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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第30章

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1979話 意地の果て

 規則正しい駆け足の音と、気合の籠った掛け声が木霊する。

 フリーディアによって叩き起こされた後。テミスはユナリアスから事のあらましを聞くと、冗談ではないと一蹴してベッドへと戻った。

 しかし、それを許すフリーディアではなく。

 半ば無理矢理に白翼騎士団の制服へと着替えさせられたテミスは、引き摺られるようにして嫌々天幕から連れ出され、暑苦しい訓練を眺める羽目になっていたのだ。


「ハァ……馬鹿馬鹿しい……何で私まで……」

「それが、昨夜は随分意見を戦わせたらしくてね……。その時、モルムス司令には随分と我々の実力……ひいては負傷した君の力量を疑われたそうだ。だから、こうして実力を見せ付ける場を設けたんだと思うよ」


 白翼騎士団の団長として、列の先頭を駆けるフリーディアを遠目に眺めながらテミスがぼやくと、傍らのユナリアスが苦笑いと共にフォローを入れる。

 彼女の説明によると、どうやらこれから行われるのは、モルムス率いるフォローダ防衛隊と白翼騎士団、及び蒼鱗騎士団の合同訓練で。

 事の発端は昨夜の会合にて、モルムスは協力的な姿勢こそ見せたものの、どうやらフリーディアに対して散々嫌味を叩き付けてくれたらしく、それに業を煮やしたフリーディアが提案する形で、双方の交流を兼ねるというお題目の元、急遽この合同訓練が催されたのだ。

 とはいえ、怪我人であるテミスは基礎訓練を免除され、本格的に参加するのはこの後に予定されている乱取りなのだという。


「やれやれ、意趣返しという訳か……」


 おおかた、突然掌を返したかの如く態度を改めたのでは、怪しまれるとでも思ったのだろう。

 テミスは少し離れた場所で、渋い表情を浮かべて訓練を見守るモルムスへチラリと視線を送ると、その内心を慮りながらも、諦観を浮かべて溜息を漏らした。

 恐らくモルムスにとって、この合同訓練は完全に予定外のもののはずだ。

 テミスの正体や戦況を正しく知ってしまったとはいえ、これまでの言動を鑑みるに素直に全面協力するなどとは言い出せない筈。

 そして、先般のモルムスのやり口からして、一応の格好として皮肉を口にしながらも、ひとまずの協力体制を結ぶにこぎつけはしたのだろう。

 だが、そこで話を終わっておけば良いものを、対面上の格好(ポーズ)を真に受けたフリーディアが、余計な義憤に駆られたのだ。


「そりゃ……あんな顔にもなるわな……」


 ある程度の事情を察したテミスは、苦笑いを浮かべてそう嘯くと、渋い顔で動かないモルムスへ視線を注ぎ続けた。

 秘密裏とはいえ、モルムスはテミスの正体を知っている。

 しかし、フリーディアへ取ってしまった態度から、合同演習を申し込まれれば否やとも言えず、この話を受け入れるしか無かったのだろう。

 その結果。

 形作られたのがあの苦渋に満ちた鉄面皮という訳で。

 先ほどから、密かにチラチラとこちらへ向けられているモルムスの視線は恐怖に満ちており、さり気なく腹のあたりに添えられた手も、その辺りの事情を知って見れば、キリキリと痛む胃を押さえているようにも見えた。


「元より、彼等は地上での戦いは専門外なんだ。この結果を責めるのは酷というものだと私は思うよ」

「…………。フ……そんなもんかね……」


 テミスの零した言葉を、別の意味で受け取ったのだろう。

 眼前を駆ける騎士たちに深い同情の籠った視線を向けたユナリアスは、小さく息を吐きながらテミスへ告げる。

 全てを説明する訳にはいかないテミスとしても、敢えてすれ違った認識を正すまでも無く、モルムスから視線を逸らしてユナリアスと同じく基礎訓練に勤しむ騎士達へ向けると、肩を竦めて相槌を打った。


「とはいえ……私もまさか、これほど綺麗に差が出てしまうとは思っていなかったけれどね」

「私はフリーディアの意地に付き合わされる騎士達が不憫で堪らんよ」


 二人の視線の先では、戦闘を悠々と走るフリーディアの背に、身軽に駆けるユウキがぴったりと続き、それに少し遅れて白翼騎士団の面々が駆けていた。

 そしてその後ろを、大きく差が開いて蒼鱗騎士団の一団が疲労の滲む表情を浮かべて追い、更にそのはるか後方をもはや死に体といった様子でフォローダ防衛隊の面々が、這う這うの体で続いている。

 ちなみに、一応は白翼騎士団の所属とはいえ、サキュドたち黒銀騎団組はこの訓練に参加しておらず、今はロロニアたち湖族と共に警備の任に就いている。

 うまく逃げおおせたロロニアの手腕に感心すると共に、テミスはもしもサキュド達がこの訓練に参加していたら、もっと混沌としていた状況になっていたのだろう。

 そんな事を思い浮かべながら、テミスは傍らで興味深そうに息を吐くユナリアスに、適当に言葉を返したのだった。

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