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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第30章

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2039/2323

1966話 安穏を破る来訪者

 ドタバタと騒がしくも、どこか緩やかな雰囲気が漂う朝の時間。

 唐突にそれが終わりを告げたのは、丁度太陽が天頂まで昇り詰めた頃だった。


「フリーディア様ッ! ユナリアス様ァッ!? どちらに居られますかッ!!」


 軍港を走り回る騎士達の必死な叫びが木霊するも、その声がロロニア達の船の甲板に寝かされたフリーディア達の耳に届く事は無く、着実に時間が流れていく。

 その近くでは、船の塀に身を預けたテミスが、薄い微笑みを浮かべて混乱する軍港を見下ろしていた。

 そんなテミスに、フリーディアたちの傍らで介抱に努めているロロニアは、呆れ果てたようにため息を一つ吐いてから、諦観の滲む声で口を開く。


「なぁ、本当にこれで良いのかよ?」

「クク……構わんさ。連中の用件など聞かずとも、アレ(・・)しかない事くらいは子供でも解ることだ」


 問いを受けたテミスは、身を預けていた塀から身体を離すと、カツリ、カツリと杖の音を響かせながらゆっくりとした足取りで反対側まで歩み寄り、湖の方向……つまりは軍港の入り口がある方向を顎をしゃくって指し示した。

 そこには、入港許可を待つ艦隊がずらりと雁首を並べており、所属を示す艦旗にはロンヴァルディアの所属を示す旗と、フォローダ防衛隊の旗が伸びやかにはためいている。


「そりゃあ……そうだけどよぉ……」

「それとも何か? お前は、この有様のフリーディア達を働かせるつもりなのか? 人の心というものが無いんだな?」

「ッ……!! いちいち嫌味を含めなけりゃ喋れねぇのかお前は! 俺が言いてぇのはそういう事じゃなくてだな!!」

「皆まで言わずともわかっているさ。ロロニア」

「っ……!」


 テミスの言葉に苛立ちを覚えたロロニアが、苦言と共に抗弁をすると、テミスは視線を時折うめき声をあげるフリーディア達へと向けた後、それまで浮かべていた偽悪的な微笑みを消して静かに告げた。

 その声は、ロロニアの想像を超えて冷静、かつ真剣な声色で。

 故にロロニアも咄嗟に文句を重ねる事ができず、ただ小さく息を呑むに留まった。

 一方でテミスは、苦しみ呻きながらもうわ言のように自身の名を呼ぶフリーディアに、再び穏やかな微笑みを向けてからクスリと笑うと、吹き抜ける風に舞い上げられる長い白銀の髪を押さえながら言葉を続ける。


「お前も察している通り、こんなものはただの時間稼ぎに過ぎんとも。だが今は、その時間こそが肝要なんだ。一秒でも、一分でも、可能ならばもっと……!! 連中が痺れを切らすその時まで、可能な限り引き延ばす」

「……言えよ。今度は何をそんなに警戒しているんだ?」

「…………」

「共犯者だろ? 今更ケチケチすんな。今は門前払いで来ちゃいるが、もうそろそろ持たねぇぞ。だが……事と次第によっちゃ、隔壁が誤作動して閉じちまうかしれねぇぜ? なにせ鹵獲したての船だ。その手の操作ミスは良くある話だ」

「っ……! 悪い船長だな。ロロニアは」

「そんな悪い顔して笑ってるやつに言われたくねぇよ」


 噛み締めるように語ったテミスに、ピクリと眉を跳ねさせたロロニアは静かに告げると、口を閉ざしたテミスに向けて更に言葉を重ねた。

 それはテミスにとって、予想だにしていなかった意外な言葉で。

 ニヤリと意味深に笑うロロニアに、テミスはクスリと不敵な笑みを浮かべると、柔らかな口調で軽口を返す。

 そして、己が負った怪我など忘れてしまったかのようにロロニアへ一歩を踏み出してから、テミスはズキリと響いた痛みに顔を顰めると、手招きをしてロロニアを自らの側へと招き寄せた。


「……? んだよ?」

「ただの補給部隊にしては規模が大き過ぎる。時期から見ても、この間の戦い絡みの可能性が高い」

「あぁ……だろうな。そのくらい俺にだってわかる」

「フッ……ならば賭けでもするか?」

「何をだよ。褒美の内容でも当てるってのか」

「いんや……アレに乗っているのが、娘を心配するあまり、執務を投げ出してこんな前線近くまで飛び出してきた父親(ノラシアス)か、前線警備をすり抜けられたせいで赤っ恥をかいて、怒り心頭の司令官殿(モルムス)か……だ」


 酷く面倒くさそうに歩み寄ったロロニアの耳に、テミスはフリーディア達に聞かれないよう、口元を寄せて小声で告げる。

 だが、端的に過ぎる言葉の足りない説明ではヒントにしかなっておらず、ロロニアは眉根に深い皺を寄せて首をかしげると、声を潜めたままテミスに囁き返す。

 するとテミスは、チラリと視線で待機する艦隊を示してしてから、冗談交じりに自身の懸念をロロニアへ伝えた。


「っ……! そういうことは早く言えッ! 少し離れるぜ。ここを動くなよ。仕込みが要る」


 そんなテミスの言葉を聞くや否や、ロロニアは鋭い視線を待機中の艦隊へと向けると、早口で言葉を残して脱兎のごとく船の内へと駆け込んでいったのだった。

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