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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第29章

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1993/2320

1923話 黒き思惑

 己が内の方針を定めたテミスは、足早に戦艦を後にした。

 元よりこの船は、テミス達の旗艦の役を担う船なのだ。たとえフリーディア達の与り知らぬ乗船だったとしても、先の戦いを共にした者達はだれも、艦内を闊歩するテミスを咎める事は無い。

 故に退艦するときは、悠々と甲板まで歩み出でて、ヒラリと身軽に飛び降りたのだ。

 ともあれ、現状の戦力が大きく不足しているのは確かな事だし、仮拠点であるあの村をもう少し整えない事には、次の段階に移ることは不可能だろう。

 やらねばならない事は山積み。

 だけどテミスには一つだけ、どうしても早急に確かめなくてはならない事があった。


「どうせならこの際だ、上手く利用したい所だが……」


 村へと戻る前に、港からかすかに見える巨大な船影を眺めながら、テミスは静かな声で呟きを漏らす。

 この島の近くに沈めたあの巨大戦艦。

 もしもアレの砲撃機能が生きていたとしたら、フォローダの町は兎も角この島は間違い無く射程圏内に収まるだろう。

 そうなってしまえば最後。始まるのはあの小さな島と化した巨大戦艦を、どちらが先に占領する事ができるかの奪い合いだ。到底パラディウム砦を再建している余裕など無くなってしまうだろう。

 如何にテミスと言えども、肉体が一つしかない以上は、二つの事柄を同時に遂行するのは不可能だ。

 だからこそ、比較的手透きの今のうちに、懸念事項を潰しておきたいのだが。


「好機は今だが、それではこちらが後手に回る羽目になる」


 嘯きながらテミスはガリガリと前髪を掻き上げると、忌々し気に舌打ちをした。

 巨大戦艦はこの島とは異なり、あくまでも沈没しているだけ……いわば固定すらすることなく置いてあるだけの物体に過ぎないし、今度は逃げ帰ってくる場所も離れている。

 そういった諸々の要素を考慮すると、導き出される最善はテミス単独での潜入調査になるのだろうが、あの調子ではユナリアスとフリーディアが許可するとは到底思えない。

 ならばこっそりと、いちいち伺いを立てるまでもなく、独断でやってしまえば良い。

 しかしそうなると、赴く好機は二人が眠りこけている、まさに今この瞬間となる。


「チィ……。今からでは流石に仕込み(・・・)が間に合わん……」


 ユウキを『使う』のならば、反対意見を捩じ伏せる程度の成果が必須だ。

 だが成果を立てさせようにも、ついさっき情報を仕入れたばかりの今では、如何に妙案があろうとも、何をどう足掻いた所で間に合うはずも無い。

 この場で選ぶ事ができるのはどちらか片方だけ。

 仮拠点としている村へと帰り着くまでの間、テミスは必死で考えを巡らせてみるも、結局うまい代替案が浮かぶ事は無かった。


「やれやれ……参ったね……」


 深いため息を吐いてから、テミスはゆっくりとした足取りで仮拠点の中を練り歩くと、とある天幕の前で足を止める。

 その入り口には、酷く眠そうな表情で番を務める白翼騎士団の騎士が居て。

 恐らくは彼も昨夜の作戦に参加していたのだろう。

 テミスが眺めている僅かな時間の間にも、大きな欠伸を何度も噛み殺し、ぐしぐしと目を擦っていた。


「フッ……。随分と眠そうだな?」

「んぁ……あぁ……。参るよ、ホント……。一晩中駆けずり回ったってのに、ほんの少し休んだだけで交代の時間だったんだ……って……」

「災難だったな。同情するぞ」

「ッ~~~!!!?!? し、しし、失礼……ッ……!!! あ~……こ、こんな時間に何の用です?」


 ゆっくりと歩み寄ったテミスが穏やかな口調で話しかけると、騎士は再び大きな欠伸をしながら間延びした声を返した後、涙を溜めた目でテミスを見止め、そのまま大きく見開く。

 しかし、今のテミスは白翼騎士団に客将扱いで同行しているだけの傭兵。

 誰の耳目があるやもわからないこんな場所で、ファントの町で出会ったような態度など取れるはずも無く、騎士は僅かに声を震わせながら、『テミス』ではなく『リヴィア』として応じてみせた。


「少しばかり、用意したいものがあってな。少し協力してもらいたいんだ。なぁに……悪いようにはしない」

「あ……あぁッ……! な、何を……しろと……?」

「ククッ。簡単な話だ。お前は今から、その天幕の中で仮眠を取る。物資の貯蔵庫代わりの天幕だから寝心地は良くないかもしれんが、今のお前には値千金の時間だろう?」

「う……嘘だ……! 俺は誉れある白翼騎士団の一員……! そのような誘惑に、く……屈して任務を放り出す訳には……!!」

「心配するな。時間になれば起こしてやるし、その間の代わりは私が務めてやる。ただまぁ……そうだな……。予備の剣が一振り欲しくてな、鍛練馬鹿のフリーディアには知られたくないんだよ」


 強烈な眠気を前に揺らぐ騎士に、テミスは次々と囁くように甘言を並べ立てた。

 一つも噓は言っていない。

 仮眠を取らせてやるのも仕事の一つだし、その間の代役を務めるのもやぶさかではない。

 そして、フリーディアが鍛練馬鹿である事と、この天幕の中にある剣をテミスが密かに欲している事も。


「っ……! た、鍛練……なら、まぁ……わかる。特に貴女が相手だと、フリーディア様は熱くなるからな。わかった」

「取引成立だな。ホレ、入った入った」

「正直、助かった……。もう……眠くて……眠くて」


 ニヤリと悪どい微笑みを浮かべるテミスに、騎士は逡巡を見せたものの眠気に抗う頭で頷いてみせる。

 そんな騎士に頷きを返して、テミスは手をひらひらと振りながら、いそいそと天幕の中へと滑り込んでいく騎士の丸い背中を見送ったのだった。

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