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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第30章

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1976話 違わぬ追憶

 ざざぁ……ざざぁ……と。

 寄せては返す波の音だけが、静寂の中に柔らかに響く。

 沈みかけていた日は完全に暮れ、テミス達が腰を落ち着けている場所は軍港の外れに位置する事もあって、傍らに立つ灯台代わりの簡素な魔導灯を除いて、周囲は完全に暗闇に包まれていた。


「…………」

「…………」


 陽が完全に暮れてしまった事で、吹き付ける風も心なしか冷たさが増し、テミスの内心ではそろそろ自身の天幕へと戻りたい欲求が膨らみつつある。

 しかし、会話が絶えてから数十分。

 ユウキは何度も意を決したかのように口を開きかけては、悲し気に眉を顰めて口を閉ざすのを繰り返しており、視界の端でそれを見続けているテミスとしては、無慈悲に席を立つ事への抵抗感も感じていた。

 とはいえ、いつまでもこうして居る訳にもいかず、何かしらの区切りをつける必要はあるだろう。

 ならば、こちらから少し誘ってやって、それでも口を閉ざすというのならばそれまで。

 密かに胸の内でそう決めたテミスは、チラリと背後を振り返って、窓から明かりを漏らしながら揺れる軍港内の船を一瞥した後、ゆっくりと息を吸い込んで口を開く。


「……ヴェネルティは何故、こうも一方的にロンヴァルディアを攻めてきたのだろうな」

「え……?」


 とはいえ、テミスとてユウキとの間に気軽に持ち出すことができ、かつ話の呼び水となるような都合の良い話題の持ち合わせなどは無く、僅かな逡巡の後にぽつりと切り出したのは結局、とりとめもなくあたり障りのない話題だった。


「ロンヴァルディアが魔族の手に落ちたから……じゃなかった? 確か皆はそう言っていた気がするけど……」

「それでも……だ。仮にも自国が支援を行っていた国だぞ? 事実確認のための使者なり、密偵を送り込むのが当然だ。突如として宣戦布告をするなど、どう考えても異常だろう」

「う~ん……そういうものなのかな? ボクの知識は学校で習った程度しかないけれど、ほらアレ! あっちで日本がいきなり攻撃を仕掛けた奴! リメンバー……なんとかって!」

「……リメンバー・パールハーバー。真珠湾攻撃の事か?」

「そうそれ!!」

「混ざり過ぎだ。リメンバー云々は真珠湾攻撃を忘れるなっていう、あちら側の恨み節だぞ」

「あれ……? そうだっけ……? でも、そんな感じで、一気にやっつけちゃえ! みたいな考えじゃないのかな?」

「フム……」


 奇しくも、酷く懐かしい方向へと転換した話題に、テミスは静かに息を吐いて記憶の奥底に眠る知識を掘り起こし始める。

 元より歴史の授業などは特に熱心に勉強していた訳ではないし、別段詳しいという訳でもないのだが、幼少の頃に叩き込んだ記憶は身体すら変わった今でも深く刻み込まれているらしく、程なくして曖昧ながらも知識の発掘に成功した。

 とはいえ、あちらの世界の戦争の形態がこちらのものと同じという訳でもなく、勉強として習う程度の浅い知識ではさしたる糧となる訳でもなかったのだが……。


「トラ・トラ・トラ……我奇襲に成功セリ……か……」


 呼び覚まされた知識をボソリと口にして、テミスは再びゆっくりと背後の島を振り返ると、軍港に揺れる光を視界に収めた。

 無理矢理に置き換えるのならば、このパラディウム砦はあちら側で言うところの真珠湾に相当するのだろう。

 島を丸ごと包囲してしまうほどの大艦隊は、奇襲攻撃としては過剰なまでの効力を発揮し、事実テミスたちが介入していなければ、ヴェネルティの奇襲は成功を収めていた筈だ。

 否。寧ろ前線拠点としての砦の機能を殆ど喪失している点を鑑みれば、橋頭保を確保する事は叶わなかったとはいえ、ヴェネルティ側の奇襲は成功していると言えるやもしれない。


「クク……ならば我々も、リメンバー・パラディウムフォートレスとでも叫んでみるか?」

「ボクは戦略の事は良くわからないから、キミが良いと思うのなら反対はしないけど……」

「……冗談だ。だが……まぁ、気分転換にはなった。こんな話題でも、こちらであちらの事を話す機会など滅多に無いからな」

「あははっ……! 確かに。向こうの話をしても、皆変な顔をしておかしな人を見る目でボクを見るんだよね。あれはイヤだったなぁ……」

「それで……? 何か話したい事でもあるんじゃないのか? いい加減身体も冷えてきた、言いたい事があるのならば、懐かしい話題で温まった場が冷える前に話してしまえ」

「あ……う、うん……」


 前の世界の話題はユウキにとっても懐かしいものであったらしく、酷く重たかった口は軽快に回り始めていた。

 これを好機と見たテミスは、少々強引ではあったものの本題へと斬り込むと、ユウキは驚いたように笑顔を硬直させながら口ごもってしまう。

 だが。


「キミにさ……お礼と……聞きたい事があったんだ」


 先ほどまでの楽し気な雰囲気を一変させたユウキは、真剣ながらもどこか儚げな微笑を浮かべてテミスを真正面から見つめると、ゆっくりと口を開いたのだった。

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