幕間 燃え焦がれる熱情
巨大戦艦でのテミスとの戦いから数日後。
ネルード本国へと帰還を果たしたアイシュは、薄暗い部屋の中で一人、艶やかな溜息を漏らしていた。
その身に纏っているのは、『先生』に定められたアイシュ専用の制服ではなく、肌触りの良い薄布で織られた部屋着一枚のみで。
しかもその部屋着も、明かりの下へと躍り出ればたちどころに透け、肌を隠すための衣服としての役割は皆無だった。
とはいえ、ここはアイシュの私室。
どのような格好をしていようと誰に文句を言われる筋合いは無く、衣服をあまり好まないアイシュにとっては、この格好こそリラックスできるものだった。
「フゥ……謹慎……ですか」
本国へと逃げ帰ったアイシュに言い渡されたのは、たった十日ほどの自宅謹慎だけだった。
先遣部隊とはいえ、侵攻戦に失敗した上に軍を壊滅させ、自身も戦果をあげられぬままに逃げ帰った身に課される罰としては、軽すぎるものであることは言うまでもない。
「最悪の場合……処刑もあり得るかと思っていたのですが……」
闇の中でワキワキと掌を動かしながら、アイシュは物憂げに独り言を零し続ける。
パラディウム砦への進行が失敗した時点で、アイシュは自身に処罰が下される事は確信していた。
だからこそ、腕の立つテミスを部下として連れて帰った功績による減免や、それでも尚処断を逃れ得ぬ場合、遁走する為の仲間として、是が非でも連れ帰りたかったのだ。
「私の敗北に意味は無い……だなんて仰っていましたが、果たしてどんな意図が隠されているのやら……」
アイシュは自身の敗走の報告をした折の事を思い返しながら、暗闇の中で肩を竦めてみせる。
その時だった。
「し……失礼……致します……! お茶をお持ち……いたしましたぁ……」
軽いノックと共に部屋の戸が開かれ、か細い声と共に一人のメイドが姿を現すと、おずおずと覚束ない足取りでアイシュの元へとやってくる。
その身に纏うのは当然、使用人の証たるメイド服と、首にはアイシュの所有物である事を示す奴隷の首輪。
しかし、本来は膝下まで覆い隠しているはずのスカートは極端に短く、胸元から加えられた大きなスリットは下腹部まで続いており、大きく肌を露出させている。
この服装はアイシュの好みにほかならず、眼前のメイドは家の中では、この服装以外の着用を禁じられているが故なのだが。
「ふふ……ご苦労様。じゃ……おいで?」
「ぁ……!」
メイドは手慣れた様子で温かな湯気を立ち昇らせるマグカップをアイシュの傍らに置くと、何かを待つかのように傍らに立って姿勢を正す。
この一連の行動もアイシュの『躾』の賜物であり、その成果にアイシュは満足そうな笑みを浮かべると、するりと手を伸ばして傍らに控えるメイドを己の元へと引き寄せた。
「フフ……ウフフ……!! テミス……次は……逃がしませんよ……?」
自室の暗闇の中で、アイシュは抱き寄せたメイドの身体を弄びながら、熱い吐息と共に虚空へと語り掛けたのだった。




