が開くのだって当然だ。

 それでも。心の中の何処かで、テミスなら大丈夫。

 ……そんな思いがあったのは確かで。


「わた、私っ……! いつものテミスなら、数日寝てればすぐに平気な顔をしていたからって……」

「落ち着いて。フリーディア。それを言うのなら、私も同罪だ。彼女ならきっと平気だろう……。根拠もないのに、何故かそう思い込んでいたからね」


 浅い呼吸で自責を繰り返すフリーディアに、ユナリアスは静かに腕を伸ばして抱き寄せると、穏やかな声でゆっくりと宥めた。

 尤もユナリアスには、ノルの一件で思い当たる節が無かった訳ではないのだが。それがあったとしても、確認を怠ってしまったのは事実だった。


「彼女の目が覚めたら、一緒に謝ろう。大丈夫、きっと許してくれる。天幕へ連れて行った時も、彼女は君を責めなかったんでしょう?」

「っ……うん……。でもいっそ、責めてくれた方が良かったわ……。無理矢理叩き起こしたお前のせいだ……って」

「それはきっと、君を責めた所で、意味が無いと知っているからじゃないかな? 事実として、フォローダ防衛隊に彼女が侮られていたのは確かなんだから」

「でも……もしかしたら、もっといい方法があったかもしれない! テミスに無理をさせなくてもすむ方法がッ……!!」

「そうかもしれないね……けど……」


 悲嘆に暮れるフリーディアを抱き寄せたまま、ユナリアスは紡いだ言葉を止めると、静かに今にも涙が零れそうなほど潤んだフリーディアの瞳を覗き込んだ。

 そして、そのままゆっくりと息を吸い込むと、真剣なまなざしでフリーディアの瞳を見据えたまま言葉を続ける。


「いつまでもこうして悔んでいたら、彼女が無理を押してまで成し遂げてくれた事が全て無駄になるよ。私達が今すべきことは、犯してしまった過ちを悔んで、そうならなかったもしもを考え続ける事じゃないはずだ。違うかい?」

「ユナ……リアス……」

「後悔はあとで一緒にしよう。一緒に謝って、一緒に怒られよう。だから、今は……」


 ユナリアスが柔らかながらも芯の籠った声色でそう告げると、悲嘆に染まっていたフリーディアの瞳に、ゆっくりと生気の光が戻ってくる。

 そして……。


「っ……! そうね……そうだわ……! ごめん、ユナリアス。ありがとう。私、テミスの頑張りを無駄にしてしまう所だった……!」


 フリーディアは目尻に浮かんでいた涙を拭うと、噛み締めるようにユナリアスへそう告げながら、力強く頷いてみせたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ