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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第6章

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181話 眠れる剣姫

朝。十分に陽が昇り、通りに人が増え始めた頃……。テミスの一日は、アリーシャに叩き起こされる所から始まる。


「テミス~っ? 朝ですよ~!! 起きてっ!」

「ん~~……? ん~……」

「もぁ~……入るよ~?」

「ん~……」


 ガチャガチャと部屋の戸が開く音と共に、パタパタと軽い足音が近づいてくる。テミスはそれを霞がかった意識の向こうで聴きながら、温かな快楽に意識を揺蕩わせる。


「テ・ミ・ス!!」

「ぅあ~?」


 しかし、モソモソと鈍く抵抗するのも空しく、アリーシャの手によってテミスが動くのに合わせて蠢いていた掛布団が引っぺがされた。


「ん~……ぅ……」

「ちょっ……! せっかく身体起こしたのに倒れるなぁ~っ!!」


 剥がされる布団に縋りついていたテミスが、布団と共に身を起こす。しかし、グラグラと頼りなく揺れていたその上半身はひと際大きく揺れると、待ち構えていたアリーシャの腕の中へと崩れ落ちる。


「こぁ~~らぁ~っ!! 起きないと遅刻ですよぁ~? ち・こ・く! ホラ目を開けるッ!」

「うああああああああ……わ……解った……起き……起きたから……ゆするな……」


 テミスの体を受け止めたアリーシャが、そのまま前後にガクガクと体を揺らすと、ようやく目を開けたテミスが眠気の残る目で口を開いた。


「ん。おはよ」

「……お早う……アリーシャ」

「……一応言っておくけど、また寝てたら私が着替えまで手伝ってあげるからね?」

「っ――! 解った! 大丈夫だ!」


 アリーシャが、自らが戸口へ向かうのをまどろんだ目で見送るテミスを振り返って釘を刺すと、半開きだったテミスの目が大きく見開かれ、芯のある声が返ってくる。


「んふふ……じゃ、後でね」

「あ……あぁ……」


 こんなやり取りが、最近の朝の恒例になっていた。


「それにしても……大丈夫? テミス。最近特に辛そうだよね? お仕事忙しいの?」

「ん……? あぁ……仕事が忙しい訳では無いんだが……」

「倒れられる前に言っておくけど、体がしんどいなら無理して店に出る必要は無いからね? いいかい?」

「解っています。体調が悪い訳ではないので、大丈夫です」


 時間は少し進み、朝の営業を終えた食堂で、テミス達は朝食を摂る。朝食の時間帯は基本的に宿泊客のみの利用なのでそこまで忙しい訳では無いらしく、軍団長業務をかけ持っているテミスは朝の仕事は免除されていた。


「病気とかじゃ……ないよね? 怪我はもう治ったみたいだし……」

「……本当に大丈夫だ。その……心配をかけてすまない……」

「んや……テミスが大丈夫って言うなら良いんだけど……テミスの『大丈夫』ってあんまり信用できないんだよねぇ……」

「っ……」


 朝食を頬張りながら、食卓を囲むアリーシャ達の視線がテミスに注がれた。

 別段無理をしているつもりは無いのだが……。


「うん。でも、本当に気を付けてね? 少しでも辛かったら言うんだよ?」

「ああ、解った。約束する」

「……アリーシャ。しっかり見てるんだよ。また町の広場で倒れられたらコトだ」

「わかってるっ!」

「うっ……」


 一足先に食べ終えたマーサがそう告げると、アリーシャは満面の笑みを浮かべながら返事と共に敬礼を返す。

 しかし、最近は特別朝が弱くなったのも事実で……。私の部屋の鍵をアリーシャが携帯する程度に世話をかけている身としては、何も言い返す事ができない。


「…………」


 続いて食事を終えたアリーシャの皿を眺めながら、テミスは無言で思考を巡らせる。

 恐らくだが、この変化はあの力を発現させたせいだろう。

 不死鳥の炎で蘇生した時のような気怠さはもう無いし、傷の痛みも完全に完治している。ならば、残っている変化と言えば能力(コレ)くらいしかない。


「……どしたの? 顔、怖いよ?」

「ん? あぁ、毎朝申し訳ないと思ってな……」


 アリーシャに顔を覗き込まれ、テミスは我に返った。睡眠障害などと言うレベルのものではないが、アリーシャに世話をかけてしまっている現状は、何とかしなくてはなるまい。


「ん~? 気にしなくていいよ。むしろ、嬉しいし」

「……嬉しい?」


 しかし、テミスの思いとは裏腹に、アリーシャは明るい笑顔を浮かべて頷いた。


「うん。テミスは毎日頑張って私達を守ってくれてる。だから、私はテミスに無理して欲しくないし、ゆっくりと休んで欲しい。むしろ、朝起こすくらいで力になれるならぜ~んぜん! ど~んと頼って欲しいくらいだよっ!」


 アリーシャはそう告げると、テミスの前の空いた皿を手に取ってその場でクルリと回る。そして、得意気な笑みを浮かべて言葉を続けた。


「寝起きのテミス、妹を起こしてるみたいですっごい可愛いし」

「っ…………」

「んふっ……」


 テミスの顔が沸騰したかのように紅くなるのを確認すると、アリーシャは笑みを深めてカウンターの方へとそのまま歩いていった。


「…………姉……か……」


 その背を眺めながら、テミスはボソリと呟いたのだった。

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