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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第6章

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186話 架け橋少女

「しっかし驚きましたよ! まさか、あのテミスさんがそんな可愛らしい恰好をしているなんて!」


 人目をはばかり、ひとまず連れ込んだマーサの宿屋で、笑顔を浮かべたフィーンが朗らかに声を上げた。


「そうか……私には似合わんか……」

「い、いえ! 決してそんな事は無いですっ! むしろ、似合い過ぎてて恐ろしいくらいですよ! ですよねっ!? フリーディア様!?」

「……? えぇ。そうね」


 テミスがわざとらしく視線を落としてしょげて見せると、その表情に僅かな焦りを作ったフィーンが背後のフリーディアを振り返って話を振る。その視線の先ではちょうど、纏っていた外套から解き放たれた白翼騎士団の三人が微笑みを浮かべていた。


「ええ。まさか、鬼神のような戦いをする事で名高い軍団長が、このような可憐な少女だとはだれも思いますまい」

「ですね。人を笑いながら刻むあの悪魔が、まるで可愛らしい町娘のような格好をしてるなどと思う人間は一人も居ないでしょう」

「こいつ等……言わせておけばっ……!」


 口々に感想を述べた三人にテミスは拳を握り締めて見せるが、その歪めた口元や纏う気配から、殺気や害意と言った類の意識は一切放たれていなかった。


「まぁまぁ……まずは、こうして再会できたことを喜びましょうよ」

「フィーン。無いとは思うが、先に一つだけ確認だ」

「……? なんです?」


 まるで宥めるように柔かい笑みに表情を変えたフィーンを、眉を寄せたテミスがじろりと睨み付ける。


「今回、お前がファントを尋ねて来たのは……契約の履行の為か?」

「――っ!」


 その問いを聞いた途端、フィーンは笑顔を引っ込めてゆっくりと首を横に振った。


「……そうか。なら良い」


 テミスは一つ呟いて頷くと、密かに胸を撫で下ろした。

 ――仮に。フィーンが私との契約の履行を求める為に来たのなら……。

 フィーンの亡命を手助け・護衛する形でフリーディア達が付き添ってきたのなら。

 私は危うく、数少ない人間領内部の協力者を失う事になっていた。


「どうせ、お前がフリーディアにせがんだのだろう? ファントの町を見てみたい……と」

「ウッ……な、何でそういう所だけ鋭いんですかね……」


 ため息交じりにテミスが問いかけると、ピクリと肩を跳ねさせたフィーンは目を伏せて言葉を濁した。


「それだけでは無いぞ? 白翼騎士団はフィーンに『借り』がある。フリーディアの救出は、コイツの力無くしてはできなかったからな……。その借りを返す為、更には、一抹の好奇心の為……。お前達はフィーンの頼みに乗った訳だ」


「っ……」

「うっ……」

「……」


 テミスに目を向けられた三人の騎士達は、三者三様に反応を見せる。どうやら、この三人の中では、カルヴァスが一番隠し事に長けているらしい。

 何故なら、フリーディアは露骨に目をそらしているし、食って掛かってくるかと思われたミュルクも目を伏せている。しかしその一方で、カルヴァスは片眉を微かに動かしただけだったのだ。


「ククッ……そしてフィーン」

「ま……また私ですか……?」

「ああ。お前だ。いや……お前の心境と言うべきか……。兎も角、お前は敬愛する白翼騎士団に、『貸し』を『貸し』と思われたくなかった。だからこそ、ファントを見てみたいと言う我儘が、ちょうど良い落としどころだと踏んだのではないか?」

「っ……テミスさん……あなたって人は……私、はじめて人が少し怖いと思いましたよ……」


 目を見開いたフィーンに、テミスはただ黙って笑みを返した。

 思えば、この女もなかなかに奇特な人間だ。白翼騎士団の団長であるフリーディアを救ったという、それこそ名誉ある地位や富を要求できる立場を手に入れておいて、その立場と引き換えに望んだのがこの町(ファント)の観光なのだから。

 それこそ、願えば名実共に王都イチの記者の座だって手に入ったかもしれないのに……。まぁ、ツアーガイドとしては、白翼騎士団の部隊長連中と、騎士団長を侍らせている時点で相当なものか……。


「大した奴だよ。お前も」

「やはは……参りましたね。いつもは逆の立場のはずなのですが……」


 そう考えながら、テミスがフィーンを見つめて零すと、彼女は照れたように表情を歪めて頬を掻いた。少し顔が赤い所を見ると、本心から照れているのだろうか?

 だとしたら、ロンヴァルディアでの仕返しができた気がして少しばかり気分がいい。


「フッ……それで? あと少しは私も休暇だ。望むのであれば、軍団長が手ずから案内をして差し上げるが?」

「で、でしたら! フリーディア様絶賛の、ファント一の食事を出す宿屋に泊まりたいです! ついでに、可愛いと噂の給仕さんにも是非取材をっ!」

「――だと思ったさ」

「テミス。わかっててここに連れて来たわね?」

「ああ。急な訪問のお返しだ」

「へっ……?」


 目を輝かせたフィーンを尻目に、テミスは苦笑を浮かべたフリーディアへニヤリとした笑みを浮かべる。しかし、フィーンはその言葉の真意までは汲み取れていないようで、輝かせた表情を曖昧な笑いに変えて突っ立っていた。


「フィーン。ここがその宿屋……。テミスの今のお家で、私達が揃って虜になったあのお店(・・・・)よ?」

「えっ……えええええええええええええっ!?!? テミスさんのお家っ!? も、もっと早く……いえっ! その辺り詳しく教えてくださいよぉッ!」


 柔らかな笑みを浮かべたフリーディアがそう告げると、颯爽とペンと手帳を取り出したフィーンの絶叫が、店内に響き渡ったのだった。

2020/11/23 誤字修正しました

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