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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第30章

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1974話 苦肉の救援

 荒々しく室内へと飛び込んできたフリーディアは、窓の側に避難したモルムスを一瞥した後、逆側に佇むテミスを睨み付ける。

 その顔色は、まだわずかに青白くはあるものの、テミスが最後に見た時よりも遥かに回復しており、ひとまず走れる程度には調子が戻っている事が見て取れた。

 ならば、この傷付いた身体を引き摺ってまで、時間稼ぎに徹した甲斐もあるものだ。

 胸の内でそう呟いてから、テミスは静かに口角を釣り上げると、自らへ向けられた謂れなき非難の視線に答えるべく口を開く。


「『ご無事ですか』……とは、随分な言い草じゃないか。それではまるで、私がモルムス司令に危害でも加えようとしているかのように聞こえてしまう」

「ッ……!! っ~~!!! リヴィア。詳細は船長から聞いているわ。確かに私たちは貴女に指揮権を預けました。けれど、貴女がモルムス司令との交渉の席に着くのは越権行為よ」

「勘弁していただけないですかね? 団長殿。私とて被害者だ。文句なら度重なる催促に耐え兼ねて、私をここへ連れ出した騎士達に言って欲しいものだ」

「だとしてもよ! 代行である貴女は現状の報告に留め、モルムス司令に待機していただくのが役割のはずよ」


 以前にフォローダで僅かに相まみえた時の、テミスの心証を知るが故に、フリーディアは怒り心頭といった様子で、テミスを叱り付けた。

 どうやら、フリーディアは今だ事が全て始まる前で、どうにか間に合ったと勘違いしているらしい。

 しかし真実は、フリーディア達が伏せっている間に事は全て終わっており、テミスとモルムスは互いに着地点を見つけ出している。

 つまるところ、フリーディアの怒りや焦りは全て徒労。手遅れにも程があるただ無駄なだけの行いなのだが……。


「貴女が無礼を働いていないだなんて思わないわ! 相応の覚悟はできているんでしょうねッ!」


 勘違いを正す隙も無いままに、フリーディアはつかつかと大股でテミスの間近まで歩み寄ると、胸倉を掴み上げて怒声を浴びせる。

 だが、その瞳はいつもテミスと言い合いをしている時のフリーディアのものとは異なり、何かを訴えかけるようにチラチラとモルムスへと向けられていた。

 同時に、モルムスの死角となった途端、フリーディアは怒りに染めていた表情を一転させて苦渋に満ちた顔を作る。

 加えて、荒々しく掴み上げられたような格好ではあったが、閃いたフリーディアの手はすんでの所で動きを緩めており、身体を抑える力も軽く壁に押し付けられている程度に加減されていた。


「…………。あぁ……」


 一瞬。

 予想外過ぎるフリーディアの転身にテミスは戸惑ったものの、即座にその意図を理解して、小さく喉を鳴らす。

 そもそもフリーディアは、テミスに怒りを抱いて、モルムスを救うためにこの部屋へ飛び込んできた訳ではなく……。

 寧ろのその逆。

 怒り心頭に見せたこの表情すら全て偽りで、可能な限り時間を稼ぎ、反りの合わないモルムスを相手に無礼を積み重ねた罪から、テミスを守らんとこのような奇策に打って出たのだ。


「お待ちください。フリーディア様。彼女は何一つ、叱責される事などしてはおりませんよ」

「えっ……?」

「……!?」


 けれど、その盛大なすれ違いに差し伸べられた救いの手は、意外にも過ぎる人物からで。

 穏やかな声色でモルムスが制止の声をあげた途端、勘違いをし続けているフリーディアは勿論の事、傍らのテミスまでも意外そうに微かに目を見開いてみせる。


「今、フリーディア様が仰った通り、彼女からは現状の報告と、貴女がお戻りになるまでの待機要請を受けています」

「で……ですが……!!」

「彼女がここに留まったのは、私の要請に応えてくれたからです。見たところ、怪我をされていたようでしたので。報告書だけではなく、実際に戦った者の意見や感想を聞きたくて付き合って貰いました」

「っ……! それ……本当なの……?」

「あぁ。私はただ、モルムス殿の要請に応じて、自分の所感を述べていただけだ」


 テミスの正体を胸の内に留めるモルムスからしてみれば、眼前で繰り広げられる茶番は見るに堪えないものであったのだろう。

 そもそも、客将という立場そのものが偽装なのだから、苦し紛れに捻り出した越権行為などあるはずも無い。

 だからこそ、これ以上の混乱は時間の無駄であると判断して、この場で唯一自由に動くことの出来るモルムスが、諸々のつじつまが合う形で収集を付けにかかったのだ。

 そうして逃げ道を用意されてしまっては、テミスも乗らない訳にはいかず、ただ一人驚愕するフリーディアに肩を竦めてみせながら、モルムスの言葉に同調する。


「そ……そう……。私が早計だったのね。なら良かったわ……。怒鳴ってごめんなさい」


 そんなテミスに、フリーディアは目に見えて戸惑いながらも、問いかけるような眼差しを向けると、謝罪を口にしながらテミスの胸倉を掴み上げていた手を離し、するりと身を退けたのだった。

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