表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第29章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1997/2318

1927話 密やかな出航

 ロロニアの部下によって案内された先には、彼等湖族の船の影に隠れるようにして一隻、小さな舟がさざ波の上を揺蕩っていた。

 大きさは小型のクルーザー程だろうか。

 彼等の駆る大型船の傍らにあるせいで正確な大きさを測ることは困難を極めたが、手漕ぎのボートで渡る覚悟もしていたテミスとしては、十分過ぎる代物だった。


「……来たか。準備は万端だ。いつでも出せるぜ?」

「助かる」


 テミス達が船の傍らへと歩み寄ると、船の上で何やら作業をしていたロロニアは、静かな笑みを浮かべて口を開く。

 それに対して、テミスはただ短く言葉を返しただけで、ロロニアの部下が渡し板を用意する前にヒラリと大きく跳躍すると、スタンと軽い音を立てて船の上へと跳び乗った。


「ペッツ。案内ご苦労だった。お前は本船へ戻って休め。わかっちゃいるとは思うが、この事は他言無用だ。誰にも……な?」

「ッ……!! へへ……勿論でさぁ……!! 俺は何も見ちゃ居ねぇし聞いちゃいねぇ。全部忘れやす……!! ですが……その前に一つだけ……」

「ン……?」


 気迫を載せて告げたロロニアの言葉に、テミスをここまで案内してきたロロニアの部下、ペッツはぶるりと全身を震わせて頷きを返すが、その言葉の通りすぐに身を翻す事は無かった。

 代わりに、くぐもった声で前置きを残し、大きく息を吸い込んでから船へと飛び乗ったテミスへと視線を向ける。

 視線に敵意は無い。

 瞬時にそう判断したテミスが身構える事無く視線を返すと、ペッツはニカリと輝くような笑顔を浮かべ、僅かに震える静かな声で口を開いた。


「姐さん。先の戦いでの戦いっぷり、凄かったです。俺ぁすっかり惚れ込んじまった。でも俺はバカだから、姐さんたちが何をしようとしているのかなんてわかんねぇ。だから船長の命令どおりにきれいさっぱり忘れやす。けれど、これだけは言わせてくだせぇ……どうか、良き戦をッ……!!」

「っ……! フ……中々に可愛げのある奴じゃないか。お前の部下らしくもない」


 船の傍らから意志の籠った強い瞳でテミスを見据えたペッツは、たどたどしいながらもはっきりとした言葉でそう紡ぐと、テミスが応ずるのを待つことなくその身を翻す。

 その足取りは、既にテミスとロロニアの乗った船の事など存ぜぬかのようにとても素早く、そんなペッツの背中を見送りながら、テミスは微笑みと共に肩を竦める。

 元より、返答を期待しての台詞ではなかったのだろう。

 いうなれば、遠き存在と偶然の邂逅を果たした折に、胸の内に滾る応援と尊敬を伝える行為だ。


「まだまだヒヨッコだが見所のある奴さ。前の戦いに連れて行ったのが初陣だったからな、思い入れでもあるんだろうさ」

「過分な評価だ。良心が痛むね」

「応とも。ウチの可愛いヒヨッコの心を弄んだんだ。存分に痛めろ」

「クク……お前も同罪だろう? 悪い船長サマだ」

「俺は良いんだよ。船長だからな」


 ペッツが立ち去った後の船の上で、テミスとロロニアは顔を見合わせてクスリと笑い合うと、悠然とした態度で軽口を叩き合った。

 この計画を遂行するにあたって、ロロニアはテミスに協力する条件として、思惑を全て包み隠さずに語る事を要求した。

 その上で、ロロニアはこうしてテミスに協力している、共犯者とも言うべき存在だ。

 とはいえ、そこにはロロニアたち湖族自身の強かな損得計算もあるのだろうが……。


「それで……? 本当に行くのか? そんな重装備で」

「必要な事だからな。それに、白銀雪月花(こいつ)はただの備えだ。いくら巨大な船とはいえ、あの中は大剣を振るうにはちと狭すぎる」

「やれやれ……俺には理解しかねるぜ。ま……俺なんかじゃ及ばねぇ考えがあるんだろうけれどよ。わざわざこんな仕掛けまでする事かねぇ……。普通に話しゃあ良いじゃねぇの」

「それができればこうも苦労していない。ロロニア。お前はあのお人好しを買い被り過ぎだ」

「そうかい。わかったよ、もう何も言わねぇさ。一応言っておくが、何があっても俺は助けねぇからな? ただ船を出すだけだ」

「あぁ。それで良い」


 岸に係留された荒縄を手に、最後の確認とばかりにロロニアが問いかけるが、テミスの答えは至って淡白なものだった。

 如何に言葉を重ねようとも、テミスの意思は変わらない。

 そう察したロロニアが、手に携えていた荒縄を一気に解き放つと、支えを失った船がゆらゆらと波に揺られながら、ゆっくりと岸から離れていく。


「じゃあ、出すぜ。魔力を注いでくれ。最初は潜伏航行だ」

「了解」


 船が自由になったことを確認したロロニアは、キリリと引き締まった表情でテミスへ告げると、指示に従ったテミスが船へと掌を翳し、魔力を注ぎ始める。

 そんな二人を乗せた船は、音も無く水面を滑るように動き始めると、ひっそりと暗闇に紛れて軍港を後にしたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ