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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第30章

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1967話 厄除けの秘策

 テミスがフリーディア達をロロニアの船へと隠し始めてから数時間。

 フォローダ防衛隊の面々が到着した頃には未だ天頂近くにあった陽も僅かに傾き始めた頃。


「フム……そろそろ限界か」

「……だな。あと俺達にできる事といえば、踏み込んできた騎士達をブッ飛ばす事くらいだ」

「クク……魅力的な案だが流石にやめておこう。この程度の問題で、後にしこりを残した方が面倒だ」

「懸命な判断で助かるぜ」


 ロロニアの施した細工によって既に隔壁は『誤作動』を起こし、幾重もの防壁として甲板までの道を塞いでいる。

 だが、既に残る防壁は一枚のみで。

 ガンガンと向こう側から激しく叩かれる防壁を眺めながら、テミスとロロニアは悠然と言葉を交わしていた。


「っ……!! テ……ミス……」

「お前達は寝ていろ」

「だ……だが……ッ……!!」


 フリーディア達を呼び叫ぶ声は既に、倒れ伏している彼女たちの耳にも届いており、二人は僅かに血色が戻ったものの未だに真っ青な顔色のまま、立ち上がろうと体に力を籠める。

 だが、その度にテミスは額を小突いて姿勢を崩し、再び二人を床につかせており、幾度目かになる二人の気力を振り絞った挑戦も水泡に帰す。


「役割を履き違えるなよ? 今のお前達の任務は、一刻も早く体調を回復させる事だ」

「ハッ……ハッ……!! もう……大……丈夫よ。十分……休……ませて、貰ったわ」

「そうか」

「――ッ!!! ウゥッ……!! ッッッッ……!!!」


 それでも尚、無理を押して立ち上がろうと藻掻くフリーディアに、テミスは短く言葉を返すと、腹の下に潜り込ませた足先で軽く腹を小突いてやる。

 すると途端に、フリーディアは苦し気に形の良い眉を歪ませて悶え、押し返すまでも無く甲板の上へと体を横たえた。


「だが実際どうするんだ? 実際、これ以上時間を稼ぐのは無理だと思うが?」

「手が無くは無い。だが、賭けのようなものだ」

「賭け……ねぇ……。嫌いじゃねぇが、まずは賭け先を教えて貰わねぇとな」

「分が悪い賭けではないと思うぞ? あの船に乗っているのがモルムスで、奴が私を代行と認めない事だからな」

「乗った。どれくらい稼げる?」

「それでも……日暮れが限界だろう」


 その様子を呆れ気味に眺めたロロニアが、チラリとテミスへ視線を向けて問いかけると、眉根を潜めたテミスが静かに言葉を返す。

 しかし策を聞くや否や、ロロニアはぱちりと指を鳴らして即断し、さらに問いを重ねた。

 事実。ロロニアの知るモルムスの性格ならば、対外的には客将扱いであるテミスが応じた所で、間違っても部隊を率いる責任者として認める事は無いだろう。

 だがそんなモルムスだからこそ、強硬策に打って出ないという保証は無い。


「わかった。俺が護衛につこう」

「要らん。それよりもお前は二人を介抱してやってくれ。流石に下の騎士共にこんなザマは見せられまい」

「っ……!! けどよ!!」


 尤も、乗り込むのがいつもテミスであるならば、強硬策に打って出た所で容易くねじ伏せられるのが落ちで、ロロニアとて心配などしない。

 けれど、今のテミスは杖を携えなければ歩行すら難しい程の満身創痍。

 今の状態では、流石に単身敵船の腹の内へと乗り込んだ上で、脱出するのが不可能であるのは自明の理だった。


「そう心配せずとも、護衛ならばサキュドを付ければ――っ!! ロロニア!」

「あぁ!!」


 皮肉気に微笑んだテミスがそう言いかけた時だった。

 ガンガンと叩かれていた防壁が、軋みをあげてその門扉を開き始める。

 瞬間、テミスが鋭く叫ぶと、即応したロロニアが甲板に横たわるフリーディアとユナリアスの上に幌を被せた。

 どうやら、騎士達もただの馬鹿ではないらしく、頭数を揃えて閉ざされた防壁をこじ開けにかかったらしい。

 予想よりはるかに早く突破された防壁に舌打ちを一つ奏でると、テミスはカツンと杖を鳴らして、騎士達に応ずるべくゆっくりと歩を進めた。


「グッ……! くぅぅっ……!! よ、よし! 開いたぞッ……!! ……って、貴女はッ!!?」

「奇遇だな。何やら駆け回っているようだが何事だ?」

「フリーディア様はッ!? いや……この際だ! 貴女でも構わない!! 緊急事態なんだ!」


 幸運だったのは、真っ先に顔を出した騎士が白翼騎士団の者で。

 しらばっくれてみせたテミスを見るや否や、フリーディアの名を叫んで問いかけるも、正体を知っているが故に、すぐに矛先をテミスへと切り替えた事だった。


「やれやれ……私でも構わないとは、随分な言い草じゃないか」

「ッ……!! 失礼しまっ……ゴホン!! 失礼した!! だが……!」

「フ……良いさ。話を聞こう。だが、すまんがこの有様でな。手を貸してくれ」


 だが、テミスは時間稼ぎと悪戯を兼ねて、甲板に顔を覗かせた白翼の騎士に機嫌を損ねたふりをして見せる。

 すると、騎士は一瞬だけ怯えた表情を覗かせるも、傍らで隔壁を持ち上げる蒼鱗騎士団の騎士を視線で示しながら体裁を取り繕ってみせた。

 そんな白翼の騎士に、テミスは静かに笑みを浮かべると、甲板を覗こうとする騎士達を押し返すようにして、共に船の内へと消えていったのだった。

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