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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第30章

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1982話 剣鬼の所以

 ガインッ! ゴィンッ! ズガンッ……!! と。

 まるで重機で以て鉄を穿っているかのような激しい金属音が、訓練場と化した仮拠点中に響き渡る。

 その音が鳴り響くたびに、ただの一薙ぎで息を合わせて斬りかかったフォローダ防衛隊の騎士たちがまとめて吹き飛ばされ、地面の上を激しく転がった。


「ハハハハハハハハッ!! 温いッ! 温いぞッ!! どうした!! 私を斬るんじゃあなかったのかッ!? お前達の実力はその程度かッ!!!」


 その中心では、高笑いと共に布を纏った大剣を縦横無尽に振り回すテミスが居て。

 フォローダ防衛隊の面々の目に映るそれは、一片たりとも情け容赦を持ち合わせていない、鬼神の如き強さを誇る悪魔だった。

 だが……。


「なぁ……アレ……どう思う……?」

「あの傷だ……流石にいつも通りとはいかないんだろう」

「どうだか。どうせ油断を誘っているだけだろ。好機とみた俺達が釣れるのを待ってるんだよ。絶対ッ!」

「…………」


 フリーディアを相手に、至極真っ当な乱取り稽古に取り組んでいる白翼騎士団の騎士たちは、時折チラチラと隣で行われている大暴虐へと視線を向けながら、密かに言葉を交わしていた。

 ファントでの苛烈な黒銀騎団式の訓練を知る彼等にとっては、あの程度の乱取り稽古はただの序の口で。

 吹き飛ばされ、倒れ伏した所へ、躱さねば突き刺さる抜き身の大剣が襲い掛かって来ない辺り、途方もなく情け深いものに思えた。

 しかし、多くの騎士たちの相手を務めるフリーディアは、瞬時の隙を縫ってテミスの様子を窺うと、真一文字に固く結んだ唇をへの字に曲げる。


「クッ……ソオオオオォォォォォォッッ!!!」

「カハハハッ!! 真正面から単騎で来ると潔が良いッ!! だが遅すぎるわ馬鹿めッ!!」

「がアッ……ハッッッ……!!! ッ……!!!」


 一方で当のテミスは、傍らのフリーディア達から注がれる視線などまるで意に介す事は無く、勇猛果敢にも一人斬り込んだ騎士を大剣の腹で強烈に地面へと叩き伏せた所だった。

 だがその直後。

 テミスが一撃を振り切る瞬間を待っていた騎士たちが、四方から一斉に飛び出し、気合の籠った咆哮と共にテミスへ切っ先を向ける。

 正面から一人で挑んだ騎士はただの囮。

 その身を以てテミスの攻撃を誘い、隙を作り出すための死兵だったのだ。


「……戦術としては悪くは無い。だが、気に食わんな」


 格上の相手を斃す為に一人を犠牲にする。

 理論に則ればそのやり口は確かに有効なものなのだろう。

 自らを目がけて疾駆する四人の騎士たちには目もくれず、テミスは地面の上で未だに苦悶の表情を浮かべる騎士を一瞥すると、僅かに冷えた声で呟きを漏らした。

 囮役の騎士は、恐らくはまだ新兵の域を脱していない者なのだろう。お世辞にも練度が高いとは言えなかった。

 比べて、今テミスの四方から斬り込んできている騎士たちは、テミスにとっては歯牙にかける程度のものではないものの、囮役の騎士との間には大きな差が見て取れる。

 察するに、最初に叩き伏せた騎士も自ら進んで斬り込んできた訳ではないのだろう。

 たかだか訓練。ただの一太刀をテミスに浴びせる為。フォローダ防衛隊に属する騎士たちの、ちっぽけな自尊心を庇う為の犠牲と差し出されたのだ。


「怪我はさせまいと思っていたが……」


 腹の奥でチリリッ……と沸き立つ感情に任せて、テミスは静かな呟きと共に身体を捻り、振り下ろした格好のまま素早く大剣を持ち替える。

 刹那。

 地面を踏みしめた拍子に、力を込めた足がズキリと鈍い痛みを発したものの、テミスは固く歯を食いしばって肉体のあげた悲鳴を黙殺し、四方から迫り来る騎士達に対して回転斬りを以て応じた。


「ごぉッ……!?」

「ガッ……!?」

「ぐあッ……!?」

「カハッ……!?」


 神速を以て円を描いた大剣は、半ば同時に四方から襲い掛かった騎士達を強烈に打ち据え、四つの苦悶の声が重なる。

 そして、この訓練が始まって以来、最も威力の込められた一撃を喰らった四人の騎士たちは、弧を描いて高々と宙を舞い、周囲を取り囲む他の騎士たちの頭上を飛び越えて地面に落ちると、起き上がる事さえできずにその場で苦悶した。


「っ……!!」

「下らん小細工を弄するのは自由だが、あまり不快なものを見せてくれるなよ?」


 打ち伏せられた四人の騎士たちを見た残りの騎士たちは、一様に戦慄したかの如くピタリと動きを止め、目を見開いて眼前に立つ『戦鬼』を見つめた。

 そんな騎士たちを前に、テミスは振り抜き終えた大剣をゆっくりと持ち上げて肩に担ぎ上げると、空いた片手で挑発するかの如く次の打ち込みを誘いながら、不敵にそう告げたのだった。

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