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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第29章

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1988/2329

1918話 真昼の暗躍

 騒がしい夜は過ぎ去り、うめき声の漏れ聞こえる朝を越え、時刻は昼過ぎ。

 今日も煌々と島を照らす太陽が天頂へと上り詰めた頃、テミスはフリーディア達の指揮の元で防衛の任に当たっていた兵たちへ休息の命を出し、独り静まり返った仮拠点に佇んでいた。

 残った戦力は僅か一割にも満たず、今この瞬間こそが、テミス達の部隊が最も脆弱な時だろう。


「……さて。そろそろ、寝静まった頃かねぇ」


 穏やかに押し寄せる波の音に耳を傾けながら、テミスは悪どい顔で微笑むと静かにそう嘯いた。

 白翼騎士団も蒼鱗騎士団も、厳しい訓練を受けた兵士達に違いは無い。だからこそ、命令さえあればたった一晩、厳戒態勢を維持しただけで戦闘不能になどなりはしない。

 しかし、いくら鍛え上げたとて人間である事に変わりはなく、夜の闇を見通さんと気張った疲労は確実に蓄積する。

 訓練を受けた彼等は、その疲労に耐える術を持っているだけで、決して無かったことにできる訳ではないのだ。

 故に。夜間指揮を執り続けていたフリーディア達の疲弊が頂点に達した頃を見計らい、休息という名の甘言を用いて指揮権を収奪した後は、旗下の者達の背を押してやるのは容易い事だった。

 そして、一度休息せよと命が下ればこの通り、如何に精強な騎士達とは言え無抵抗な赤子同然な訳で。


「悪いなフリーディア、ユナリアス。これ以上後手に回る訳にはいかんのだ。お前達は気に入らんだろうが、少しばかり強硬策を取らせて貰う」


 今や眠りこけているであろう二人へ向けて囁くように告げると、テミスは静まり返った仮拠点に背を向けて歩き出し、軍港へと足を向けた。

 当然。夜通し任務に就いていた湖族たちや、船の操り手たる蒼鱗騎士団の面々も今はテミスの出した命によって休息を取っていて。

 パラディウム砦へと道の続くこの軍港もまた、人の気配すら感じられない程の静寂に包まれている。


「よし……!!」


 周囲に人の気配が無いことを確認したテミスは、一息を吐いてから低く身を屈めると、接岸された旗艦を目がけて大きく跳び上がった。

 無論。テミスの脚力を以てしても一足跳びに甲板まで飛び上がる事は不可能で、下ろされた錨に繋がる鎖や、隣に停泊している船の壁を蹴って駆け上がり、軽い音を響かせながら甲板へと着地する。

 そうして侵入を果たしたテミスたちの旗艦は、流石に全員が眠りこけている訳ではないようで、甲板で警備に立っている者こそ居ないものの、多くの人の気配が感じ取れた。

 だが、テミスの侵入を目撃した物は誰一人として居らず、一度侵入を果たしてしまえばこちらのもので。


「ッ……! 貴女は……!」

「ご苦労」

「お疲れさまですッ!!」


 コツコツと足音を響かせながら船内へと向かったテミスは、幾度か船に詰めている蒼鱗騎士団の者達とすれ違うも、誰もが姿勢を正して見送るばかりで、侵入を咎める者は一人として居なかった。


「杜撰な警備だと怒るべきか、友軍の代理指揮官の顔までよく覚えているものだと褒めるべきか迷うところではあるな……」


 ほどなくして、目的地である営倉のある区画へと辿り着いたテミスは、苦笑いを浮かべて嘯くと、監視の役を担っている騎士の姿を確認する。

 しかし生憎、そこに配されていた騎士は白翼騎士団に属する騎士ではあったものの、テミスと直接面識のある者では無かった。


「ふむ……だが、考えようによってはそちらの方が好都合……か」


 例えばミュルクのように、顔見知りの騎士であれば突然この場にテミスが姿を現しても驚く事は無いだろう。

 けれど、顔見知りであればあるほど、フリーディアの与り知らない独断専行である事を嗅ぎつけられる可能性は高く、彼女の忠犬たる騎士達がいかような行動に出るかなど容易に想像が付く。


「っ……!」

「ご苦労。勇者様(・・・)ご一行(・・・)の様子はどうだ?」

「貴女は……! ハッ……! 特に変わりはありません。相変わらず取り巻きは文句ばかりですが、勇者ユウキの様子は変わらず……」

「そうか」


 突然姿を現したテミスに監視役の兵はビクリと肩を震わせて姿勢を正すと、はきはきとした口調で淡々と投げかけられる質問に答えを返す。

 ノラシアスから身柄を預かったユウキ達は今、この営倉に幽閉されている。

 尤も、戦艦には上級捕虜を遇する客室など設えられてはいない為、ひとまずの措置ではあるのだが、テミスとの戦い以来自失しているユウキ以外の者達からは非難轟々らしい。

 ともあれ、こうしてわざわざテミスが訪ねてきた理由はユウキだけで。

 監視役の騎士の報告に生返事を返しながらテミスが、扉に設えられた小さな窓から営倉の中を覗くと、以前見た時よりも少しやつれたユウキが、何をするでもなくぼんやりと座っていた。


「……私は少しコイツと話がある。悪いがしばらくの間、この区画に誰も立ち入らせないでくれ」

「は……? あ……はいッ!! い、今鍵を開けますッ!!」

「フッ……」


 ユウキの姿を確認したテミスは、小さなため息とともに扉から身体を離すと、直立したまま待機していた見張りの騎士に指示を告げる。

 すると、見張りの騎士は一瞬面くらったかのように不可解な表情を浮かべるも、慌てた様子でコクリと頷き、腰に結わえた鍵をカチャカチャと弄り始めた。

 そんな騎士の姿を横目で眺めながら、テミスはユウキの居る営倉を見据えて、静かに薄い笑みを浮かべたのだった。


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