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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第30章

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1983話 自由の剣

 乱取り稽古が始まってから数十分。

 未だに剣を合わせる音が響くフリーディア側とは異なり、テミスの周囲には息も絶え絶えな騎士たちが、満身創痍で倒れ伏していた。


「つ……つ……強過ぎるッ……!!」

「なんだよアレ……もう化け物だろ……」


 うめき声に混じって、騎士たちの畏怖する声が漏れ聞こえるが、僅かに息を乱したテミスは己が傍らに大剣を突き立てて密かに一息を吐く。


 ――少しばかり、無茶が過ぎたか。


 テミスは肩口をズグズグと蝕む鈍い痛みを堪えながら、静かに胸の内でひとりごちる。

 如何に所有者の意志に従って自重を変化させるブラックアダマンタイトの大剣とはいえ、深手を負った身体でこうも激しく振り回せば、治りかけた傷口が開くのは道理だろう。

 それに加えて、治療に専念していた代償は大きく、怪我の治癒に割かれる分の体力を鑑みたとしても、この程度の戦いで呼吸が乱れるようでは、体が鈍っていると言わざるを得ない。


「っ……! しくじったな」


 己の襟元を僅かに捲り、痛みを発する肩口を確認したテミスは、微かな舌打ちと共に呟きを漏らす。

 どうやら、傷口が開いてしまったのはずいぶん前らしく、出血はテミスの想像していたよりも酷いもので、身体に巻かれた包帯には既に少なく無い血が滲んでいた。

 とはいえ、今この場で膝を付いてしまえば、フォローダ防衛隊の面々に対して、武力を以て漸く刷り込んだイメージが崩れかねない。

 この合同訓練が、いわば儀式のようなものである事は承知している。

 戦場において統率が乱れれば戦線の崩壊を招き、敗北に直結しかねない。

 だが、例えフリーディアがテミスとモルムスの間で結ばれた密約を知る事になったとしても、フォローダ防衛隊の面々が抱いていた感情を思えば、この『儀式』を避けて通る事はできなかったはずだ。

 如何に上からの命令があったとしても、自らの命が懸かった戦場に疑心を持ち込んでしまえば、それは窮地で必ず牙を剥くだろう。

 だからこそ、これから共に戦ううえで、侮りや猜疑心は除かねばならない。


「これでは……まだ足りんな」


 けれど。打たれ、地を転がり、既に足腰すら立たない様子の、フォローダ防衛隊に属する騎士たちへチラリと視線を向け、テミスはボソリとひとりごちる。

 最早立つ力すら残っていないとしても、どうやらこの連中は無駄に誇り(プライド)ばかり高いらしい。

 自らの力では到底敵わないと知った上で、それでも眼前に……己の肉体に痛みを以て叩き込まれた事実は受け入れ難いようで、テミスを見上げる視線にはまだ幾ばくかの反抗心が見え隠れしていた。


「やれやれ……怪我人をここまで働かせたんだ。お前も少しくらいは働いて貰うぞ?」


 昏い微笑みを浮かべて嘯いたテミスは、傷の痛みを無視してユラリと再び大剣の柄へ手を伸ばす。

 その瞳は既に周囲に倒れ伏した騎士たちには向けられておらず、次の標的(・・)を斜に見定めていた。


「ククッ……!! 私とも遊んでもらうぞ!! フリーディアァッ!!!」

「なっ……!?」


 真横に跳ぶように、テミスは一足飛びに地面を蹴ると、隣で乱取り稽古に努めていたフリーディアへ向けて猛然と斬りかかる。

 瞬間。

 まるでこの展開を予測していたかのように、テミスとフリーディアを結ぶ直線上に陣取っていた白翼騎士団の面々が素早く退き、驚きに息を呑むフリーディアへの道を開けた。

 しかし折り悪く、フリーディアは丁度テミスに背を向ける形で、蒼鱗騎士団の甲冑に身を包んだ騎士と剣を合わせた所だった。

 あの体制からの反撃は不可能。とはいえ、ここでわざと外せば、今までの努力が水泡に帰す。

 フリーディアへと斬りかかる刹那の間に、テミスは焦りの表情を浮かべたフリーディアを見止めるが、既に退くという選択肢は無く、密かに臍を噛んだ。

 その時。


「あははっ……!! やっぱりっ!! こうなると思ったんだっ!!」


 傍らから突如、戦場には似つかわしくない朗らかな笑い声が響き、剣に青色の燐光を纏わせたユウキがテミスの前に立ちはだかるように飛び込んでくる。

 そして、ひと際強烈な金属音を響かせながら、轟然と振り下ろされたテミスの大剣を力強く受け止めると、フリーディアの強襲を仕掛けたテミスを弾き飛ばした。


「ねっ? ボクの言った通りだったでしょ? 折角だもん。めいっぱい戦いたいよねっ!」

「…………」

「ありがとう。助かったわ、ユウキ。貴女はそのまま――」


 自身の斬撃をユウキに阻まれたテミスは、黙したまま静かに大剣を構え直す。

 しかし、内心では乱入したユウキに賞賛を送っており、不運な事故(・・)が防がれた事に胸を撫で下ろしていた。

 一方で、鍔迫り合いを脱したフリーディアは、素直にユウキへ礼を告げると、そのまま自らの訓練へ戻るべく口を開きかける。

 だが、皆まで言い切る前に、にっこりと満面の笑みを浮かべたユウキは、じりじりと身体を捌いてフリーディアからも距離を取りはじめると、弾むような声で言葉を紡ぐ。


「すぐ終わっちゃったらつまらないもんねっ! さぁっ……仕切り直しだよ!! ボクたちもやろうよ!!」

「…………。ハッ……! やれやれ。困った奴だ……」


 その言葉に驚きを露にするフリーディアとユウキ、そしてテミスの間におおよそ等間隔の距離が開くと、ユウキは動くのを止めてピタリと剣を構える。

 そんなユウキとフリーディアを前に、テミスは大剣を構えたままクスリと破顔すると、どこか愉し気にそう嘯いたのだった。

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