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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第29章

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2017/2323

1947話 魔手を躱して

 ゾンッ……!!! と。

 床面から現れた巨大な影の刃が鋼鉄の甲板を切り裂き、天を衝く。

 だが、既に駆け出していたテミスは慣性に任せて己が身を前へと投げ出すと、足元から生え伸びた影の刃から逃れていた。

 しかしその代償は大きく。

 勢いのまま跳び込んだテミスの身体は制御を失い、数メートルにも及ぶ距離を転がって漸くその動きを止めた。


「この場所で。私から逃げられるとでも?」

「っ……!!」

「私たちの足元には、幾らでも闇は広がっています。水中に没しているとはいえ、そこに空間が存在する以上闇は闇。ここならば私は、夜の闇の中に等しい力を振るう事ができるッ!!」

「ハッ……参ったね……」


 頭を下に、尻を天に向けた格好で動きを止めていたテミスは、剣を手にゆっくりと歩み出てきたアイシュに向けて皮肉気な微笑みを浮かべると、獲物を目の前にした肉食獣のようにゆっくりとした動きで体を起こす。

 その瞳には、爛々と滾る闘志が宿っており、ゆらりと伸びた手が背負った大剣の柄を掴み取る。


「止しなさい。今更戻ってどうするのです? 既に貴女はロンヴァルディアを離反した身です。もう、戻る場所など何処にもないはず」

「それはどうかな? 作戦が失敗した今、お前にとっても私はまだロンヴァルディアに残っていた方が都合が良いはず……。お前と私で一つや二つ芝居でも打てば、簡単に戻ることはできよう?」

「えぇ……。かも……しれませんね。ですがッ……!!」

「ッ――!!!」


 言葉と共にアイシュが腕を振るうと、テミスの足元の甲板を突き破って、陰で形作られた数本の棘が襲い掛かった。

 だが、アイシュが腕を振るった刹那にテミスは既に身を翻しており、放たれた鋭い棘はつい先ほどまでテミスが立っていた中空を穿ち抜いたに留まる。


「次の任務の前に、お仕置きが先ですよ。今回の失態は、正直私であっても無事で済むか分からない程に大きなものです。ですから貴女にも、それなりの代償を支払っていただかなくては」

「こじつけるなよ? 今回の作戦の失敗、私に非はないだろう!」

「くふっ……! ちょうどこうしてお外(・・)に出てきたのです、偶には開放的なのも悪くないかもしれませんね? 躾としては弱いかもしれませんが、まずはお散歩からはじめてみましょうか?」

「うぉっ……!? クッ……!!!」


 ゆらり、ゆらりと上体を左右に大きく揺らしながら歩み寄るアイシュに、テミスは大剣を構えたままじわじわと後退を続けた。

 しかし、血走った眼でテミスの全身を舐め回すかの如く睨み付けたアイシュが、振りかざした手を固く握り締める。

 瞬間。

 前触れもなくテミスの周囲の甲板から鎖付きの枷が無数に伸び、テミスを捕らえるべくその咢を広げた。

 けれどテミスとて、殺傷能力の無い枷とはいえ素直に捕まってやる道理はなく、甲板を蹴って宙へと身を躍らせて枷を躱した。

 だが遅れて伸びた枷が一本、空中へ逃れたテミスの足首を捕らえると、ガチャリと音を立ててその身を甲板と結び付ける。

 尤も、それも束の間の話で。

 テミスはガクンと退く勢いこそ殺されたものの、即座に大剣を振り抜いて己が足を捉えて鎖を断ち切ると、着地する頃には体勢を立て直して再びアイシュと相対した。


「ふふ……ウフフフフ……! 反抗は許しませんよ? さぁて……どんな尻尾を生やしましょうか? 生憎ここでは持ち合わせ(・・・・・)がありませんから、色は黒一色しか用意できませんが……」

「一人でやってろ……変態め……!」


 不気味な笑い声をあげるアイシュを前に、テミスは吐き捨てるように呟くと、構えた大剣の柄を固く握り締める。

 幸い、今のアイシュの攻撃に殺意は感じられない。

 先ほどの斬撃にしても、棘にしても、食らえばただでは済まないだろうが、狙いはこちらの動きを止める事にあるように見えた。

 とはいえ、アイシュが足元に広がるこの戦艦の空間の闇さえも操る事ができるのは、テミスに取って完全に計算外で。

 陽の光の元に引きずり出した影は、強度が低いお陰で今は逃れられたものの、そう何度も完全に躱しきることはできないだろう。

 テミスとしては、既に作戦は成功を収めているに等しく、あとは自分が無事にこの場から逃げおおせる事ができれば言う事は無いのだ。

 だからこそ、如何にアイシュとの戦闘を避け、この場を離脱するかが肝になる訳なのだが……。


「最初は貴女と同じように嫌がっていましたが、皆すぐに悦ぶようになりました。心配する必要はありませんよ。私に任せてください」

「…………。さぁて……どうしたものかな……」


 剣を手にしたまま頬を紅潮させ、じりじりとにじり寄るアイシュを前に、テミスは怖気が肌を僅かに粟立たせるのを感じながら、皮肉気に独り言を漏らしたのだった。

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